指輪はひとつでいい?婚約指輪に込められた意味を知った日
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:内山遼太(ライティング・ゼミ1月コース)
「婚約指輪って、本当に必要なんだろうか?」
冬の午後、カフェの窓際に座ると、冷えきったガラス越しに街の景色がぼんやりと映っていた。指先でそっとこすっても、すぐに白く曇る。外では風が強く、街路樹の枯れ葉がくるくると舞い上がっている。通りを行き交う人々の吐く息は白く、コートの襟を立てて足早に歩いていく。そのすぐ向こうで、信号待ちの車がエンジン音を響かせた。
カフェの店内は暖房が効いていて、ふんわりとしたコーヒーの香りが漂っている。マグカップを両手で包み込み、温かさを感じながらも、心の中には小さな迷いが残っていた。
ジュエリーショップの予約はもう済ませてある。プロポーズに向けて動き出したはずなのに、まだ確信が持てない。指輪は結婚指輪だけじゃダメなのか? 婚約指輪はプロポーズのためのものだとわかってはいるけれど、実際のところ本当に必要なんだろうか。
「そろそろ決めようと思ってるんだよね」
そう切り出すと、向かいに座る友人がカップを持つ手を止めた。
「えっ、ついにプロポーズ!? 婚約指輪、どんなのにするの?」
「いや、それがさ……そもそも指輪って二つもいるの?」
「え? 本気?」
友人はスプーンを持ったまま固まり、数秒間私をじっと見つめた。
「いやいや、普通買うでしょ?」
「だって、婚約指輪と結婚指輪ってあるけど、プロポーズのために買うなら婚約指輪でしょ? それに、最近は婚約指輪を買わない人も増えてるって聞くし、どうせ結婚指輪を買うなら、婚約指輪いらないんじゃない?」
友人は少し考えてから、カップを持ち直した。
「まあ、確かに最近は買わない人もいるみたいだよね。でもさ、せっかくなら指輪をもらうのも憧れじゃない?」
「憧れ、か……」
ミルクの表面に描かれたラテアートが、ゆっくりと消えていく。そんなふうに、私の迷いも自然に消えてくれればいいのに——。
実際、婚約指輪を買わないカップルは増えているらしい。ある調査によると、「婚約指輪を購入しなかった」と答えたカップルは30%を超えるという。特に20代後半のカップルではその傾向が顕著で、「使う機会が少ない」「その分、新婚旅行や家具にお金を使いたい」という実用的な意見が多い。なかには「実家の母が『結婚指輪があれば十分』と言ったので購入しなかった」というケースもあるという。
「プロポーズするなら、やっぱり指輪があった方が気持ちは伝わるんじゃない?」
「うーん……」
友人の言葉はもっともだけど、それでもまだ納得しきれないまま、週末を迎えた。
予約していたジュエリーショップに足を踏み入れると、ふわりと温かい空気に包まれた。外の冷たさが一瞬で和らぎ、ショーケースの中で輝く指輪たちが、まるで小さな星のように光を放っている。
「本日はご予約ありがとうございます。プロポーズ用の指輪をお探しですね?」
スタッフの女性が柔らかく微笑む。
「はい。でも……正直なところ、婚約指輪が本当に必要なのか悩んでいまして」
そう打ち明けると、スタッフは少し頷き、「よく聞かれる質問です」と優しく微笑んだ。
「確かに、最近は婚約指輪を買わない方も増えていますね。でも、婚約指輪には『婚約の証』という大きな意味があります」
「証……ですか?」
「はい。結婚指輪は、夫婦としての日常で身につけるもの。一方、婚約指輪は『私はこの人と結婚します』という意思を象徴するものなんです」
彼女は続けた。
「婚約指輪を贈ることは、相手に対する誓いの証明であり、また、お相手の方が周囲に『私は婚約しています』と伝える手段にもなります。例えば、職場で『この人は婚約者がいるんだな』とわかることで、余計なトラブルを防ぐことにもつながるんですよ」
なるほど。確かに、目に見える形で『婚約中』とわかるのは安心かもしれない。
「……買います。」
自分の声が思ったよりもしっかりしていて、少し驚いた。指輪の輝きを見つめると、その小さな光の中に、彼女の笑顔が浮かぶ気がした。
店を出ると、冬の空気が頬を刺した。ポケットの中の小さな箱をそっと握る。まだ誰の目にも触れていない、小さな約束の証。
この指輪を渡す瞬間を思い描くだけで、胸が高鳴る。彼女はどんな表情をするだろうか。驚くだろうか。それとも、涙ぐんでしまうだろうか。
プロポーズは、まだこれからだ。
彼女が喜ぶシチュエーションを考えて、場所を選び、言葉を準備しなくてはいけない。夜景の見えるレストランにしようか。海の見える場所もいいかもしれない。あるいは、二人でよく行くあの公園のベンチで、さりげなく渡すのもいい。
遠くで教会の鐘の音が聞こえる。空を見上げると、薄い雲の切れ間から、かすかに夕陽が差し込んでいた。光が地面に淡い影を落とし、未来へと続く道を静かに照らしているようだった。
準備することはたくさんある。でも、不思議と心は晴れやかだった。
プロポーズが成功したかどうかは、またいつか話す機会があれば、そのときにお付き合いください。
***
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