メディアグランプリ

スマホの表面ガラスの稲妻はエベレスト登山口で光っていた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:みちこ(ライティング・ゼミ11月コース)

 
 
「たまにこういう人いるよね。ガラスにひびが入ったまま使ってる人」
 
私はスマホの画面を娘に見せながら、このままじゃだめかな、というニュアンスを込めて言ってみた。
かじかんだ手でスマホをいじっていて、舗道の上に落っことしてしまったのだ。
スマホの表面ガラスには左肩からキレイな稲妻が何本も走っている。
やってしまった。
とりあえず稲妻にセロハンテープを貼って保護した。
幸いスマホは健気に動いている。
 
「あーいるねえ。でもガラスがバラバラ落ちてきたら危ないじゃん。買い替えたら?」
 
娘は私が避けていた言葉を軽々と言ってのけた。
インターネットやスマホの契約はずっと夫の担当だった。けれど今、夫は単身赴任中だ。
今回ばかりは自分で何とかしなければならないが、行程も到着地点も見えず、エベレストに登るくらい困難に思える。
 
表面ガラスだけ修理して済ませようとも考えたが、修理費が2万4800円だと聞いてたじろいだ。
このスマホは4年半使っている。しかも今回、ガラスが割れるほどの衝撃を受けているのだ。
2万4800円で修理した途端「やっぱりだめでした。さようなら」とスマホが動かなくなってしまったら、悔やんでも悔やみきれない。
 
こうなったら店頭に行って購入しよう。それが安心だ。
オンラインショップは購入までの手順がややこしそうだし、データの引継ぎも自分でやらなければならない。失敗のリスクが高い。
 
ところが最寄りの店舗は予約でいっぱいで、かなり先になりそうだった。
 
試しにオンラインショップをのぞいてみた。
「初めてのオンライン購入」とある。次の画面では「機種変更なら最短5分」と。
あら、そんなに簡単なの?
見やすい字で画面遷移もスムーズだ。あっと言う間に機種を選ぶところまで辿り着いた。
そして私はメタリックに光る「限定色」に目を奪われた。このシリーズでは最新もののようだ。
この調子だったら私にもできるかもしれない。「限定色」ゲットを目指してこのままエベレストに挑もう。
 
意気揚々と登り始めた私だったが、次々と聞き慣れない用語が出てくる。何だっけ? と前の画面に戻ったら、もう先に進めなくなってしまった。あっけない滑落事故により、私はまた最初から登り始めることとなった。
 
「順調?」
 
遊びに行く準備万端の娘がのぞき込む。
私はさっきの地点まで戻るやいなや、壁にぶち当たっていた。
 
「なんかね、最新のスマホは通信システムが5Gになるんだって。それだと機種を選ぶ前に料金プランの変更をしなきゃいけないみたい。でも料金プランの変更はこのサイトじゃできないから、まず先に料金プランのサイトで申し込みしてくださいって書いてあるの」
 
「そうなんだ。がんばれー」
 
そう言って娘はウキウキと出掛けていった。
そういえば、今年85歳になる母がスマホの不調をずっと放置していたことがあった。
自分自信がよく分からないこともあり、私は早く店頭で相談するよう言うだけだった。今から思えばもっと寄り添ってあげればよかったと反省する。
投げたブーメランは戻ってくるのだ。
 
私は一旦オンラインショップから離れて、料金プランサイトへ向かった。
 
手続きも中盤になると、小さい字の確認画面が何度も何度も出てくる。目がしょぼしょぼして辛い。
でもこれは後々何かあったときに「え、読みましたよね? 確認する、のボタン押しましたよね? 知らなかったとは言わせませんよ」となるやつである。一応目を通してみる。
 
途中でメールの通知が来た。何気なく返信して戻ったら、オーマイガー!
サイトを閉じてしまっていた。またもや滑落事故。
滑落するたびに戻るスピードが速くなり、しまいには指が勝手に動くまでになった。
 
「お申込みいただいたお手続きが完了しました」
 
そのメールが来たとき、私は「やったー!」と叫び、スローモーションでソファーにダイブした。
達成感と安堵。
外は日が暮れようとしていた。今このマンションから見る夕日は、エベレストの頂きから見る夕日と遜色ないのではないかと思う。
 
スマホの危機管理が苦手な人は、私だけではないはずだ。
私は仕事上、私の母と同世代の方々と接する機会があるが、私の母もそうであるように、苦手なんだろうなと思う瞬間が多い。
一方で、スマホは安否確認の重要ツールでもあり、家族からすれば持っていてくれると安心だ。
例えばもし、一人暮らしの高齢者のスマホが急に故障してしまったら。
何をどうすればいいか混乱したとき、店頭の予約ができなければすぐに相談には行けないし、そもそも店頭が近くにあるとも限らない。
ネット検索やオンラインショップに至っては、小さな画面で小さな文字を沢山読まなくてはならず、それだけでも嫌になってしまう。
近くに助けてくれる人がいなければ、連絡手段が途絶えたままになってしまうかもしれない。
 
これは結構重要な問題ではないだろうか。
 
スマホトラブルに即対応してくれる出張サービス付きの相談窓口が、コンビニのようにあちこちにあったらどんなに便利だろう。高齢化社会にも光が差すはずだ。AIでできないのかしら。
二日後に届いた限定色のスマホの設定に苦戦しながら、私はそんなことを考えていた。
 
 
 
 
***

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2025-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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