メディアグランプリ

「一発屋」の気持ち、わかりますか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:777(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
『一度だけ大当たりをとった人』
 
「一発屋」を辞書で引くとこんな意味が出てきますが、実は私、この「一発屋」なんです。
 
いまや珍しい職業ではなくなった「ユーチューバー」。私もかつて、仕事のかたわらチャンネルを開いて動画投稿にいそしんでいた時期がありました。はじめたきっかけは「なんだか面白そう」という軽い気持ちでした。
 
「軽い気持ち」と書きましたが、それなりの夢と野望とアホな自信がありました。
「数十万人のフォロワーがついて、ザクザクお金が入って、タワマンに住んで、フェラーリを乗りまわして、ヒ◯ルさんみたいな有名人になれるかも(笑)」みたいな。
 
しかし、現実は厳しいものでした。まったく無名で平凡な人間が、見ず知らずの人に知ってもらって、動画を観てもらって、リピーターになってもらって、ファンになってもらうことの難しさといったら。いや、はっきり言って「無理」です。
 
どれだけ動画を投稿しても、再生回数はいつもゼロ。あまりにも寂しいので自分で視聴して再生回数を偽装する日々。当然フォロワーはつかず、自分のプライベートアカウントでフォローして、「私もフォロワーいますよ」と強がる始末。
 
だれかに見てもらいたいのに、だれにも見てもらえないでいつづけると、まるで自分が世界の片隅どころか、世界のどこにも存在していないんじゃないかと思って、布団のなかで震えた夜もありました。
 
とはいえ、見ず知らずの方に認知してもらうこと、興味をもってもらうことの難しさは、自分がほかの方たちの動画を見るときのことを考えれば簡単に想像できます。どこのだれだかわからない、しかも特別なスキルや魅力をもっているとは思えない人の動画を、わざわざ観るわけがないのです。
 
いまにもポキリと心が折れそうでした。しかし、どれほどのどん底でも、諦めなければいつか光明はさす。そう信じて投稿をつづけました。
するとある日、来たのです。私にも成功のビッグウェーブが!
 
本当に軽い気持ちでつくった動画でした。
「どうせだれも観ないだろ」
そんな絶望とひがみ根性に染まり切っていたからこそ、なんの気負いもなく作れたと言っていい、まさに奇跡の「クズ動画」でした。
恥ずかしい話ですが、本当にくだらないギャグもので、制作時間はそれまでの百分の一と、まったく苦労せず、するっと生まれた動画でした。
 
このときは再生回数を偽装する涙ぐましい努力もすっかりしなくなっていたので、動画をアップロードしたあとはさっさと布団に入って眠りました。そして翌朝、スマートフォンを見て目を剥きました。
 
「十万?」
 
動画の再生回数が十万回を超えていたのです。投稿から十時間も経っていません。なにかのまちがいかと、震える指で桁数を数えました。やはり十万回。フォロワーわずか数人のチャンネルが叩き出せる数字とは思えません。
 
「どうなってるんだ……」
 
呆然としているあいだにも、どんどん再生回数は上がっていきます。「いいね」もガンガンに増え、コメント欄にも賞賛の声がひっきりなしに書き込まれ、フォロワー数も上がっていきました。
 
「これ、バズってる……!」
 
結果、動画は三日間で三十万回再生を超え、三週間で六十万回再生されることになりました。
 
ついにきた大波。私はここぞとばかり、同じ種類の動画を複数つくって投稿しました。これでもっとフォロワーが増えるはず!
 
ところが、二本目からの再生回数は下降の一途でした。一本目の五分の一、十分の一、五十分の一と減っていき、五本目を出したところで、また以前のようにほとんど視聴されなくなりました。
 
驚くほど急激な上がり方と下がり方でした。
 
盛大に受けたネタなのだから、同じことをすればまた受けるはず、という思い込みは見事にはずれました。
焦った私は巻き返しをはかって、ちがうテイストの動画を今度は丁寧につくりました。内容や編集の質を引き上げて制作したのです。
チャンネル登録者が増えたのだからたくさんの人目につくだろうし、そのなかには必ず気に入ってくれる人がいるだろうと高を括っていました。
ですが、まったくダメでした。
 
そう、私は飽きられたのです。全速のフェラーリよりはやく一瞬で。
 
とぼとぼと仕事帰りの道を歩いていたとき、一発ギャグで脚光を浴び、あっという間にテレビから消えてしまったお笑い芸人たちの姿が頭に浮かびました。
 
「ああ、これが一発屋の気持ちか……」
 
さんざんもてはやされたあとのこの落差は、だれにも見向きされなかったときよりはるかにこたえました。
 
「捨てられた」
 
打ちひしがれ、なにもする気になれませんでした。もちろん動画のことなんて考えもしません。
 
それでも時間が経ち、いくらか気持ちが回復してくると、あの異常なバズり現象を自分なりに検証してみたくなりました。
 
詳しい仕組みは明かされていませんが、ユーチューブが「人が人を呼ぶ」ように作られているのはまちがいありません。再生されるだけでなく、コメントなど動画に反応する人が増えるほど、広く視聴者の目につくようになっているのです。私の動画もこの仕組みにハマったのだと思います。
また、ツイッター(当時)などのSNSで、「面白いから観て」と口コミとして拡散されていたことも追い風になったようです。
 
二本目から再生回数が落ちていったのは、興味をもってくれる人が一本目より大幅に減ったことに加え、観てくれた人が満足する内容でもなかったからでしょう。どんなに面白いと思ってもらえたネタでも、同じことをくり返せば飽きられるのは当然です。
 
では、あの大バズりをきっかけに飛躍しようとしたら、どうすれば良かったのか?
あくまで推論ですが、いくつかご紹介いたします。
 
まずは、ニーズを把握した上で、コンテンツの量と種類を増やすことです。認知してもらって、いくつかの動画を見てもらっても、ほかにコンテンツがなければ視聴者は通りすぎていくだけです。
 
二つ目は、コンテンツの質を可能なかぎり高めることです。雑なつくり、内容の薄いコンテンツは瞬間的に消費されることはあっても、くり返し楽しんでもらうのは難しい。リピーターになってもらうには相応の品質は必須でしょう。
 
三つ目、高品質なコンテンツを用意したら、あとは投稿を継続していくことです。その過程で随時視聴者の反応を分析し、内容やアピール方法を改善していくことも欠かせません。
 
こう見ていくと、あのチャンスをものにするために私がするべきだったのは、製造業などで業務改善に用いられているPDCAサイクルだったと言えます。
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)です。
 
私の場合、無計画に実行したために、適切な評価も改善もできなかったところに敗因があったのは明らかです。
 
近年PDCAサイクルは時代遅れとの声も聞かれますが、技術を磨き、コンテンツの質を高め、継続的にお客さまに提供して、着実に成績を伸ばしていこうとするなら、まだまだ有効な考え方だと思います。
 
あまり良く言われることのない「一発屋」。しかしいざなってみると、とても有意義で貴重な体験ができました。
どんな事態にも柔軟に対応できる高い制作能力と表現技術を身につけることの大切さを再認識できただけでも、大きな収穫でした。
 
こんなに勉強になるなら、もう「一発」狙ってみてもいいかもしれない!?
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-01-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事