美容に狂って抜歯した結果
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:杉原 亜友美(ライティング特講)
「親知らずを抜くと顔が小さくなる」という都市伝説のような話を聞いたことはないでしょうか?
10年ほど前に今ほどインターネットで簡単に情報を得ることができなかったころ、友人からこの話を聞き、当時の私は美容に狂っていたので、聞いたその日から、すっかりこの話で頭がいっぱいになり「一刻も早く親知らずを抜かないと!!」と、勇み足でかかりつけの歯医者さんに駆け込みました。担当医に虫歯でもない親知らずを抜きたい理由を伝えたところ、虫歯ではないにしても、歯の根本が少し曲がっているからもっと大きい病院に行ってくださいと、心なしか呆れたような、めんどくさそうな様子で、市民病院の口腔外科へ紹介状を書かれ門前払いをくらいましたが、一度決めたら突っ走ってしまうイノシシのような性格の私は、はやる気持ちを抑えられず歯医者さんからの帰り道に市民病院へ電話し最短で予約できる日を押さえ、その日をまだか、まだかと待ちわびました。
待ちに待った市民病院の予約の日、担当してくれる女性の歯科医に向かって私は正直に「親知らずを抜くと顔が小さくなると聞いたので、全部抜いてください!」と申し出ましたが、「あ~、そういう噂あるけど変わりませんよ、どうしますか? それでも抜きますか?」と、私の顔を小さくしたいと言う不純な動機に難色を示しつつも、絶対に抜きたい、今日今すぐにでも! という私の態度を見て「いっぺんに2本抜くと入院になるので、1本ずつ抜いていきましょう」と、その日1本抜いてくれることになりました。
歯科用椅子に座り、顔全体に赤茶色の消毒を塗りつけられ、こんな本格的な手術みたいにやるのか~、なんて考えながら待っていると、抜歯の支度をしていた女性の歯科医が、「あの~、血とか飛んで汚れちゃうかもしれないけど、いいですか?」と、私の服装をいぶかしげに上から下まで見ながら言いました。
顔を小さくしたい! という気持ち一つで来ていた私は、抜歯とはなんぞやと深く考えていなかったので、その日の服装は今から海辺のオープンテラスのカフェに行くかのような、白のTシャツに白のスキニーデニムという、ホワイトコーディネートで病院へ来てしまっていたのです。
場違いだな、と気付くのと同時に、「え、抜歯って、そんなに激しいの?」と、軽い気持ちで来てしまった私は縮み上がったけど、こんなにごり押しで来てしまったのだから、今更やめときますとは言えず、さながら“まな板の上の鯉”状態で、歯科用椅子の上で震えて抜歯の時を待ちました。
いざ抜歯が始まると、麻酔が効きづらく、引っ張られる感じが痛い、そして痛さよりも怖くてたまらなかった。虫歯ではなかったものの根っこの曲がり具合が思いのほか抜きづらく難航し、何度も麻酔を追加して引っ張られてるうちに、バキ! っと、音がしたと思ったら、女性歯科医の「あ〜折れちゃった」という声が聞こえたのです。
それが聞こえた私は、抜歯が始まる前に言われた「血が飛ぶかもしれませんよ」というセリフが頭の中を駆け巡り、ギュッと瞑った瞼の裏には私の白いTシャツに血が飛び散っているイメージが湧いてきて、サーッと血の気が引いてしまい、ピーッと耳鳴りがしてきて、恐怖のあまり貧血を起こし意識が朦朧としだしてしまいました。
様子が明らかにおかしくなった私に気付いた女性歯科医が、私の肩を激しく叩き「杉原さん?! 大丈夫?! 返事できる?! ちょっと誰か! 血圧計持ってきて!」と周りの看護師さんに指示し、私の周りはまるで大手術中のトラブルかのように騒然とし、一旦抜歯は中止。左腕で脈を、右腕で血圧を測られ心配そうな看護師さんに囲まれながら、私は目元のタオルの隙間から、ちらりと胸元を見てみたところ、血は一滴も飛び散っていませんでした。血が飛び散っていなかったので安心したからか、20分くらいで貧血は回復し、残りの折れた歯も無事抜けて、最後はベッドで休ませてもらい、フラフラになりながら帰りました。
「親知らずを抜くと顔が小さくなる」という話だけで頭の中がいっぱいになり、抜歯とは何かをろくに考えもせず突っ走り、場違いなホワイトコーディネートで病院に行った自分が悪いなと反省するとともに、「血が飛ぶかもしれませんよ」という言葉の先入観で、歯を1本抜くだけのことが大事になるなんて、人の先入観って怖いな~と感じた出来事でした。
今でこそ、情報は膨大に手に入る時代になりましたが、それでも私はきっとまた、なにかやりたい治療や施術があったら、ろくっすっぽ考えずに突っ走ってしまうことでしょう。
さて、こんな思いまでして親知らずを抜いた当初の目的である、顔が小さくなるというのは、見ての通り丸い顔のままなので、意味なしでしたね、とほほ……。
***
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