メディアグランプリ

オタク夫婦、家を買う

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:アオノスミレ(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
「狙撃されたら危ないでしょ!!」
 
これは家を買うために、夫と家族会議を開いていた時に私が発した言葉だ。なぜ、『狙撃』などという物騒な言葉が出たのか?
 
夫が選んできた戸建て住宅は、訳あり物件ばかりであった。狭い敷地にギリギリに建てられていて、リビングの窓を開ければ、そこはすぐに道路であるため、通行人から家の中が丸見えになりそうな家だったり、全く収納がない家だったりした。
 
「こんな外から丸見えの家は嫌だ。すぐに空き巣に入られそうじゃない」
「収納ない家なんて暮らせない」
 
こう言っても、住み心地や安全性よりもコスパ重視の夫は聞く耳を持たない。夫は、ゲーム大好きオタク、ゲーオタである。ゲームさえ出来れば住み心地などでもいいため家選びもこうなったのだ。独身時代の家は、今にも崩れそうな風呂なしの木造アパートであった。もちろん夫以外に住んでいる人はいなかった。
 
ゲーオタの夫をなんとか説得しなくてはいけないと思った。ふと、夫は銃で相手とパンパン撃ち合うゲームが好きだったことを思い出した。そこで、こう言ったのである。
 
「こんな外から丸見えの家は、狙撃されたら危ないでしょ!!」
 
夫は尊敬の眼差しで私を見た。
 
「スミレ、お前、狙撃されることも考えて、家選びをしていたのか! お前、賢い嫁だな!」
 
それから夫の家探しの視点は変わった。2人で住宅地を歩いていると、夫は周りの家を見ながら感心したように言った。
 
「なるほど。この家はここに塀を置いて防御力を高めているんだな」
「この家は、ここに木を植えて、敵の動線を断っているのか」
「確かに収納は必要だ。敵から身を隠せる」
 
何か収納の使い方がおかしい気がするするが、夫の防犯意識は高まった。そして、防犯意識の高まった夫は、超人的なスナイパーが活躍する漫画『ゴルゴ13』を読み始めた。「どうせ家を買うなら、ゴルゴ13に狙撃されても大丈夫なくらい防御力の高い家を買おう」との理由からである。
 
しかし、国家の要人でもない我々オタク夫婦が、狙撃されることなどあるのだろうか?
 
私は夫に義理の母から家探しのアドバイスをもらうように勧めた。いやもう、私の手に負えなくなってきました〜。お義母さん、あとよろしくお願いします〜。
 
しかし、義母へ電話をかけている夫の横にいた私は、我が耳を疑うこととなる。
 
「おう、母ちゃん。家ってさ、どうやって買うの?」
 
そこから! そこから、始まるの⁉︎ おっさんと呼ばれる歳になった息子にこんなことを聞かれる義母の心中を思い、私は心が痛くなった。その後、「狙撃されたらさ〜」という夫に対して「アンタ、一体どこに住むつもり!」と返す義母。懲りずに「でも敵の動線がさ〜」と言う夫。「お母さんは、アンタのいうことはさっぱり分からないわ! なんでもアンタの好きなようにしなさい!」と夫にキレる義母。最後に義母は私に電話を替わるように夫に言い、私にこう言ったのである。
 
「スミレちゃん、頑張って。大丈夫。スミレちゃんなら、絶対いい家が見つけられるから!」
 
私は、義母へパスしたボールが再び私のところへ戻ってきたのを感じた。
 
同時に私の頭にサッカー漫画『ブルーロック』が浮かんだ。これは世界一のストライカーを目指す少年たちを描いた漫画である。そう、世界一のストライカーを目指すなら、大事なところで日和って、「あとよろしく〜」と味方にボールをパスしてはいけない。自分でボールを蹴って、ゴールを狙いに行かなくてはならないのだ。
 
私、ストライカー目指してないけど〜。これ、我々夫婦の家探しの話だけど〜。
 
『ブルーロック』に例えるなら、今の私は家探しの鬼才である夫を前に完全に日和っている状態である。『ブルーロック』の主人公だって、天才鬼才の出現に心が折れそうになったけど、乗り越えてきたじゃないか。うん、だから、きっと大丈夫。
 
そして、冷静に考えてみれば、夫の案にダメ出しばかりしていて、自分の住みたい家について話をしていなかったなと思った。目標を決めなければ、戦術も立てられない。自分のプレースタイルも見つからない。ふむ。私の目標を、私の理想の家を考えよう。
 
防犯意識だけでなく、防災意識も高まった夫は、米軍特殊部隊が出てくるサバイバル番組を見始めた。「災害に備えて、ジャングルの中でもナイフ一本で生きていく術を学ぼう」と言っている。
 
一体、どんな災害に備えているのだ。しかし、もう引きずられるものか。
 
夫婦生活は難しい。相手の妙な言動にイラつくことだってある。自分の言っている言葉が相手に通じず、キレそうになることだってある。そして、些細なことで、ぶつかり合うことだってある。でも、途中で試合を、対話を放棄してはいけない。その積み重ねで、一つのチームになっていくのだ。
 
我々夫婦は無事に家を買いました。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-02-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事