メディアグランプリ

正月返上の決意――現場と未来をつなぐ男の奮闘


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:内山遼太(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
「今年こそ、結果を出す」
内山はそう自分に言い聞かせながら、コートの襟を立てて通勤電車に乗り込んだ。吐く息が白く曇る。年が明けてまだ数日しか経っていないが、彼にとって正月は休む時期ではなかった。むしろ、自分の決意を形にするためのスタートラインに過ぎない。
 
電車が動き出すと、内山はすぐにスマートフォンを取り出してAI関連の記事を開いた。記事には、医療や介護分野における最新技術の応用事例が詳しく書かれている。機械学習を用いたデータ解析で患者の転倒リスクを予測する研究や、センサーを利用して個別の運動プランを生成するシステム――そんな最先端の技術が紹介されていた。
 
「これが現場で使えたら、利用者の支援がもっと良くなる」
そうつぶやきながら、内山の頭の中には現場の風景が浮かぶ。彼が働くデイサービス施設では、歩行訓練や体力維持のためのリハビリが日々行われている。しかし、それぞれの利用者に完全に合った方法を提供するのは簡単なことではない。
 
「去年は手探りばかりだった。今年はもっと深いレベルで学び、実践に結びつける」
スマートフォンの画面に映る文字を追いながら、内山は改めて決意を固めた。昨夜も深夜まで机に向かい、管理職試験の問題集と向き合っていたせいで、頭がぼんやりしている。しかし、それは慣れた感覚だ。彼にとって努力は負担ではなく、未来への投資だった。
 
デイサービス施設に到着すると、明るい声が迎えてくれる。「明けましておめでとうございます!」職員たちが新年の挨拶を交わし、利用者たちは笑顔で歌を口ずさんでいる。壁には書き初めや手作りの飾りが並び、正月らしい温かい空気が広がっていた。
 
内山も新年の挨拶を返しながら、心の中では違う思いを抱えていた。
「このリハビリメニュー、本当にこれがベストなんだろうか?」
利用者一人ひとりの状態に合わせた歩行訓練や体力回復プログラム。それらを効率的かつ効果的に提供するには、今のやり方だけでは足りないように感じていた。
 
昼過ぎ、内山は中庭で散歩を楽しむ利用者たちと一緒に歩いていた。70代の女性が慎重に歩を進める様子を見守りながら、彼はふと足を止めた。女性が少しよろめくような動作を見せたのだ。
 
「大丈夫ですか?  少し休みましょう。」
内山は肩を支えながら静かに声をかけた。利用者の表情が安心したのを確認しつつ、彼の頭には別の思いが浮かんでいた。歩行データを活用し、個々の状況に応じた適切なサポートを事前に計画できるシステムがあれば――そんな未来像がぼんやりと広がる。
 
利用者を部屋まで送り届けた後、内山はふと自分のノートを取り出した。空いた時間を使い、AI関連の技術や記事で知った新しいリハビリの可能性を書き留めるのが彼の習慣だ。ノートのページには、すでに数十ものアイデアやメモがびっしり書き込まれている。今日は「転倒リスクの早期発見」と書かれたページに新しい思いつきを加えた。
 
「データ収集と解析方法の見直しが必要だな。管理職になれば、これを実現する時間も増えるはずだ」
そんな考えを巡らせながら、内山は職場に戻った。
 
夕方、仕事を終える頃、同僚から「新年会に行かないか?」と誘われたが、内山は「すみません、今日はちょっと予定があって」と断った。施設を出た彼の頭の中には、新年会よりもやりかけの勉強やプランの整理が詰まっていた。
 
帰宅すると、机の上にはAI関連の参考書や管理職試験用の問題集が整然と積まれていた。それらを見るたびに、彼は一種の使命感に駆られる。椅子に腰を下ろし、ノートを開いて昼間書き込んだメモをじっくり見直した。
 
「このシステムを作るには、まず何が必要だろう?」
利用者ごとのデータをどう集めるか、スタッフ全体で共有するにはどんな工夫がいるか――彼は次々に課題を書き出していった。手が止まることはない。
 
「現場ではできることも限られている。でも、管理職になれば新しい試みを提案する時間が取れるかもしれない」
そう考えながら、内山は問題集を開き、出題されたリーダーシップ理論についての設問に向かった。
 
気づけば時間は深夜を過ぎていた。ふと窓の外を見ると、冬の星空が広がっている。冷たく澄んだ夜の空気が、わずかに開いた窓から入ってきた。遠くで聞こえる車の音だけが、静寂を破る。内山は冷えた手をコーヒーカップで温めながら、深く息をついた。
 
「正月だからって、のんびりしていられない」
彼はそう自分に言い聞かせ、もう一度ノートを開いた。書き込みの多いページに目を走らせると、自分のやってきたことが少しずつ形になりつつあるのを感じた。
 
翌朝、また日常が始まる。電車の中でAI関連の記事を読む内山の目には、確かな目的が宿っていた。今年もまた、彼の挑戦は静かに続いていくのだった。
 
 
 
 
***

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2025-01-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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