猪突猛進! 突進事件!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:きりの鮎美(ライティング・ゼミ1月コース)
「あゆちゃん! 大丈夫!?」と、ぐるりと親戚に囲まれた真ん中で幼い私は倒れていた。幼い頃の記憶を今でも鮮明に思い出す。
私の祖母は60代で亡くなり、私が保育園の年長の時だった。
その頃は親戚の叔父さんや叔母さんもまだ若く元気だったので、初盆法要は我が家に親戚が集まり、お坊さんのお経を聞いた後、近所のレストランで会食をする事になっていた。
お坊さんのお経やお焼香が終わり、いよいよ子供の私にとって一大イベントであるレストランの会食の時間がきた。家にマイクロバスが迎えに来て乗り込む時に、弟が我先にとバスへ駆け込み、運転手さんの隣の1番前の席を陣取った。
私はお姉さんなので別に後ろの席でもいいや〜、といった態度でバスに乗りこんだけど、本当は1番前の席に座る弟がすごく羨ましかった。慣れた地元の道ですらバスの大きな窓から見える景色はさぞ輝いて見えるのだろうか、目を輝かせてはしゃいでいる弟を私は後ろの席から眺めていた。私もその景色を見たかった。
別に羨ましくない、なんてスカした態度をとっていたけど、本当は私もバスの1番前の席に座りたかった。
レストランに着いて、会食が始まっても、私はまだバスの1番前の席のことを考えていた。
幼い頃の私は大人しくて照れ屋だったので、帰りは1番前の席に座りたいとすら言い出せず、1人で悶々と考え、幼い頭をフル回転させていた。なんとかして帰りのバスは1番前の席に座る方法はないかと。
そして、とうとう思いついた。
「そうだ! 弟より先にバスに乗ればいいんだ!!」と。
それを思い付いたら食事どころじゃない! 私はあんなに楽しみにしていた目の前のお子様ランチを味わいもせずに平らげて、久しぶりに会う親戚からのアイスやお菓子を買ってあげるという誘惑を全て断り、1人でポツンとレストランのロビーで突っ立ち、迎えのバスが来るのを待つことにした。
会食が終わる頃、ロビーにちらほらと親戚が出てきた時に、ついに待ち焦がれていた迎えのバスがレストランのロータリーに入ってくるのが見えた。
私は嬉しくなり、
「あっ! バスが来た!!」と言ってバスに向かって駆け出した。
タッタッタッタッと駆け寄ると同時に、
ボーーーン!! っと見えない何かにぶつかって、私の体は跳ね飛ばされた。
倒れ込む私に、「あゆちゃん! 大丈夫?!」と駆け寄る親戚達に囲まれながら、自分の身に何が起きたか全く分からず呆然として倒れていた。
私は何にぶつかって跳ね飛ばされたのでしょう。
それは……ピカピカに磨かれたエントランスのガラス窓だった。
バスに一番乗りしたい一心の私の目にはバスしか見えていなかった。
自動ドアでもない、ガラス窓の向こうに見えているバスに向かって駆け出し激突し、幼い軽い体は吹っ飛ばされていた。
何が起きたのか一瞬分からず、びっくりしたし痛くて泣きたかったけど、ガラス窓にぶつかったことに気付いた私は、痛い! よりも、子供ながらに恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。行きのバスでスカした態度をとってしまっていたから尚更、ここで泣いたらもっと恥ずかしいと、グッと涙を堪えた。
私がなぜガラスに突進していったのか理由に気付いた大人達は心配そうな顔していたのに、堪えきれず大笑いした。ひとしきり大笑いし、帰りはお望み通りバスの1番前に座らせてくれた。
だけど、あんなに必死になって乗りたかったバスの1番前の席も、さっきの失敗の恥ずかしさが勝ってしまい全然楽しめなかった。本末転倒である。バスの大きな窓から見える景色は輝くことはなく、いつもと一緒の地元の道だった。
幼い頃の記憶なのに今でも時々思い出す。思い出すというか、家族の中での鉄板のネタで時々話題に上がるからだ。
あの頃の自分は子供らしいな、素直に言えばいいのにとか、そこまでしてバスの1番前の席に乗りたいか〜? と思う反面、大人になった今でも、好きになったものや興味のある事には一直線になってしまう私は猪突猛進、さながら猪のようだ。さすがにガラス窓が見えなくなるほどのことは今はないけれど。
先日、この話を友人に話したら、やりたいことや推しのイベントがあると西へ東へとどこへでも駆けつけてしまう私の姿を見て、「いや今でも、もし急に窓の外に推しを見かけたら、慌てて駆け寄ってガラス窓に激突するでしょ〜」と言われた。
幼い頃の私よ、30代になっても周りからそう思われているんだから、ガラスに突進して激突したって大丈夫、そんなに恥ずかしがらなくてもいい、痛かったら泣いたっていいんだよ。バスの1番前の席に座ることはあの日の私にとって、それほどまでにやりたかったことなんだから。
***
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