感染の連鎖 ~新年の団らんが残した教訓~
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大木朗(ライティングゼミ11月コース)
「ねぇ、お正月はどうするの?」
私はスマホのニュースを読みながら、妻の問いかけに顔を上げました。
「いつも通り、お父さんの家に集まる予定だけど、東京の弟たちも来る予定らしいよ。コロナも落ち着いているし、久しぶりの再会になりそうだね」
元旦の朝は、穏やかな空気に包まれていました。昨年は、能登での地震があり日本中が暗くつらいムードになりましたが、今年は、親族でわいわいと過ごせる楽しい正月になるなと期待していました。
元旦のお昼に皆が集まってすぐ、甥っ子から
「実はお母さんがインフルエンザA型で寝込んでしまいました。別居しているから私たちは、大丈夫です。でも、お父さんは、感染のリスクがありますね・・・・・・」と聞かされ、私と妻は、内心嫌な予感がしました。
弟は、感染リスクよりめったに会えない父親との再会を強く望んでいるようです。結局、私と妻、弟、弟の長男夫婦、子供3人の8人が大阪に住む96歳の父の家に集まりました。普段は静かな一軒家に、久しぶりの賑わいが訪れようとしていたのです。
父は普段より背筋を伸ばし、晴れやかな表情でひ孫たちの姿を追いかけています。
父の顔を見ると本当に楽しそうで、いつもよりテンションが高く、私もなんとなく嬉しい気持ちになりました。
豪華な お寿司を囲みながら、私たちは互いの近況を語り合いました。東京での弟の仕事の様子、子どもたちの成長、そして父の健康状態。話題は尽きることがありません。幼いひ孫たちは、妻がプレゼントした折り紙やシール貼りに夢中で、よくおしゃべりしてくれ、その歓声が心地よく響きわたっていました。父は座椅子に座り、その様子を穏やかな笑顔で見守っています。
「こんな幸せな時間が、いつまでも続けばいいのに」
そう思った矢先、予期せぬ影が忍び寄っていました。
昼食後、弟の様子が急に変わります。「なんだか体がだるくて。熱っぽい感じがする。タクシーを呼んで東京にすぐ帰る」顔は紅潮し、明らかに体調が優れない様子です。私たちは弟の体調を案じました。
弟の長男一家は、異変を感じ、すぐ父の家を後にしました。
弟は、ぐったりした様子で、明らかにインフルエンザの兆候を感じました。持病がある弟はふらふらで、支えないと歩けない様子でした。「新大阪まで送ろうか?」「タクシーを呼んだので大丈夫」
まず、浮かんだのは、幼い子供たちに感染していないだろうかということでした。また、高齢の父に感染すると命にかかわる可能性があります。さらには、弟は無事東京の家に帰れるだろうかと案じました。
悲しいことに、どれ一つとっても答えがでません。
その夜、義理の妹から弟が無事帰宅した報告と迷惑をかけたことの謝罪があり、無事でよかったと安堵しました。
しかし、これは悪夢の始まりに過ぎませんでした。
それから2日後の1月3日、事態は急変します。父と妻が同時に高熱を発症したのです。両者とも38度を超える熱に加え、全身の激しい倦怠感、悪寒、関節の痛みなど、典型的なインフルエンザの症状が表れました。
嘔吐をつづける妻に、私は何をしてあげることもできませんでした。後から冷たい人やと散々文句を言われましたが……。
年始の休診が多い中、4日に必死で診察可能なクリニックを探し出し、二人を連れて向かいました。検査結果は予想通り、インフルエンザA型陽性。医師からは「特にお父さんの咳が止まらない場合は、注意が必要です」と念を押されました。
抗インフルエンザ薬を処方され、父と妻は、安静にするしかない状態でした。
父は、自分のことよりひ孫が感染していないか心配な様子でした。「弟から何も連絡がないので、大丈夫だと思うよ」と何回も話をしました。
「孫たちの声が聞こえなくなって寂しいなぁ」と思っているのかと父のつぶやきに、胸が締め付けられる思いでした。そんな父は、比較的、病状が軽くすぐ回復したので、ほっとしました。
安堵するのもつかの間、私自身もしらない間に、徐々にウィルスに毒されていたようです。そして、ついに1月5日の夜、私の身体にも異変が現れ始めます。喉の痛みと共に全身がだるく、体が鉛のように重たく感じられました。翌日には38.7度の熱が出て、クリニックで検査を受けたところ、案の定インフルエンザA型と診断されました。
こうして、新年を祝うはずだった家族の集まりは、インフルエンザの連鎖によって苦しい思い出へと変わってしまいました。今、振り返ると、この事態を防ぐためのポイントがいくつかあったように思います。
まず、弟の妻の発症を知った時点で、より慎重な判断が必要でした。家族の再会を急ぐあまり、リスクの存在を軽視してしまったのかもしれません。また、弟が体調不良を訴えた際、その場にいた全員が感染の可能性を考慮して、適切な予防措置を取るべきでした。
特に、高齢の父は免疫力が低下している可能性が高く、より一層の注意が必要だったと痛感しています。「家族で集まりたい」という気持ちは理解できますが、それ以上に大切なのは、お互いの健康を守ることだったはずです。
この経験は私たちに多くの教訓を残してくれました。
第一に、感染症に対する予防意識の重要性です。予防接種を確実に受けること、体調不良時は無理をしないこと、そして基本的な衛生管理の徹底。当たり前のようで、ついおろそかになりがちなこれらの対策が、いかに大切かを思い知らされました。
第二に、家族間でのコミュニケーションの大切さです。誰かが体調を崩した場合、その情報を速やかに共有し、適切な対応を取ることが重要です。特に高齢者がいる家庭では、より慎重な判断が求められます。
そして何より、健康であることの有り難さを実感しました。当たり前のように過ごしていた日常が、実はとても大切な宝物だったのです。健康でいられるからこそ、家族との時間を心から楽しむことができる。その当たり前の幸せを、私たちは改めて見つめ直すことになりました。
「来年こそは、みんなで健康に新年を祝おう」
今では、そんな願いを込めて、健康管理により気を配るようになりました。この経験を、単なる苦い思い出で終わらせるのではなく、より良い未来への教訓として活かしていきたいと思います。
みなさんも、どうかご自身と大切な人々の健康に留意され、幸せな時間を過ごされることを願っています。時には慎重になりすぎると思えることでも、家族の健康を守るためには必要な選択かもしれません。この話が、皆さんの健康管理について考えるきっかけになれば幸いです。
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