メディアグランプリ

タイミングの良い変態と私のファーストTバックの思い出


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:きりの鮎美(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
「ハァ、ハァ……」
今日も電話が掛かってくる。ガサゴソとした音と共に何を言っているかよくわからない電話が。
女性の多い職場での接客業をしていると、慣れるほど掛かってくる。
そう、イタズラ電話だ。
 
20代前半の頃、田舎のショッピングモールで化粧品の販売員をしていた。
商品の研修を終え店舗に配属された時に、まず初めに教えてもらったのが、イタズラ電話への対処法だった。
そんなに掛かってくるのかよ、と思っていたが、まぁまぁ掛かってくるのだった。
 
イタズラ電話のバリエーションはいくつかあったが、どのイタズラ電話にもマニュアル通りに「もしもし? お電話が遠いようですが、こちらから掛け直しましょうか?」と言って返答がない場合は電話を切る毎日。
私はそんな電話、特に気にしないタイプだった為、またかと思い電話対応をこなしていた。
 
でも、その日は違ったのだった。
その日は忘れもしない、私にとって、初めてのTバックを身につけていた日だった。
 
私にとって初めてのTバック、そう、それは私にとってファーストTバック。
ちょうど数日前、高級下着メーカーのTバックを友達から誕生日プレゼントにもらった時だった。
毎年、デパートコスメ(通称:デパコス)を贈りあっていた友達から変化球でもらった、忘れもしない、サルートの上下セットの下着。そしてショーツがTバック。
 
別に、Tバックといえど、ただのパンツじゃない! と、思いつつも、初めて自分のモノになったTバックは二十歳そこそこの私の心をリオのカーニバルの如く躍らせていた。
 
もらったプレゼントの包み紙を開いては、早くTバックを履いてみたくてたまらなかった。
これって、履いたらどんな感じなんだろう、違和感ないのかな?
いやいや、別にただのパンツでしょ〜、と、日々Tバックを手に取りながらも、Tバックに想いを馳せ、浮かれる自分が気恥ずかしく、そんな気持ちを隠したくてすぐにTバックを履くことができなかった。
 
それでも私はとうとうTバックを履いてみたいと言う想いが溢れ我慢できずに、なんの予定もないただの仕事の日にTバックデビューを果たした。
 
Tバックを履いて出勤した私は普段通り店頭に立ち接客する。
「いらっしゃいませ〜」と言いながらも、心の中では「私は今日、Tバックを履いているんだ!」と言う、謎の誇らしさで胸がいっぱいだった。誰も気付くはずはないのに。
 
平日の昼間は田舎のショッピングモールだから客足は少なく、一人勤務で暇だった。
せっかく、Tバックデビューの日だったのに。誰かにこの気持ちを伝えたいのに。
 
そう思っていたのも束の間、店舗の電話が鳴った。
他店からの在庫確認か? はたまたお客様からの取り置きか? と思いながら電話に出てみると、シーンとした電話の向こうからガサゴソ、ハァハァ、微かに聞こえてくる。
 
あ、またイタズラ電話かぁ〜、と思いながらマニュアル通りに電話を切ろうとしたその時、その変態が質問をしてきたのだった。
 
「ハァハァ……お姉さん、今日のパンツ何色ですか?」と。
 
私は我が耳を疑った。
だって、まさにTバックデビューのこの日にパンツの色を聞いてくるなんて!
私が今日、Tバックデビューだと知ってて電話してきたのかと思うほどピンポイントだったからだ!
あ〜、これは答えてあげたい!
 
「私は今日、初めてのTバック、青色だよ」と。
 
でも、これを答えてしまっては変態VS変態になってしまう。
イタズラ電話を掛けてくる変態のお問い合わせに対して、ご丁寧にパンツの色、そのうえ聞いてもいないデザインまで答える変態店員がいるとクレームになりかねない。
冷静に考えれば、そんなクレームを変態がしてくるとは思えないけれど。
 
ハァハァと返答を待つ変態を相手に、私は結局、マニュアル通りに電話は切ることしかできなかった。
 
後ろ髪引かれる思いで電話を切った後、ちょうど出勤してきた遅番の同僚に引き継ぎ事項としてイタズラ電話があった事を伝えた。
そして「私が今日Tバックだからこんな電話があったのかな〜? てへへ⭐︎」と、冷めやまぬ興奮からふざけて話をしてみたが、
「いや、それは関係ないんじゃない」と、一蹴された。
当時はノリが悪いな、と思ったが、今思えば同僚の言う通り、絶対に関係ないのである。
 
今でこそTバックを履くことなんて、嬉しくも、誇らしくも、なんとも思わなくなってしまったけど、あの頃の私にとってTバックは、履いているだけで、ちょっぴり大人な気持ちになっていた。
 
たかがTバック、されどTバック。
 
これから先の人生で、これほど心踊るものに出会えることを私は今日も探している。
 
 
 
 
***

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2025-02-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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