メディアグランプリ

君は不満を吸収する機械じゃない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内山遼太(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
「君って、不満を吸収する機械みたいだよね」
その一言が、頭の中で何度も反響する。先日、友人との何気ない会話で言われたその言葉は、思いのほか心に刺さった。確かに私は、職場でも、家庭でも、友人関係でも、不満や愚痴を真っ先に聞く存在だった。「話を聞いてくれるだけで楽になる」「あなたに相談すると不思議と気持ちが落ち着く」と言われるたびに、誇らしい気持ちが湧くこともあった。だが、その役割がどれほど自分の心を蝕んでいるのかに気づいたのは、この言葉をきっかけに、立ち止まって振り返ったときだった。
 
先日の夜、仕事で疲れ果てて帰宅した私は、ようやく布団に潜り込んだ。するとスマホが震える音が響いた。画面には友人からのメッセージ。「ちょっと話を聞いてもらえる?」その一文を見た瞬間、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。疲れているから断りたい。だが、相手を拒絶する罪悪感がそれを許さない。結局私は、「いいよ、どうしたの?」と返信した。その瞬間、自分の中で何かが崩れる音がした。
 
なぜ私は、ここまで「不満の受け皿」になってしまったのだろうか?
 
まず考えるべきは、なぜ特定の人が「不満の受け皿」になりやすいのかという点だ。その答えにはいくつかの要因が絡んでいる。一つは「共感力」の高さだ。愚痴をこぼす人は、自分の気持ちを理解してほしい、受け入れてほしいと思っている。そのため、「それは大変だったね」「分かるよ、その気持ち」といった共感の言葉をかける人には安心感を抱く。すると、さらに深い不満を吐き出しやすくなるのだ。
 
もう一つは「聞く姿勢」だ。多くの場合、相手の話を途中で遮らず、しっかり耳を傾ける人は「この人なら安心して話せる」と認識されやすい。愚痴を話す側にとっては、自分の気持ちを全て聞いてもらえる相手がいることは心の救いとなる。しかし、聞き手にとってはその負担がどれほど大きいかは、話す側には想像が及ばない。
 
例えば、ある日私は職場で同僚から「上司に理不尽な叱責を受けた」という愚痴を聞かされた。最初は「それは大変だね」と共感していたが、同じ話が何度も繰り返されるうちに、私は疲労感を覚えるようになった。話す相手が自分の心を軽くしている一方で、私は逆に重くなる。その感覚は、不満の受け皿にされる人なら誰もが経験するものではないだろうか。
 
不満を受け止め続けることで、いくつかの問題が生じる。まず、心理的な疲労感が蓄積される。共感力が高い人ほど、相手の感情を無意識に自分の中に取り込んでしまうため、自分のエネルギーが少しずつ削られるような感覚を覚える。また、「自分はただの不満のゴミ箱なのではないか」と自己価値が低下することもある。さらに、不満の受け皿という役割が固定化されると、それが他者から当たり前のように期待される。「この人ならいつでも聞いてくれる」という認識が広がり、自分の時間や感情を守る余裕がどんどんなくなっていくのだ。
 
私自身、その悪循環に陥ったことがある。夜遅くに友人から愚痴の連絡を受けた後、疲れ果てて布団に潜り込みながら、「どうして私はこんなにエネルギーを奪われているんだろう」と感じた。その時初めて、「不満の受け皿」という役割が、自分自身にどれだけの負荷を与えているのかに気づいたのだ。
 
この状況から抜け出すためには、「境界線」を引き直すことが必要だ。境界線を引くというのは、どこまで相手の話を受け入れ、どこで断るのかを明確にすることを意味する。私が試した方法をいくつか紹介しよう。
1. 話を聞く時間を制限する
例えば、友人から相談を受けた際に「今日は30分だけなら聞けるよ」と時間制限を設ける。時間を区切ることで、自分のエネルギーを守りつつ、相手にとっても話を整理するきっかけになる。
2. 特定の話題を拒否する
「その話題については、ちょっと重く感じるからごめんね」と伝える。断ることに抵抗があるかもしれないが、自分を守るためには必要なスキルだ。
3. 解決志向の質問をする
「それについてどうしたいと思う?」と問いかけることで、相手がただの愚痴から、前向きな行動に移るきっかけを与えられる。
 
私自身、ある職場での出来事をきっかけに大きく変わった。同僚が何度も上司への愚痴を繰り返す中で、私は思い切って「それって、どう解決したらいいと思う?」と聞いてみた。その瞬間、彼は一瞬戸惑ったものの、「そうだよね、行動しないと何も変わらないよね」と前向きな言葉を口にした。私はそのとき、自分がただの受け皿ではなく、相手を次のステップに進ませる存在に変われたのだと感じた。
 
心理学でも、「境界線を引くこと」は重要視されている。例えば、マーシャル・ローゼンバーグの「非暴力コミュニケーション」では、相手に共感を示しつつ、自分の感情やニーズを明確に伝える方法が提唱されている。これを応用すれば、「今その話を聞くのは難しいけど、後で時間を作るよ」といった柔らかい断り方ができる。こうしたアプローチは、相手との関係を壊さずに、自分の心の平穏を守る助けとなる。
 
「君って、不満を吸収する機械みたいだよね」
あの一言が、私の行動を見直すきっかけとなった。今では、ただの受け皿ではなく、相手を建設的な方向に導く存在になりたいと考えるようになった。境界線を引くたびに、自分の時間が取り戻され、心には清々しい風が吹き込む。その風を感じる瞬間を増やせるかどうかは、私たち自身の決断次第だ。これからは、自分も相手も大切にする関係を築いていきたい。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-01-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事