やさしさの世界線
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:後藤尚子(ライティング・ゼミ年末集中コース)
わたしはパラレルワールドに住んでいる。
パラレルワールドとは、今いる世界線じゃない別の世界線があって、それが無限と言ってもいいほど複数あり、同時に存在している、という概念。
スピリチュアルやオカルト界隈ではよく散見される。人間は、自分がいるパラレルワールドを選べるという。
いや、そんなものはないでしょう。人間の住む世界はひとつで、自由に選ぶことなんてできない。そう言いたい人もいるだろう。でも、わたしは実際にパラレルワールドを渡り歩いてきた。住む世界線を何度も選んでいる。
例えば、戦争というものをどうとらえてきただろう。
わたしが「戦争」を初めて知ったのは、幼稚園くらいの頃だったと思う。
日本は、昔アメリカと戦争をしていたんだよ、と聞かされた。それは国と国とのケンカなのだ、と。ケンカは良くない、ということはなんとなく知っていたのだけど、国と国のケンカと、わたしとトモミちゃんのケンカが全く結びつかなかった。
聞いた情報をただ受け取るだけの幼年期。自分とは関係ないことが、自分の遠いところに散らばっている世界線。
少し大きくなって、学校で映画「ゾウのいない動物園」を見た。
戦争が激しくなり、人間の日々の食べ物にも事欠くようになると、飼育されていた動物たちはあっけなく殺される。だが、ゾウのトンキーとワンリ―の硬い皮膚にピストルの弾は通らない。そこで毒入りのジャガイモを与えられるが、賢い2頭のゾウはそのジャガイモを見抜き、長い鼻でポイっと捨てて毒のないジャガイモだけを食べてしまう。困った飼育員たちは2頭のゾウに食べ物を与えず、餓死させようとする。お腹が減って、餌をくださいと、必死に芸をする2頭の象。飼育員たちも好き好んで餓死させようとしているわけではない。わが子同然のゾウ達を見殺しにしなければならない苦悩。子ども心に、ゾウと飼育員さんたちの痛みがビシバシと感じられ、戦争はいやなものだ、苦しいものだ悲しいものだ、という思いになった。ただただ、感情に翻弄された。
さらにもう少し大きくなると、この世の中の構造をもう少し詳しく知ることとなる。なぜ戦争は起きるのか?それは、自分の意見と違う意見の人を見下し、排除したいからだ。宗教戦争などはいい例だろう。違う神様を信じることが、戦争の原因になる。
キリストが正しい。いや、アッラーが正しい。俯瞰して見れば、どちらが正しいも正しくないもないのだが、つねにテストで正解を求められる日々の中にいたら、すべてのことは正しいことか正しくないことかに振り分けられる。だから、自分が正しい、自分こそが正義、の世界線にどっぷり浸かることはなにも不自然なことではない。
さらにもちょっと大きくなると、意見の対立もさることながら、利害関係が大きく影響するのだということが分かってくる。人々は油田が欲しいのだ。労働力が欲しいのだ。お金が欲しいのだ。だから、彼の土地を奪い、彼の土地に住む人々を服従させるために、戦争を起こす。人間のとどまることのない欲望は、他の生命やその生活、自由や名前さえも蹂躙することに平然としていられるようになる。それは富める者が世界の支配者であり、欲望を満たすことがしあわせだという価値観。それがはびこる世界線。
そして、わたしはそこに嫌悪を覚える。世界は汚い。
だけど今。
ハタと立ち止まる。
戦争は、外側のものなのだろうか、と。
わたしの中に、他者の自由を侵してまでなにかを求める欲望はないのか。
自分が正しい、自分こそが正義、そしてお前は悪だ、と声高に叫びたい衝動はないのか。
冷静に事の次第を見ることなく、ただ湧いて出てくる感情に振り回され、いやな感情から目を逸らしたいという思いはないのか。
わたしの中にも……ある。あるのだよ。世界だけではない。わたしも汚いのだ。
では、そんな自分を消してしまおうか。でも、そうすれば、「排除」の論理になってしまう。また、正義を振りかざした別の自分が現れるだけだ。同じ世界線が永遠に続くだけなのだ。
だから、わたしはそんな自分を受け入れようと思う。汚い自分も、自分の正義を主張したい自分も、感情にもてあそばれる自分も、やさしく受け入れようと思う。
やさしい世界。誰からも非難も排除もされず、おびやかされることなく受け入れてもらえる世界。そんなパラレルワールドにわたしは住みたい。だから、わたしは「世界はやさしい」という証拠を集めることに取り組むことにした。
「世界は厳しく、人々は悲しさと苦しみの中で暮らしていて、争いは絶えない」という世界線から、「世界はやさしく、人々は助け助けられ、与え与えられ、喜びを共有しあっている」という世界線へ移行する。
まずはわたしが。共に行ってくれる誰かがいたら、戦争のないパラレルワールドがもうひとつ増えていくのだろう。
***
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