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一度は自宅暮らしをあきらめた恩師、入院中の今、おもうこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:みやび♪(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 
『「入院した」と本人から連絡がありました。
ところが、数日後から私のラインに既読がつきません。
「こちらの病院に入院している」と彼女は言っていました。
連絡が取れず、どうしたのだろうと心配しています』
 
いてもたってもいられず、私はこうして某病院に電話をかけていました。
 
彼女は75歳、一人暮らしです。
現在、彼女には身寄りがありません。
そのおうちで生まれ育ち、数年前までお母さまと二人で暮らしていました。
お母さまが亡くなった後は一人で、広い5LDKの平屋を守りながら暮らしていました。
おうちは、ジェーン台風(1950年)の翌年に彼女のお父さまが建てたものです。
高級住宅地と呼ばれるエリアの一角に佇み、古くなりながらも威厳を保ち続けていました。
 
数年前、彼女はこのおうちを手放そうとしていました。
「もう一人では広すぎるし、古いから住みにくくなってきて、管理も難しいから」
近くの老人ホームに入居するつもりだ、とよく私に話してくれていました。
ところが、私にはその言葉に少し違和感を覚えていました。
本当にそれが彼女の望むことなのか――。
 
彼女は私の高校時代の恩師でした。
いつも私たち生徒たちに「自分らしくあることの大切さ」を教えてくれた彼女が、自分の「らしさ」を手放そうとしているように感じたからです。
 
私は思い切って提案しました。
「このおうちをもっと住みやすくリノベーションすることで、先生らしい暮らしを続けませんか?」と。
 
彼女の中には、当時、そういう考えはありませんでした。
ですが、最終的には私のその提案に賛成してくれました。
そして、私たちは家を少しずつ改修していくことにしました。
 
暮らしを支えるリノベーション。
まず、彼女の生活の様子を聞き取っていきました。
運転が得意ではないと自覚している彼女のために、広くて使いやすいカーポートを設置。
雨の日でも乗り降りや、荷物の出し入れが一人でもやりやすいように大きめの屋根を取り付けました。
その結果、車の乗り降りがスムーズになり、彼女もストレスがなく車ライフが快適になった、と喜んでくれました。
 
次に、古いお風呂場を現代的なユニットバスに改装しました。
冬場の冷たい浴室は高齢者にとって大きな負担です。
改装後、彼女は「これなら安心して入れるわ」と喜んでくれました。
 
さらに、彼女の希望を取り入れ、誰かに自分の担当教科を教えるための応接間を作りました。
「教師としての経験を活かしたい」という思いが叶えられる空間ができたことで、彼女は再び生き生きとした表情を取り戻しました。
 
リノベーションを通して、彼女はこの家で再び「自分らしい暮らし」を取り戻すことができました。
「こんなに快適にしてなるとは、思わなかったわ。
みやび、ありがとう」
その言葉を聞いて、私も心から嬉しくなりました。
 
その後、数年を超え、ホントに予定よりも長く続いた自宅暮らし。
自宅での暮らしをより長く、楽しんでくれたように感じています。

そして、ついに彼女としては、受け入れがたい現実が突き付けられたのです。
それが、要介護認定でした。
その結果に抵抗するように、彼女は、自分のおうちで、自分にできることを、より背伸びして「できる」と、申告し、一人の生活を続けでいきました。
そして、デイサービスを利用しながら日常生活を送り、人との交流も続けました。
そんなある日、体調を崩し、ついに自宅での生活が難しくなっていく出来事が起こりました。
彼女はついに、その現実を受けとめ、納得の上で、入院生活を受け入れることになりました。
 
「みやび、いろいろとありがとう。本当にありがとう。ありがとう」
入院先で彼女は、か細い声で私に言ってくれました。
すでに、もう、私の知っている彼女の面影を残さないほどにやせこけた姿で、私を認識し、言ってくれました。
 
今後は、医療対応型施設への入居が決まっていると言います。
私は、とても安堵しました。
まだまだ、生き続けてほしい!
純粋にそれだけです。
 
彼女は、人生の最期を見据えているのだろうか? 
彼女の姿を見ていると、人は年齢を重ねるごとに少しずつできることが減っていくのだと痛感します。
それは私の父や母もそうでした。
そして私自身も、そろそろその変化を感じ始めています。
 
「順番だもの。
それには逆らえないわね」
 
どこかから声が聞こえてきました。
そうなんです。
そうなんですよ。

その言葉が不思議なほど心に響きました。
 
確かに、順番には逆らえません。
でも、その中で自分らしく生きること、自分が思う通りの人生を全うすること、それがどれほど尊いことなのかを、彼女は私に教えてくれました。
 
人生の終盤にこそ、自分らしさを貫くことの大切さが問われるのだろうと、感じます。

彼女の生き方の一片を支えられたことに感謝しながら、私もまた自分の人生の生きざまを、また、人としての在り方を見つめ直そうと思っています。
 
あなたも、身近な人の晩年に立ち会ったことがあるかもしれません。
どんな人も、例外なく、やってくるその時なのです。
そこに立ち会ったその時の経験は、あなたに大切なことを伝えてくれているに違いありません。
そしてまた、自分も、その時がやってくる時を静かに理解したいものですね。
 
一度の人生です。
楽しく、自分らしく、生きることを共に尊びましょう。
 
 
 
 
***

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2025-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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