メディアグランプリ

ある日、息子が救急車で運ばれた


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記事:石黒アキ(ライティング・ゼミ年末集中コース)
 
 
「お母さん、息子さんが事故にあいました」
ある日の夕方、夕飯を作っている私に1本の電話があった。
 
  
私には、14歳と12歳の息子がいる。一言で言うと、長男はおとなしい、次男はやんちゃ、である。
長男は絵に描いたように手のかからない子だ。小さいころは、ほとんどぐずらないし、すぐ寝る子だった。小学校で保健室に行ったことも、喧嘩したことも、いじめにあったりいじめたりしたこともない。成績も優秀で、性格も穏やか、反抗期もそこまでひどくなかった。私は初めての育児で、長男を育てたこともあり、これが普通なのだと思っていた。
だが、次男は違った。小さいころはいつもぐずぐずし、よく風邪をひいた。小学校では保健室の常連、喧嘩にもよく巻き込まれる。学校からもよく連絡が来るし、成績もよくない、反抗的な態度もよくする。
いつも手がかかるのは次男で、時折長男を不憫に感じることもあった。
  
また、次男はちょっとだけ個性的だ。
まず、髪が腰まであるロン毛である。さらさらヘアの自分が好きで、毎朝のヘアセットは女子並にかかる。学校でも女子と女子トークを繰り広げていて、「あのハンドクリームがいいよね、あのヘアコームがいいよね」などと話しているらしい。だからといって、女子っぽいわけではなく、中身はしっかり男の子で、最近はエアガンにはまっている。そして、実はとっても甘えん坊で、(友達には内緒なのだろうが)家では私にべったりである。
  
そんな次男は塾に通っていた。ある日、塾から帰ってくるだろうという時間帯に、電話がかかってきた。
「お母さん、息子さんが事故にあいました」
  
「えっ?」
 
 
その電話は、塾の先生からだった。「とにかく今から来られますか?」
  
事故は幸いにも家の近くだったので、私は走って向かった。現場近くに到着すると、狭い駅前の道にすごい人だかりができていた。その人だかりの中心に、次男が頭から血を出して横たわっていた。
その光景を見た瞬間、私はパニックになった。人だかり、血、横たわっている次男、これらが一気に視界の中に入ってきたのだから、無理もない。
  
実は、私が到着するまでの間に、数々のドラマがあった。
  
まず、事故現場に居合わせたご夫婦が、すぐに次男に駆け寄ってくださったようだ。次男の頭から血が出ていたので、すぐ救急車を呼んでくれた。待っている間、ハンカチで血を抑えて寄り添ってくれていたらしい。また、若い女性たちも駆け寄ってくれて、雨だったので横たわっている彼に傘をさしてくれていた。そして、そこにまた別の女性が通りかかった。
「私、看護師なんです」そう言って、その女性が中心となり、次男のケアをしてくれていた。
  
また、次男が事故に合った時、横には彼の友人がいた。ご夫婦がすぐに次男を見てくださっていたので、その友人は急いで塾に戻り、先生を呼んできてくれたらしい。そこで、私に電話をしてくれたようだった。
  
事故は、単独での自転車転倒だった。私が到着した時には、看護師だという彼女が、「頭から血が出ているけど、大丈夫、切れているだけだから。お母さん、大丈夫よ」と、パニックになっている私に声をかけてくれた。頭から血は出ていたものの、大事に至るような事故ではなかったようだ。
  
私が到着して3分後には、救急車が到着。私はその3分間の間に、看護師の彼女、ご夫婦、次男の友人、塾の先生、周りにいる方々に「ありがとう」を連発し、誘導されるがまま、そそくさと救急車に乗った。
もっと感謝を伝えたかったが、その時間はなかった。救急車に乗った後は、みんなその場をそれぞれ去って行った。
  
  
私はこの事故を通して、感じたことが2つある。
  
まず、1つ目。私はそれまで、日々、あまり地域との密着性がないまま、生活していた。田舎から出てきて、なんとなく、都会って冷たいな、なんて感じることも多々あった。都会で生きていると、周りの人の優しさに触れることが少ない。倒れている人がいても、誰も助けないようなこともあるらしいと聞く。
だが、私がこの日見た光景は違っていた。道行く人が立ち止まり、積極的に助けてくれていた。急いでいたかもしれない、次に用事があったかもしれない、面倒だったかもしれない、それなのに、わざわざ止まってくれた。みんな、温かい人たちだった。今、思い出しても涙が出そうになる。「都会も捨てたものじゃないな」そう思った。
  
そして2つ目。冒頭で話した通り、次男は手がかかる子なのだが、この件を通して、「なんて運のいい子なのだろう」と思った。事故にあって、たまたま、看護師さんが通るか? たまたま、居合わせたご夫婦がすぐに救急車を呼んでくれるか? 思えば彼はいつも運がよかった。
そして、「なぜかいつも誰かに助けてもらえる」というのは、次男の長所だと感じた。実は彼は、すぐに友達を作ることができるタイプで、人懐っこい面がある。きっとこういう彼の性格が、「いつも誰かに助けてもらえる」ことに繋がっているのだろう。大人になってから、生きていきやすい性格だと感じた。
  
 
後日、次男に聞いた話では、周りの人はみんな彼を「女の子」だと思っていたらしい。彼はロン毛なので、無理もない。周囲はみんな「女の子が倒れている」と話し、救急車に電話してくれたご夫婦は、「はい、女の子です」と、性別を聞かれていたときに答えていた。そういえば、救急隊員の方にも、「女の子ですよね?」と聞かれていた。もしかして、彼が女の子供だと思って、みんな気にしてくれていたのかもしれない。どちらにせよ、彼は運がいい。
 
 
 
 
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2025-01-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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