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未来から流れてくる謎のパーツを拾え


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:しんがき佐世(さよ)(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「時間は、どこから流れてくると思いますか?」
 
講師が、わたしたちに尋ねた。
 
主婦、会社員、自営業、パート、休職中、求職中、フリーター。
年齢も立場も異なる人が参加する、心理学講座の初日。
わたしは主婦で、パート勤務だった。
そして劣等感の塊だった。
 
なりたいものが、わからない。
やりたいことが、わからない。
わたしは、自分がわからずにいた。
 
映画やドラマに心をふるわせ、なりたい姿が一瞬よぎることはあった。
むかしから「心」を扱う仕事に憧れていた。
だけど、なれるかどうかわからない。
 
転職を繰り返した履歴書はパッとせず、中途半端な職歴のわたしにはそれ、なれそうもない。
ならば、わたしにもなれそうで、かつ、やりたいことはなんだ?
わからない。
振り出しに戻って「わからない」がループ。
30代後半になってもぐるぐるしていた。
 
ある日、本屋で小さな広告と目が合った。
「わからない」を打開したくて、その心理学講座に申し込んだ。
これが大きな転機になると、当時のわたしは思ってもみない。
 
 
講師は笑顔の大きな人だった。
期待が高まる。
わたしが抱える「わからなさ」をつぎつぎと晴らしてくれそうだった。
 
 
わたしは、職場でもプライベートでも「よく質問する人」だった。
仕事も、生活の見通しも、お金の不安の正体も、わからない。
わからないづくしの不確かな未来を、どうすれば確かなものにできるのか?
わからない。誰か教えてください。
 
自分の外に答えがあると信じ、なんでも質問した。
質問する姿は、きっと前向きでマジメな態度に見えるだろう。
 
だけど化けの皮は、講座初日にあっさり剥がれた。
 
初日、座学とワークで半日みっちり学んだ。
わたしはわからないことをノートに書き留め、あとで講師に質問しようと待ちかまえていた。
 
質疑応答の時間になり、前列に座った女性が数人、人生の課題について質問する。
「できるかどうかわからないのですが、どうやったらいいですか」
「行動しようと思っても、うまくいくかわからないです」
 
講師は、笑顔の代わりに、しずかな真顔になった。
 
「質問には2つ種類があります。
理解するための質問と、不安を解消するための質問。
みなさんの質問はどちらですか?」
 
次に手を挙げる準備をしていたわたしは、さっと腕を引っ込めた。
見透かされたようだった。
わたしが訊きたかった趣旨は、こうだ。
 
「起業したいと思うのですが、こんなわたしでも、できるでしょうか」
 
確かなら動くけど、不確かなら動けない。
不安を解消してほしい。
「わからない」をふりかざす自分が恥ずかしくなった。
 
 
参加者を見渡して、講師が再び笑った。
ホワイトボードに「過去」「今」「未来」と書く。
 
「時間は、どこから流れてくると思いますか?」
 
参加者の一人が答えた。
 
「過去から」
 
講師はうなずき、「実は、未来からなんです」と言った。
 
「未来から流れてくる川をイメージしてください」
 
一同ぽかんとした。
なんの川? 未来?

「川の上流から、なにか流れてきます。
黒い丸がひとつ。
それが何か、あなたにはわかりません。
でも拾ってみます。
また、黒い丸がひとつ流れてきます。拾います。
すると次は、白い手袋が流れてきます。
わからないけど、拾います。
川上から流れてくるパーツを、あなたは集めていきます。
あるとき集まったそれらが、世界一有名なネズミの形だとわかります」
 
ハッとした。
会場にいた誰もが、あのテーマパークで夢の象徴を担うネズミさんを脳内に浮かべていた。
 
講師の通る声が会場内に響いた。
 
「ネズミは、あなたが求めるものの比喩です。
ぜひ、あなたが求めるものに置き換えてください。
黒い丸がなにか、わからないからと手を伸ばさないでいると、望むものは手に入りません。
わからなくても動くこと。
「自分の理解の外」に向かう勇気を持ってください。
”納得しないと動かない” ”わからないと動けない” パターンを持つ方は、納得を手放して動いてみませんか」
 
初日終了後、誰とも口をきかずに歩いて帰った。
わからなさへの耐性がゼロ、すぐに質問し不安を解消したがる自分の幼さに出会った日だった。
 
「未来の川から流れてくるものを、わからないまま拾う」
それはつまり、不確かさを手にする勇気だった。
 
講座を通して、わたしは「納得しなくても動く」訓練を始めた。
やったことないことを「やったことないから」で押しやらず、とにかくやってみた。
 
心理学の実践を深めるうち、理解の外に向かう行動は、世界を広げると知った。
逆に、確かなものだけを生きる態度は、世界を小さく完結させてしまう。
その繰り返しが、変わり映えのしない今だった。
未来の自分が「こういうことか!」と全容を知るために、今の自分はよくわからないものにも取り組まなければならない。
 
「未来から流れてくる川」に目を向けるようになった。
誰かの何気ない痛い一言。
ふと手に取った本。
できるかどうかより、やってみようと思ったこと。
 
 
講座には、いろんな人たちがいた。
わたしと同様「わからないと動けない」人がいる一方で、「やってみなきゃわからない」と未知を拓く軽やかな人たちがいた。
劣等感が刺激され、体をふるわせる日があった。
わからないままヤケクソで学び続けた。
そのうちに、心をふるわせる瞬間が増えた。
 
これらが何の意味を持つのか、わからなかった。
学んだところで、人生がどう変化するかもわからなかった。
 
そうして10年経ち、なりたい自分に近づいていると気づいた。
 
起業し、コーチングやコンサル、企業研修や個人セッションなどで、相手が目指すものへ伴走する対人援助で、他者の心と行動をサポートしている。
あの頃の未来だったわたしは、心を扱う仕事をしている。
 
「転職、うまくいくでしょうか」
「部下とのコミュニケーション、どうしたらいいでしょうか」
 
相手が質問する姿が、あの頃のわたしに重なる。
アドバイスを求める問いか、不安を解消し安心を得たい問いかと見極めて、あえて答えないときがある。
現時点でわからないことをわかろうとするような、焦りや不安からの問いには、かわりに「未来の川」の話をする。
 
あなたの目の前に、川が流れています。
未来から謎のパーツが流れてきます。
 
「これがなんになるの?」
 
今はわからなくても、いつかわかる日がやってくる。
上流からそれを流す人は、未来のあなたです。
 
自信が欲しい人には、自信のパーツが。
天職が欲しい人には、天職のパーツが、それとはわからないカケラで流れてくる。
二十代の頃はわからなかった物語の真意に、年を重ねて気づくのに似ている。
 
 
未来から流れる川に、兆しがやってくる。
 
不思議な流れで引き受けた依頼や、思わぬルートで出会った人。
理由もわからず惹かれるもの。
名付けようのない無意味に思える時間。
 
わからないまま、今できることをやる。
「わからない時間を生きる」流れが人生にはあるらしい。
 
「わからなさ」に耐える力を「ネガティブ・ケイパビリティ」というそうだ。
不確実なものをそばに置き「いつかわかるはず」と未来に期待する力。
 
「わからない」は、可能性だ。
未来が閉じられていない証だ。
 
 
「そうだ。これが欲しかった」
手にしたものの正体がわかる日。
 
その日がくると知っている、未来のあなたが語りかける。
今はわからなくて大丈夫だから、手を伸ばせと言う。
 
 
 
 
***

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2024-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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