自己肯定感低すぎアラサー女子が、メイクレッスン中の講師の言葉で泣きそうになった話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:春紀 沙和(ライティング・ゼミ9月コース)
「自分の顔で好きなところはありますか?」
その言葉は、まるで私の心をえぐる刃のようだった。
「いや、どこもありません」
メイクレッスン中、講師の方に質問されて、ハッキリと答えた。
小さい頃から自分の顔が嫌いだった。
一重の目、大きな鼻、ぽっちゃりした頬、色黒の肌。
鼻には水疱瘡の小さな跡がある。
くっきりとした二重、小さな鼻、色白の肌。
これが、私が生きる世界の「可愛い女の子」の条件。
条件から外れた私は、クラスメイトや芸能人の顔と見比べる度にがっかりしていた。クラスメイトからも見た目でからかわれることもあり、本当に辛かった。
「私は可愛くない」
自己肯定感が低く、人と目を合わせるのが怖くて、ひっそりと学生時代を過ごした。
「アイシャドウは二重の幅の広さで塗る。アイラインは二重の線と並行になるように引く」
雑誌のメイク特集は、二重の顔にメイクすることを前提に組まれる。それに、ほとんどのモデルや女優やアイドルは、二重。
二重は、「可愛い」「綺麗」になるための必要条件だ。
社会人になって、仕事のストレスで痩せたことと加齢によって、腫れぼったい一重の目元が、二重になった。
必要条件を得たのに、「自分の顔が嫌」というコンプレックスは消えないまま。メイクする楽しみを見いだせない。
嫌いだから、自分自身ときちんと向き合うこともできなかった。
ある日、Facebookで目を引く広告を見つける。
「あなただけの90分メイクレッスン」
「メイクで人生は変わる。明日のあなたが自信に満ち溢れるように、私たちがお手伝いします」
白と薄いグレーを基調とし、赤色の花がアクセントのシンプルな広告。
洗練されたナチュラルメイクのモデルさんの写真も素敵。
講師は全員、プロのメイクアーティスト。元大手化粧品ブランドの専属だったり、モデルや俳優のメイクも担当していたりと、一流ぞろい。
30歳を過ぎてメイクのことをまともに知らない私。それ以前に、自分がどんなメイクをしたいか、どんな風になりたいのかも分からない。
「明日のあなたが自信に満ち溢れるように」というキャッチコピーに吸い寄せらせるように、レッスンの申し込みをした。
迎えたレッスン当日。
白いテーブルに、色とりどりのアイシャドウパレットやリップスティックが、ずらっと並ぶ。
この日の担当の方は、金髪とツルンとした美肌が印象的な男性。穏やかな語り口調が安心感を与えてくれる。
彼は元々、某外資系化粧品ブランドの専属アーティスト。女性なら誰もが知る、憧れのコスメブランドだ。仲間と独立後、個人向けメイクレッスンや企業向けメイクセミナーの講師として活動している。
在籍中は、百貨店のメイクアップイベントで日本全国を飛び回り、多くの女性の「キレイ」をお手伝いしてきた。さらに、メイクアップショーでモデルのメイクを担当したり、自社の美容部員向けのメイクセミナーも担当したりと、正真正銘の一流メイクアーティスト。
そんなプロの前で、
「メイクが面倒に思えて、好きじゃなくて。すっぴんだと周りの人達に怒られるから、渋々化粧をしています」
と正直な感情をぶつける。
「そうなんですね。では、朝の忙しい時間でもできる、ブラウン系でまとめたワントーンカラーメイクはどうでしょうか」と提案してくださる。
「あ、良いですね。それでお願いします」と私は言われるがまま。
レッスン、スタート。
ほんの数分で私の顔が様変わりする。
ファンデーションひと塗りで、肌の粗さをカバーしてくれる。眉毛も一瞬で描いてくれて、キリっとしながらも優しさのある印象に。
「春紀さんの肌の色を活かすなら、スモーキーな色合いのチークが良いですよ」と的確なアドバイスもくれる。
光や影の入り方、骨格や顔のパーツの特徴を踏まえて、ファンデーションの塗り方や眉毛の書き方から、アイシャドウやアイラインの入れ方までを一つ一つ、丁寧かつ理論的に教えてくれる。
「やっぱり、プロってすごい!」夢見心地になっていた矢先のこと。
「自分の顔で好きなところはありますか?」と聞かれた。
一瞬、頭が真っ白に。その言葉は、まるで私の心をえぐる刃のようだった。
「いや、どこもありません」
そう答えた私に、講師の方は一瞬驚いた顔をした。でも、柔らかく微笑みながら、
「そんなことはありませんよ。どんな人にも、良さは必ずあります」
「もちろん、春紀さんには良いところがたくさんあります」
と言ってくれた。
戸惑う私に、さらに続ける。
「二重や長いまつ毛が、良いところだと思います。それに、鼻根が高めです」
「気になるところがあれば、その部分をカバーしつつ、良さを引き出すメイクがたくさんあります」
「だから、自分には好きなところがない、とは思わずに自信を持ってください」
誰にも見つけてもらえなかった私の「良さ」を、初めて指摘された。
商売として、お客様にお世辞を言っているだけかもしれない。
でも、冷静に考えてみると、彼は、今までたくさんの人の顔と向き合い、メイクをしてきたプロ。
それも、世界的な一流ブランドで、ずっとトップを走り続けた方。そんな彼が、冷静に理論立てて言うのだから、私にも良いところが、確かにあるのかも。
ずっと好きになれなかった自分の顔を肯定して、受け入れてくれた気がした。さらに、「嫌い」だと否定し続けたことに、申し訳ない気持ちも抱いた。
その瞬間、不覚にもウルっとしてしまう。
「どうしよう! 泣いちゃいそう!」
「でも、ここで急に泣いたら、講師の方は困ってしまう。面倒くさい女だと思われたくない」
何より、綺麗にメイクをしてもらっているのに、泣いてグチャグチャになるのは絶対に嫌。必死に涙はこらえた。
産まれてはじめて、自分の顔ときちんと向き合った90分間のレッスン。私にとって、長年の心の傷を癒す、魔法のような時間だった。
使うメイクアイテムは自己流メイクの半分。難しい工程もほぼないのに、洗練された顔に大変身。
私じゃないみたいに素敵。でも、無理をしている風には見えない。
「この顔、好き!」
心から思えて、思わず笑顔がこぼれた。
「ありがとうございました! メイクの練習、頑張ってみます!」
お礼を言って、スタジオを去る。
「明日の私は、自信に満ち溢れているかも」
メイク道具を揃えるために、ウキウキしながらデパートに走った。
***
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