つれづれダメ親日記 「ある日突然、娘が整形したら」
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記事:山口 祐子(ライティング・ゼミ1月コース)
娘が整形した。突然のことだった。
ただし、寝耳に水、という訳ではない。
ウチには娘が2人いて、どちらも既に成人している。件の娘は長女の方、彼女はどちらかというと父親に似ている。一方の次女は、かなり私似だと思う。
思い当たるところはあった。そういえば長女は、中学の頃から過剰に見た目を気にするようになって、「私は一重まぶただから、二重の人がうらやましい」「一重だと機嫌が悪そうに思われる」などと、私や次女に言っていた。何か学校で嫌な思いをしたこともあったのかもしれない。中学生くらいの子どもは、お互いの見た目イジリに容赦がない。自我が芽生えはじめるのに伴って、周囲と自分を比べたがったり、自己嫌悪に陥ったりしやすい時期だ。
長女は社会人になった最近でも、「おかあさんは二重だしわかんないだろうけど、一重だとアイメイクしにくいんだよ」などと、朝からイライラした様子で鏡に向かって愚痴っていたことがあった。私は冨永愛が好きなので、「一重いいじゃん。冨永愛と一緒」と言ったら、絶望的にそうじゃない、という表情が返って来たのを覚えている。
そうか、あれは、整形したいという意思表示だったのか。
そしてある日、長女の両目はくっきりとした二重まぶたになった。
正確には、手術直後で帰宅した日の両目はひどく腫れ上がって、その上に肌色の医療テープが雑に貼られていて、まるで試合後のボクサーみたいだった。正直、全くきれいになったように見えなくて、ダウンタイム(手術後の回復期)に1ヶ月から2ヶ月かかる、といった知識も私にはなかったので、「どうしてそんなことをしたの? なんか変なんだけど……」と喉元まで出掛かった言葉を、ぐっと呑み込んだのだった。
その日までに、整形してもいいかと聞かれたことは、ただの一度もなかった。せめて親に許しをもらうくらいしないものなのか、とも思った。手術をしたのは、娘がはじめてのボーナスをもらってすぐの出来事。きっと社会人になって、自分のお金と責任でならやってもいい、と前々から決めていたのだろう。
手術代も本人が出しているんだし、もう社会人なんだから確かに好きにすればいい、と私は自分に言い聞かせた。
私だって若いころ、豊胸したくてクリニックに問い合わせたことがあったっけ。結局その時しなかったのは単に手術がこわかったのと、手術代が高くて出せなかったせいだ。
今はプチ整形が流行っているらしいし、そんなに大袈裟に考えないのかもしれない。
そう思いながらも、やっぱり胸がざわつく。どうしてだろう。娘の変化が寂しいからなのか。
本人にとっては、ずっと心から自分の顔が好きになれなかったのかもしれない。けれど、母親の私にとっては生まれた時からずっと向かい合ってきた、たったひとつの娘の顔だった。その顔をした娘が突然いなくなって、別の娘が帰って来たようなショックを受けたのは間違いない。
でも、それだけじゃない。
私は、自分がどうして豊胸なんてしようと思ったのか、その時の気持ちを振り返った。
自分が胸の大きい女になりたかったからじゃない。世の中の男が女を品定めする時、顔がかわいいかどうかと同じか、それ以上に、CカップだとかFカップだとか、胸のサイズを偏差値みたいに無神経に口にする時代だった。だから大きくしないと、恥ずかしい思いをするかも、好きな人に嫌われるかも、と思ったのだ。自分がなりたい自分になるためではなく、誰かの望む魅力的な女性像に自分を当て嵌めたくて、手術までしようと思ったのだ。
娘が整形をしたのは、自分のためなんだろうか。それとも、周囲の評価基準による評価の向上を、つまり「かわいい」とか「好き」とか言われる可能性を高めたいと期待したのだろうか。……まあ、そこに大した違いはない。多くの人に好かれることは、自分のためにもなる。けれど、それでも私は、他者の評価によって揺るがない自分らしさを彼女がみつけるまで、その種を手放してほしくなかった気がする。
本当に我ながらめんどくさい親だ。親の愛情は時に理不尽で、未熟な子供に対して理想を期待しすぎる。自分だってやりたかったのに、子どもにはさせたくないなんて、そんな矛盾した理屈は通らない。
そもそも整形しない方がいい根拠なんてあるのか。試しにネットで調べてみた。
・手術自体に合併症などのリスクがある
・施術の結果が希望通りにならない場合がある
・痛みや後遺症などの医療トラブルの可能性がある
・費用が高額になる場合がある
ざっとこんなところが出てきた。
どれも整形のリスクではあるけれど、コンプレックスを解消したいという思春期の強い動機を押し止めるほどの説得力はない気がする。
それは私が「冨永愛と一緒でいいね」と言ったのと同じくらい、効いていない感じだ。
あれから半年だ。娘が二重になってから半年が経った。
ダウンタイムを通り過ぎて、娘の二重まぶたはとてもきれいに整った。
正直きれいになったし、娘もとても満足そうだ。メイクをするのも楽しいらしい。自分の好きな顔で毎日を前向きに過ごせるなら、結果としてやって良かったのかなと思う。
グダグダと考えがちな私に相談せずに独断で進めた娘の判断も、今思えばある意味あっぱれな行動力だと思う。
それでも時々、「二重だったらいいのに」とふれくされていた娘に、もう一度会って、もう一度ちゃんと話してみたいと思うことがある。
劣等感や自己嫌悪は、そんなに悪いものじゃない。とても大切な感覚で、それがあるから本当の自分の良さを探そうとしたり、誰かにそれをわかってもらおうとする工夫やパワーが生まれる。そして、誰かのつらい気持ちに共感することもできる。
傑作と言われる小説や音楽や絵画などの芸術作品も、そうしたネガティブな葛藤から生まれたものが多くあり、それらはゆっくりと深く、着実な方法で人の心の琴線に触れる価値をつくる。
そういう種をもっていたことを、そして種にまでメスを入れなければ、いつでも育てられることを、忘れないでいてほしい。
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