メディアグランプリ

レコードのデカさはAIに出せない

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村人F(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
30代前半は生まれた時から平成な人間だが、だからこそ昭和に憧れる時がある。
例えばレコードを回して音楽を聴く。
これをずっとカッコよさそうだと思っていた。
 
針をいい感じの位置に置いて、いい感じのスピーカーでいい感じのお酒を飲みながらたしなむ。
なんかダンディでメッチャいい。
そういうシブいレトロ感を心の片隅で求めていた。
 
そして、そんなタイミングでピッタリなお店を見つけるのが僕だ。
なんと都合よく帰省の途中で寄った仙台にレコードバーがあった。
外装はいかにも昭和である。
調べたら令和に出来た店だったが、そんな気配を感じさせないレトロ具合だ。
あまりにも二軒目を探していた僕にピッタリすぎる。
 
ということで、ワクワクしながら店に入った。
狭い店内にこれでもかとレコードが詰め込まれている。
3000枚以上はあるという話だから重さは店にいた数人と同じくらいになるんじゃないか。
昭和だ、昭和だ!
もうこの時点でウキウキは最高潮である。
しかも酒のメニューも安い。
完璧だ。
 
その後、好きなレコードを流していいということだったので、せっかくなので昭和のロックを選んだ。
はっぴいえんどというグループのアルバム『風街ろまん』。
日本最初のロックと言われる名盤である。
ただ前にダウンロードして聴いた時には正直よさがわからなかった。
なんか音数が少ないし、ボーカルの声もあんまり好きじゃない。
だから「この雰囲気で聴けば変わるのかな」と興味本位で選んだところもあった。
 
そして最初の音を聴いた瞬間、昭和レトロがどうたらこうたらみたいな感覚は完全に消し飛んだ。
あまりにも曲が良すぎたのである。
 
どう、よかったのか。
音がデカかったのである。
 
楽器はギター、キーボード、ベース、ドラムというシンプルな構成だ。
それなのに個々の楽器が手加減なしの爆音を轟かせているのだ。
イヤホンで聴いた時の縮こまった感じは一切しない。
ホントに目の前で弾いている感じの音楽が奏でられていた。
 
その主要因はもちろんスピーカーである。
店主によると100万円くらいの機材を揃えているから、とんでもない爆音が奏でられるとのことだった。
これは当たり前と言えば当たり前だ。
 
ただ、それ以上に感じたのはレコードというアナログ故の「音のデカさ」だった。
 
というのも配信などのデジタル音源は原理的に小さくならざるを得ないのだ。
「デジタルは0と1で表現する」という話をご存じの方は多いと思う。
これは音楽をそういった数字データに置き換えて処理することを表している。
そして、この処理でアナログと決定的な差が生まれてしまう。
 
ある時間に入れられる音の数に上限が出来てしまうのだ。
これは仕組み上どうしようも無いので、デジタル音源は常にこの縛りと付き合うことになる。
よって人間に聞こえない高い音をカットするなど、質を落とす編集をせざるを得ないのだ。
 
だからこそ良いスピーカーで聴く場合、レコードが「デカく」感じる。
デジタルで抑え込んでいた細かいニュアンスやら各楽器が全力で殴りかかってくるわけだ。
この迫力は凄い。
「ズドドドッドーン!」と全身に振動が駆け巡る。
一発でその音に魅了されてしまった。
だから当時の方々ははっぴいえんどを愛したのかと心の底から納得した。
 
ついでに同じ環境にてデジタル音源を何曲か流してもらったが、予想通り微妙だった。
音の圧が足りないのである。
普段のヘッドホン環境では気にならないレベルだったが、やはりレコードの破壊力を知った後だと如実に感じてしまう。
 
そしてこの違いを感じながら思った。
AIに出来ないことはレコードにあると。
 
ChatGPTやら生成系AIがあまりにも発達した今、人間に出来ることは何かという議論はどこでも過熱している。
音楽も似たような状況だ。
もう歌詞を入力しただけでプロかと思うレベルで作り出すという。
そんな状況で曲作りをする意味はあるのか。
この疑問が投げかけられていたのだ。
 
しかし、レコードは教えてくれる。
この「音のデカさ」は決してAIには生み出せないと。
なぜならAIはデジタルなデータだから。
アナログゆえのリアルは原理的に生成されないのだ。
 
つまりAIで曲を簡単に作れるようになった今、人らしさをフルに発揮できる場はアナログなのである。
昭和なのだ。
だから音楽界でもあいみょんなど多くのアーティストが令和なのにレコードで最新アルバムを出している。
その理由を全身で聴きとった音楽体験だった。
 
温故知新など「昔に学べ」という言葉は大量にあるが、レコードの音のデカさも同じだった。
そしてこの感覚はデジタルなChatGPTにどれほど質問しても決して得られないアナログな答えだ。
これから生成系AIはさらに進化していくのだろう。
しかしデータ化できない領域は永久に人間だけの世界である。
 
なんとダンディな響き。
だがこういう昭和に憧れるレトロな感覚が令和のAI社会で武器になる。
レコードの音に酔いながら、これから進むべき道を確信した夜だった。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-01-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事