メディアグランプリ

コストコマジック~帰省する子どもを待つ特別な買い物~

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大木朗(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
「ガソリン価格また上がったね。コストコなら20円くらい安いみたい」
長女が帰省する前夜、スマホでガソリン価格を確認していた妻が声をかけてきた。確かにここ最近は近所のガソリンスタンドより、コストコの方が断然安い。週末や平日の夕方になるとガソリンを入れる車の列ができるのも頷ける。
 
「そやね。明日、満タンにしに行こうか」
「あ、そうそう。明日あの子が久しぶりに帰省するから、好きなものを買い揃えておきたいわ」
 
その瞬間、私は気付いてしまった。これは完全に罠だ。ガソリンを入れるだけのはずが、気がつけばカートを押している——いつものコストコマジックの始まりである。しかも今回は「娘の帰省」という強力な後ろ盾がつき。財布の中のお金が震え始めるのを感じた。
 
土曜の朝9時。広大なコストコの敷地に入り、まずはガソリンスタンドへ。すでに多くの車が並んでいたが、この程度なら許容範囲だ。
「やっぱり20円も安いわね。これだけでも年会費の元は取れそう」
妻の言葉に納得しながら給油を終えると、「さあ、買い物をしよう」という魔法の言葉が二人の口から自然とこぼれる。
 
会員証を手に取り、巨大な扉をくぐる。途端に、あの特有の空気が私たちを包み込む。高い天井、整然と並ぶ巨大な商品棚、そして何より、妻の目が輝き始める。週末の朝とはいえ、すでに多くの買い物客で賑わっている。みんな同じ魔法にかかっているのだろう。
 
「まずはパン売り場ね!コストコのクロワッサン大好き」
パン売り場に向かう途中、サンプルコーナーの香りに誘われる。
「あら、このパスタソース美味しそう。試食してみましょう」
一口食べた瞬間、妻の目が輝く。案の定、パスタソースがカートに入った。これが、コストコの罠その1。試食の威力は絶大なのだ。
 
早速、できたての香り高いクロワッサンの12個パックがカートに入る。
「賞味期限が短いけど、これなら冷凍しても大丈夫よね」
「そうだね。あしたの朝食が楽しみだ」
 
パン売り場を後にすると、デザートコーナーが目に飛び込んでくる。ティラミス、チーズケーキ、クッキー類など妻や娘の大好きなデザートの数々。どれも大容量パックだ。
「どれにしようかな……」
「全部は買えないな。でも食べられるかも」
これぞコストコマジックの第一幕。「子どものため」という言葉の前に、財布の紐はどんどん緩んでいく。結局、迷ったが、ティラミス、クッキーがカートに入った。
 
「あ!このスンドゥブ、久しぶりに食べたいわ」
韓国食品コーナーで足を止める妻。パックの箱がカートインした。
 
「このお寿司のファミリーパック、見て!マグロもサーモンも新鮮そう」
「本当だ。これなら夜ごはんにピッタリだね」
「ワサビとガリもちゃんと付いてるよ」
カートイン!!
 
生鮮食品売り場に来ると、目移りが止まらない。
「牛肉もこのボリュームなら、焼肉パーティーできるわ」
「こんな厚切りのお肉、久しぶりに食べたいね」
 
気づけば、カートには見たことのない商品まで次々と積まれていく。これがコストコマジックの真骨頂。「子どものため」が、いつの間にか「これも欲しい」にすり替わっていく心地よさ。
 
フルーツコーナーは、いつ来ても圧巻だ。
バナナとヨーグルトをカートに入れながら、妻が言う。
「あの子、きっと喜ぶわ。朝はヨーグルト派だったものね」
その言葉を聞くと、多少の出費も致し方ないような気がしてくる。これぞコストコマジックの第二幕。子どもの好みを知り尽くした母の選択に、父はただ黙って頷くしかない。
 
レジに向かう前に、妻が花売り場で足を止めた。
「お花も買って帰りましょう。リビングが明るくなるわ」
「そうだね。娘が帰ってくるんだし、特別感が出ていいかもね」
色とりどりの花束から、豪華なミックスブーケを選ぶ。普段なら「贅沢だ」と思うところだが、今日は特別な買い物の日。もう逆らう気持ちもない。帰省する子どもを待つ準備が、こんなに楽しいものだったなんて。
 
1時間後。レジに向かう頃には、カートは既に満載だ。
「よし、これで必要なものは全部かな?」
「ええ、今回はあの子のために厳選したわよ!」
 
妻の「厳選」発言に、思わず苦笑。カートは山盛りで、明らかに「厳選」ではない。というか、これ以上は物理的に入らないというレベルまで積まれている。でも、それも含めて楽しい。久しぶりの帰省を心待ちにする気持ちが、つい買い過ぎてしまう理由になっているのだ。
 
レジに向かって歩き始めた瞬間、背筋が凍る。これぞコストコマジックの最終幕。他のレジ待ちの人々のカートを見渡すと、みんな同じような状況だ。なぜか心が少し和らぐ。
 
「合計で〇〇,〇〇〇円になります」
ガソリンを入れに来ただけのはずが、気づけば大盤振る舞い。妻は申し訳なさそうな顔をするが、私は逆に笑ってしまう。だって、子どもの帰省を心待ちにする両親の気持ちって、こんなものだろう。それに、一つ一つの商品を見れば、確かにお値打ちなのだ。
 
車に商品を積み込みながら、妻と話す。荷物の多さに、SUVですら心もとない。
「ごめんね、ガソリンだけのはずだったのに」
「いいよ。子ども喜ぶだろうし」
「来月は本当にガソリンだけにするわ」
「うん、そうだね」
 
これが、コストコマジックの真髄。単なる買い物じゃない、家族の幸せを買い物かごに詰め込んでいく特別な時間。年会費を払い、予算をオーバーし、必要以上の量を買い、それでも満足して帰路につく。車中では早くも、どの料理を作ろうか、どんな風にテーブルを飾ろうかと、話が尽きない。
 
さて、冷蔵庫に入りきらない食材の山を前に、妻が言う。
「冷蔵庫もパンパンね……」
「でも、子どもが喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
「そうね。あ、でも次は絶対、ガソリンだけよ!」
 
その言葉に優しく頷きながら、私は内心微笑んでいた。この誓いが守られることは、永遠にないということを、二人とも知っているからだ。
 
なぜって?
それが、コストコマジックだから。
 
そうそう、ガソリン代は1回で800円も浮いたけどね。でも、その何倍も店内で使うことになるとは……。 まあ、それもまた、コストコの魔法なのかもしれない。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-01-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事