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カウントダウン開始-夫と二人の暮らしが始まる


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記事:山形ゆか(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
「部屋決めてきたから!」
娘が一人暮らしを始める。前々から出たいとは聞いていたが、本気で家を出るなんて思ってもみなかった。
昨年末に転職し、部屋も探していたようだ。
すでに息子は、6年前に家を出た。大学進学を機に家を出て、東京で就職し結婚した。「関西には戻らない」とはっきり宣言している。
 
子どもたちが巣立っていくのは、寂しいけど素直に嬉しい。
独立して自分の力で生活しようと決めたのだから、ちゃんと成長してくれているのだろう。
一応親として、立派なひと仕事を終えた気分だ。
 
夫はかなり動揺していた。
「なんでや? 別に家から会社通えるやろ。一人暮らしなんてしなくてもええんちゃうか」
引き止められる可能性がちょっとあれば、とあれこれ一人暮らしのデメリットと実家暮らしのメリットを並び立てた。
口うるさく干渉する両親のもとで育った私は、子どものやりたいことを邪魔しないと決めて子育てをしてきた。だから、娘の決断に反対はしない。
ずっと働いていたから、子どもたちと過ごす時間もたっぷりあったわけではないので偉そうなことはいえないが……。愛情の深さと子どもへの執着や干渉は別もの。
親と子であっても、そのときどきの距離感は大事だと思うのだ。
 
娘の一人暮らしをすると、待っているのは夫婦だけの生活。
夫が動揺したのは、こっちかもしれない。私だって、そうだ。
会話が少ないことはないが、全く趣味が合わない同士。もともと別行動が多かったが、子どもたちが大人になって一層、休日を別々に過ごすことが増えた。
お互いにやりたいことが違うから、交友関係もそれぞれに異なるが干渉はしない。
 
まぁ、子育てがひと段落した夫婦というのはこんなものなのだろう。
「亭主元気で留守がいい」というフレーズが流行ったこともあったが、友人との会話でもそんな話はよく聞く。子どもが家を出てしまうと夫婦に共通の会話がなくなって、なんとなく居心地が悪くなったり、イライラしたりするそうだ。
 
30年前、夢いっぱいに夫とふたりからスタートしたはずなのに……。
残念ながら、お互いにその頃の記憶がほとんどない。
「子どもが生まれるまで二人でどんな生活してたっけ?」
「引っ越し直後、テーブルが届かなくてダンボールを台にしてご飯食べてたの覚えてる?あの頃、テレビでロンバケ観てた。竹野内豊がカッコよかった」
そんなどうでもよい記憶。
お互いに、長女を授かってからの記憶はたくさん残っているのに、新婚の頃の記憶がほとんどない。一応恋愛結婚だし、幸せで楽しい時期だったと思うのだが……。
 
思えば出産は、人生のなかで結婚よりもはるかにインパクトのある瞬間だった。
そんなインパクトのある出来事に、新婚の頃の記憶が上書きされてしまったのか。
新婚の頃が思い出せないからか、夫婦二人きりになることに若干の不安と新たな生活へのワクワク感が入り混じる。
 
「二人だけになるなんて信じられへん」
「いや、二人どころかいつか一人になるんやから」
そんな日も遠からず来るのだろう。
夫婦でこんな話をするようになってしまった。
本当に家族揃って暮らせるのは、短い時間だ。
子どもが生まれたときには、成人する日など想像もできなかった。保育園の送迎がいつまで続くのかと思っていたのに……。1年1年が目まぐるしく過ぎ、気がつけばあっという間だった。
 
そして、おもしろいことに夫との二人の生活が再開する。
今年で結婚30年。
これまで色々あったけれど、全部過去になってしまった。
周囲では熟年離婚や家庭内別居などの話もよく聞くが、うちはこれからもこれまでどおりそれぞれのやりたいことを優先するスタイルでいこう。
 
 
人生の折り返し地点を過ぎた私たち夫婦。ここから、もう一度自分のために時間を存分に使えるのだから、前向きに楽しむ努力をすることにした。
「必要のないものは処分して、リビングをもっと広く使うのもいいね」
狭かったはずの家も二人暮らしには広すぎる。広々使って、気兼ねなく、昔のように友人を招こう。夫とそんな会話をしながらも、ちょっとだけ終活も考えてしまう。
「子どもに負担をかけないように、寝たきりにだけはなれないわ」
「家の片付けもしておかないと、いざというとき困るよね」
 
これから始まる二人での生活に欠かせないのは、健康と自分たちの生活を維持するだけの経済力。それがあれば、子どもたちにそれほど心配をかけることはないだろう。
 
「家族揃って過ごせる時間なんてあっという間や」
口癖のように父が話していたのを思いだす。本当にそうだった。
人生80年と仮定して、夫婦で暮らせるのもきっとあっという間なのだろう。
正直、これまで頭にきて離婚したいと思ったことは何度もあるが……。
こうして家族となった夫と住宅ローンの残りを払いつつ、楽しく暮らしたいと思う。あっという間に過ぎてしまう毎日を振り返るその日は必ずくるのだから。
 
 
 
 
***

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2025-01-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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