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自分のロゴマーク「家紋」を知っていますか?

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記事:川瀬健二(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「どんな結婚式でも構わないが、できることなら仏前結婚式にしてほしい。」
妻の実家は高野山真言宗のお寺で、亡くなったお義父さんは当時要職についていた高僧だった。そのお義父さんが私の両親に気を遣って「できることなら」と口にした言葉に、切実な願いを感じたことを覚えている。私の両親がそれを承諾し、港区高輪にある東京別院というお寺で式を挙げることになった。白装束のお嫁さんが神社で挙式する神前式は知っていたが、仏前式はそれまで見たことも聞いたこともなかった。
 
そんな経緯もあって、招待状の作成をブライダル会社に発注するわけにもいかず、妻と相談して自分たちでデザインしようという話になった。ウェディングドレスを着て教会で式を挙げるわけではないので、寺院にはどんな招待状が適しているのかと考えていた時に、妻からこんな提案があった。
 
「せっかくお寺で式を挙げるのだから、招待状に両家の家紋をデザインしよう。」
「か、家紋?」 思わず聞き返してしまった私。それもそのはず、私はそれまでの人生で一度も家紋を意識したことがなかった。そして結婚式の招待状を機に、自分の家紋を知ることになったのだ。
 
あなたは自分の家紋を知っているだろうか?
実家に蔵があれば家紋を見つけることができるが、今の世の中で蔵がある家のほうが少ないだろう。結論から言うと、母親に聞くことをお勧めする。冠婚葬祭の時に着る黒い留袖を持っていれば、その袖部分に家紋が入っていることが多いからだ。そんな着物も残っていないという方は、先祖のお墓に行くとよい。きっと墓石に家紋が彫られている。
 
ではこの家紋はいつの時代から、どのような経緯で生まれたのだろうか。諸説あるが、家紋が誕生したのは平安時代の後半といわれている。当時の公家たちが自分の所有する牛車に独自の文様をつけ、ひと目で誰のものなのかが分かるようにしたことが家紋の始まりとされている。最も有名なのは天皇家の家紋「菊花紋章」だ。花びらが16枚あることから「十六八重表菊」とも呼ばれ、日本の国章に準じる紋章とされている。今でもパスポートや国会議員の議員記章に使われており、日本人なら一度は目にしたことがあるはずだ。
 
鎌倉時代から武士の世が始まると、戦場で敵と味方を一瞬で識別する必要があり、武家が家紋を使うようになった。戦場で目立つように陣地に掲げる陣幕や旗、鎧兜にも、家紋が付けられた。遠くからでも自分の存在を明らかにする家紋は、シンプルで印象的なデザインが多かったようだ。徳川家の「三つ葉葵紋」は葵の葉を3枚バランスよく配置した意匠が特徴だ。徳川家康が征夷大将軍に就任したことで、三つ葉葵紋は天下を治める将軍家の家紋として権威の象徴となり、江戸幕府は一貫してこの紋だけを使用した。
 
戦乱の世が終わり江戸時代になると、町人も家紋を使うようになりました。当時は苗字を名乗ることを禁止されていた庶民にとって、家紋を持つことは禁止されていなかった。町人たちの識字率が低かったことも起因していたと考えられている。やがて家紋専門のデザイン業まで登場するほど、庶民へ広く普及していくのだが、それには理由があった。
 
士農工商の「農工商」が発展した江戸時代、例えば「工」にあたる職人にとって、家紋は製品の品質や責任を示す重要な役割を持つようになっていった。同じく「商」にあたる商人にとっても屋号はとても大切なもの。彼らはお店の屋号を家紋にしていき、営業中であることを示すために店先に掲げる暖簾に家紋を染め出した。
 
職人や商人にとって、家紋はブランドを象徴するロゴマークとなっていく。自由にデザインできる家紋を、庶民はお洒落なマークとして楽しんでいたのかもしれない。やがて明治時代以降、三菱や住友などの財閥を中心に、家紋がそのまま企業ロゴに用いられているケースも増えていった。三越や高島屋などの百貨店のロゴなら、すぐに思い浮かぶ人も多いだろう。
 
企業のロゴマークはともかく、家紋は自分の血筋や家の繋がりを表すものとして古くから使われてきた。家ごとにロゴマークを持ち、一族で継承していくのは、世界でも日本だけだと言われている。しかし一方で、少子化、核家族化や未婚率の増加などを背景に、一軒家やお墓はいらないという選択をする人が増えている。また母親から留袖のような着物を受け継ぐことも減っているため、日常で家紋を表示するアイテムや機会がないのが実情だ。
 
日本の家紋は、自分のルーツやアイデンティティを示す象徴だ。これを後世まで遺していくためにも、江戸時代の庶民のようにお洒落に楽しむ文化を現代に復活させることはできないだろうか。同じアイテムが集まってしまう場所で、自分のものをひと目で識別できる利点がある。例えば空港の手荷物受取所、ゴルフ場や職場の傘置き場で、自分のバッグや傘をいち早く探し出すことができるだろう。ランドセル、帽子、運動着や上履きなど、同じものを持って集まる学校もよいだろう。
 
「名前だとダサいけど、家紋ならエモい!」
このように感じる若い人も出てくるかもしれない。お洒落と感じさせるにはクリエイターの力が必要になるが、家紋という日本の文化をもう一度現代に流行らせてみたいと思うのだ。
 
 
 
 
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2024-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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