書店員だった僕がソフトウェアエンジニアになった話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:まこと(ライティングゼミ11月コース)
「わからねえ。何もわからねえよ……」
僕は会社のトイレで泣いていた。
就職できればラッキーという就職氷河期の頃の話だ。
僕は文化系を煮詰めたようなサブカル大学生。高円寺という、ライブハウスや古着屋のやたら多い、東京でもトップレベルに個性的な街の古書店で週三勤務。人が聴かないような音楽や本、映画ばかり見つけてきては棚に並べて得意になっていた。
何となく映像クリエイター志望で就職活動を始めたのだが、大した作品も賞歴もなく、クリエイティブ職は全滅。それでも働こうという意思はあって、運よく東京のIT企業一社だけから内定をもらった。
何の特技もない文系の学部卒は当然営業だ。
「お前、やる気あんのか? さっさと売ってこいよ!」
毎日のように上司の怒号が飛び、会議室で灰皿を投げつけられたり、役員に飲み会で酒をぶっかけられたこともある。今なら完全にパワハラで、証拠が残ってたらバックデートして訴えたいくらいだ。
トイレで泣いた日から半年。
僕は所属していた部署をクビになった。
圧倒的に痛めつけられた社会人1年目だった。
なんだか高尚そうな本や映画にどっぷり浸かって、他の人より上等な人間と思っていた自分は、社会人の基準を満たしていなかったのだ。
今ならわかる。
ロクな教育もせず、新卒を放置して半年で「出ていけ」だなんて、まっとうな大人のやることじゃない。だが当時の僕はそれに対して「クソみたいな環境だな」と言い切れる力を持っていなかった。
何の成果もあげられない、ロクなスキルも経験もない新卒のお荷物。そんな僕を、とある支社の営業部長が拾ってくれた。
縁もゆかりもない土地で一からやり直しのスタートだ。
「本当に何も知らねえんだな」
支社に出社し、顔合わせの面談をしたときの部長の呆れ顔を今でも覚えている。頼み込んで「仕事を教えて欲しい」とひたすら後ろについて回った。本当につらかったが、僕は何とか営業の仕事を覚えることができた。
すると不思議なことが起こった。
クリエイターを志望していたころの「何かを作りたい」という気持ちが強く戻って来たのだ。
僕がいるIT業界で、クリエイティブにゼロから何かを作り出せる人。「エンジニア」あるいは「プログラマー」のような技術職の人たちに強烈に憧れるようになった。
でも、どうやってそのキャリアにたどり着いたらいいのだろう。
情報系の大学も出ていない。会社の人に相談もしてみたが「もう遅いだろ」的な感じで笑われてしまい、他人に相談するのは辞めた。
どうしてもこの衝動を抑えられなくなった僕は、会社を辞めてエンジニアになる勉強を始めた。更には「僕はソフトウェアが作れるから仕事をくれ」と嘘をついて仕事の受注を始めてしまうのだ。
今思い出しても完全に頭のイカれたやべー奴である。
そんな無茶を何年か続けたときだった。
「手伝って欲しい仕事がある」
仕事で知り合った人から依頼を受け、ある会社にエンジニア職で入社することになる。そこは僕が大卒の就職活動のとき、箸にも棒にも掛からず書類で落とされた会社だった。こんな巡り合わせもあるんだな、と必死になって成果を出した。
最終的に数十人のチームに膨れ上がり、社内でも注目の優良プロジェクトに成長。2年連続でトップの売上を作り出し、全社MVPを貰うまでに至った。ゼロから何かを作り出せるクリエイターに僕はなれたのだ。
そう。僕らは大概、何にだってなれる。時間はかかるかもしれないけど。
Googleで調べれば大概のことは分かる。YouTubeにはあらゆる動画が上がっているし、本屋に行けばいくらでも本がある。10冊も読めば立派な専門家だ。お金がないなら図書館でもいい。
なりたい自分を諦めるなんてもったいないじゃないか。「もう遅い」とか言うやつ全員くたばりやがれ。
これが色々な経緯を経てたどり着いた僕の考えなのだが、表立って言うことはまずない。偉そうなことを言うのが苦手だ。実際、偉い人間でもない。MVP受賞のインタビューでキャリア形成や勉強法について聞かれても何も答えなかった。
そんなとき、人事から呼び出しがあった。
「『あなたがパワハラをしている』とチームメンバーから通報がある」
僕がパワハラ? 怒号は出さないし、灰皿も投げたことがない僕は大混乱だった。
ある業務ミスに対して、再発を防ぐために業務知識を補うようアドバイスしたのだが、それが問題にされた。その社員は前年も同じミスをしていたため、普段は押し殺している例のメッセージを熱量を込めて伝えたのだ。
「Googleで調べろ、本を10冊読め、金がないなら図書館に行け。確かに全部僕の発言ですが、プロだったら当たり前じゃないでしょうか……」
背景を説明し、結局人事からお咎めは無かったが、謝罪はさせられたし、気持ちのいいものではなかった。そして訴えてきた当人は結局退職してしまった。
普段隠している僕の主張は、外に出した瞬間にミソが付いた。
「アドバイスなんて偉そうにするもんじゃない」という思いを強くする一方で、それでもやっぱり「自分を変えたい」とか「なりたい自分になりたい」と思ってる人に少しは希望を与えられると思うんだよな。
僕自身はいつの頃からか「ああしたい」「こうなりたい」という気持ちを隠すようになってしまっている。みんなして「お前が?」「もう遅い」とか言って笑うから嫌になる。
でもこの文章を読んでいる人の中に、「何かになりたい」と勇気をもって行動しようとする人がいるなら、パワハラにならないように気をつけながら、もう一回言っておく。
僕らは大概、何にだってなれる。時間はかかるかもしれないけどね。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00