お茶が教えてくれたこと
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:かのん(ライティング・ゼミ9月コース)
記事:
静かなお茶室で、釜のお湯が沸く音が聞こえる中、不思議な感覚になる。
シュンとした音を聞きながら、五感が研ぎ澄まされ、リラックスと適度な緊張感が両立する世界が広がる。
私が初めて、茶道を知ったのは中学生の時。土曜日の午後、学校内で、お茶のお稽古をするクラブがあった。友人と私は、和菓子が食べたくてお稽古に参加した。(ケーキより和菓子が好きという変わった子どもだった)
簡単な割り稽古だったが、袱紗さばきや茶筅を使いお茶を点てる所作はおしとやかな気分になり、ちょっと背伸びをしている感覚も誇らしい感じがしたものだ。
次に茶道と出逢ったのは、大学生になってすぐ。家庭教師のアルバイトを頼まれ、引き受けたお家のお祖母様が茶道の先生だった。お祖母様から「孫と一緒にお茶室に遊びに来たら?」というお誘いがあり、何気なく、お茶室を覗いた。
その時は、これからお茶の世界に魅了されるようになるとは思っていなかったが、いつの間にか、茶道の素晴らしさに引き込まれていた。
茶道は堅苦しい、難しいと感じる人もいるかもしれない。
たしかに、正座も辛いし、決まり事もたくさんあるし、そう簡単なものではない。
でも、私は、お茶のお稽古がとても楽しかった。もちろん、美味しい和菓子もいただけることもあるが。
茶道は形式や規則の枠を超えて、和の文化や精神を育む体験ができる素晴らしい時間だと思う。お茶を点てる所作一つひとつに意味があり、丁寧にお茶を点てることで、時間に追われる日々と違う世界を持てた。
(茶道を習い始めてから、手先まで意識するようになり、知り合いから「所作がきれいね」と褒めていただいたこともあった。これも茶道のおかげだ)
お茶室に入る時、扇子を前に置き、一礼してにじって入る。
そんなに広くないお茶室だったが、日常とは別の世界が広がる。茶室内の調度品は、極限まで無駄を省いた中にも、四季折々の美しさが込められている。床の間には掛け軸がかけられ、花入れに生けられた小さな茶花などから季節を感じることができる。
お茶の先生に恵まれたことも良かった。
例えば、貴重なお茶碗も、惜しみなくお稽古に使わせていただけた。中にはお茶会の時まで大事にしまっておく先生もいらっしゃるようだが、私の先生は「お道具は使ってこそ活きるもの。粗相をして割れてしまうことを心配してしまい込んでいたら、お道具が可愛そう。それに高価なものだと思えば、扱うのが丁寧になるでしょう」と微笑みながらおっしゃっていた。
そのおかげで、毎週、お道具が変わり(道具の名前や使い方を覚えないうちに、次にそのお道具と会うのは一年後ということもあったが)たくさんの素晴らしいお道具に触れることができた。
お稽古を5年ほど続けていたある日、先生から「一週間ほど、お家元でお稽古をしてきたら?」と言われた。
着付けも練習して、ドキドキとワクワクの気持ちで京都に向かった。
約一週間、本当に厳しいお稽古だった。
お寺に寝泊まりし、朝、起きたら、着物に着替え、お掃除や食事。そして、お家元でのお稽古。お弟子さんたちは手取り足取り教えてくれない。間違えると、ピシッと、扇子で畳を打つ音がする。その音が鳴るたび、身がすくむ思いがした。夜は座学。お茶とお菓子は食べ放題だったが、そんな余裕はなかった。
時には、千利休にご縁があるお寺に散策する時間もあったが、ほぼ一週間、朝から夜までお茶と向き合った時間だった。技術の習得と精神の成長の日々だったように思う。
大変な一週間だったが、最終日には、今まで厳しかったお弟子さんたちが懇親会を開き、私たちを楽しませてくれた。ピースサインで一緒に映っている写真を見る度、厳しさの中にあったお弟子さんたちの温かさを思い出し、胸が熱くなる。
この貴重な経験を通じて、茶道が日本文化とともに長く続いている理由が少しわかった気がした。
この機会を作ってくださった、お家元、お弟子さんたち、送りだしてくれた先生、そして一緒にお稽古をした人たち、今でも感謝の思いでいっぱいである。
お家元から帰ってくると、先生は、私に熱心に尋ねる。先生は「永年やっていると、いつの間にか自己流になってしまうの。だから、お家元でお稽古してきた所作をそのまま教えてちょうだい」
私が先生に教える? 責任重大であるが、一週間、お稽古を繰り返してきて、自然に身についているものもあったようだ。
また、茶道にはお遊びと言うものもある。
茶カブキは、3種類のお濃茶を飲み、どのお茶か当てるゲームのようなもの。亭主役が点てた2種類のお茶を飲んだ後、3種類のお茶を飲み、どのお茶か当てていく。全部正解した人には、ご褒美として扇子や茶杓などをいただくことができた。楽しい会だが、お濃茶を5服飲むと、さすがに、その夜は眠れなかった。
他にも、廻花(マワリバナ:お客が順々に一つの花入れに花を入れていく)や、廻炭(マワリズミ:お客と亭主が順々に炭をついでいく)等もあった。
茶道は堅苦しいだけではなく、遊び心もある。茶道の遊び心は、技術や精神をつなぐ役割を果たし、楽しさの中にも学びが深まるように思う。
茶道は単なる趣味や伝統ではなく、ありとあらゆる技法を見る目を作り、美しい所作や立ち居振る舞いが身に着く素晴らしいものだと思う。
茶道には、日頃の忙しさでつい見落としてしまっている喜びや感動を発見し、自分自身を見つめる時間にもなり、より豊かな気持ちになれる。
非日常の静寂に包まれる茶室は、心に新たな視点と彩りを与えてくれる。
一服のお茶がもたらす喜びを、ぜひ体験してみてほしい。
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