チャレンジ・ザ・ゲームで掴んだ風船はまだ心の中にある
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:みちこ(ライティング・ゼミ11月コース)
「今日の特集は、お得&オシャレ! 団地リノベ!」
そろそろ出勤するか、とテレビのリモコンに手を伸ばしたとき、こんなタイトルコールが聞こえて手を止めた。朝の情報番組だ。
おしゃれにリノベーションした古い団地を格安で購入することが、若い世代に人気なのだという。
昭和30年代から40年代、東京近郊の新興団地は大人気で、応募者の当選倍率は5000倍を超えた。そんな団地も今では老朽化し、住人も減少している。
そこで、新たな居住者を獲得し、賑わいを取り戻そうというのだ。
娘が高校生になるまで、我が家も集合住宅に住んでいた。
全棟で250戸を超え、小学生だけでも90人以上いるにぎやかなマンモス住宅だ。
子ども会の活動が活発で、娘もとても楽しみにしていた。
運営役員は毎年4年生の親と決まっており、私が引き受けた年は9人のお母さんメンバーだった。
当時の私は、出産を機に仕事を辞め、子育て期を存分に楽しもうと意気込んでいた。
子ども会の運営も、こんなに大勢の子どもがいるのだから、なんか面白いことができそうだとワクワクしていた。
ところが最初の顔合わせのとき、そんな楽観的で自己満足的な意気込みを暑苦しく、迷惑に思う空気を感じた。特に仕事を持つ親にとってみれば、運営役員は多忙に拍車をかける。分からなくもない。
「みんなそれぞれの生活があるから、無理をしない程度にやりましょう」
お互いを探り合いながら出したスローガンだ。
前のめりなメンバーは肌感として半分くらい。上手くやっていけるだろうか。
そしてもう一つ気掛かりなことがあった。思春期全開の6年生女子だ。
一人ひとりは素直な子なのに、なぜか集団になると雰囲気が良くない。
乱暴な言葉で人をからかったり、大人の声かけにだるそうに反発したり。
子ども会において6年生の手伝いやリーダーシップはとても重要だが、どう接したらいいものか。
そんなとき、区のスポーツセンターで「チャレンジ・ザ・ゲーム」というチラシを見つけた。
日本レクリエーション協会なるものが考案したらしい。
勝敗を競うのではなく、グループでの交流を楽しみながら、協力することを目的として記録に挑戦するレクリエーション。その体験会が近々あるというのだ。
これいいかも! と直感した。
役員メンバーや6年生が、一体となって盛り上がれるのではないか!
風船のように膨らんだ気持ちを掴んで、私は急いで役員メンバーにメールした。
「面白そうだね! やってみようよ」
そう言ってくれるメンバーがいる一方、慎重な反応を見せるメンバーもいた。
「今までやったことがないことを、この規模で実行するのはすごく大変じゃない?」
確かにそうだ。前任者の虎の巻には書かれていないことだ。
「とりあえず、行ける人が体験会に出席してみて、それから考えませんか」
メンバーの一人がそう言って、飛んで行ってしまいそうな風船をぎゅっと掴んでくれた。
体験会には、学校の先生をはじめ、いろんな団体からの参加者がいた。
競技はどれもボールや縄などを使った簡単なもので、いい大人たちが本気で熱中して盛り上がった。
「これはいけるね!」
慎重派メンバーも暑苦しい説得にほだされ、私たちは棟に囲まれた広場でチャレンジ・ザ・ゲームを実行することにした。
行うゲームは
・5人で3つのボールをワンバウンドでリレーするドリブル・リレー
・10人が並び両手で二本の棒を渡していくキャッチング・ザ・スティック
・ロープ・ジャンプ(大縄跳び)
そのほか、低学年もできるゲームを入れた5種目とした。
前日には借りてきた競技グッズで役員メンバーが練習し、翌日に備えた。
そして当日。
広場にどんどん子供たちが集まり、チャレンジ・ザ・ゲームは思いのほか大盛況となった。
聞けば、前日の私たちの練習風景を窓から見ていて、子どもたちは興味津々だったらしい。
6年生には各チームにばらばらに入ってもらっていたが、頼もしいリーダーの姿を見せた。
「6年生女子たち、チームをまとめていたね。低学年の面倒見たり、号令をかけたり。感動しちゃった」
「子どもたちみんな楽しそう。どうなることかと思ったけど、やってよかったね」
慎重派のメンバーの声も、ボール以上に弾んでいる。
大変なことも、子どもたちの笑顔を見れば全て吹っ飛ぶ。それは共通なのだ。
とにかく楽しもう! その思いで膨らんだ風船を、メンバーみんなが掴んでいる。
6年生を集めて褒めると、男子はふざけながら、女子は少し照れ臭そうに、にこにこ笑って言った。
「ねえ、終わってからも大縄していい?」
大縄跳びの地面を打つ音と子どもたちの笑い声は、しばらく住宅内に響いた。
それから私たちは、2か月に一度のペースで精力的に行事を行い、反省会と打ち上げを繰り返し、大変で、楽しくて、充実した一年を終えた。
あれから随分時間が経ち、当時のメンバーはもう誰も住宅にはいない。
チャレンジ・ザ・ゲームをした広場は草が生い茂っていると聞いた。
それでもあのときみんなで掴んでいた風船は、今も心の中にあって私を支えている。
幾つになっても、どんな状況でも、楽しむことは自分次第だ。
リノベした団地に沢山の子どもの声が響くといいな、そんなことを思いながら、私は急いで職場へと向かった。
***
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