メディアグランプリ

8年やってた仕事が半年でAIに取られた話

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まこと(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
「月200万でやって欲しい」
 
僕は小さなITの会社をやっている。ある顧客企業のウェブサイト、Eコマース、顧客データベース……おおよそ全てのシステムを作り終え、クライアントから今後の運用について細かい予算配分の相談を受けた。
 
この「月200万円」の仕事というのは、その企業の商品を購入してくれた顧客に対するEメールやLINEのメッセージ配信を請け負って欲しいという話だ。それなりの仕事量ではあるが、効率のいい体制を作ればきちんと利益は出るだろう。そんな算段で受けることにした。
 
全ての始まりは8年前の2017年のこと。
 
知人から「手に負えないくらい忙しいから手伝ってくれ」と連絡があり、僕はこの仕事に参加することになった。ある商品が日本市場で売れはじめ、海外の本社からの特命で大規模な予算が日本支社にドカンとついたというのだ。
 
ウェブサイトから何まで、あらゆるデジタルの仕組みを最新のものに整えて、伸び始めたマーケットを一気に独占せよというお達し。僕は採用された翌週からクライアント先にぶち込まれ、EメールやLINEのメッセージ配信のシステム構築を担当することになった。
 
特にLINEは、ウェブサイトの会員情報の全てと連携し、Eコマースへの送客や季節キャンペーン情報の配信を担うデジタル施策の中核となるものだった。僕たちは2カ月間、毎日タクシー帰りで何とか形になるものを作り上げ、最終テストも無事通過。いよいよ同社初となるLINEからEコマースへの送客の初日を迎えた。
 
結果、大事故が起きた。
 
その時のLINE友だちの数は50万。
張り切ってメッセージ配信を開始すると、50万人が一挙にEコマースに殺到して、サイトがパンクしてしまったのだ。日本側では大きな予算がついてモダンな改修が進んでいるのだが、Eコマースは海外の本社側で管理しており、急激なアクセス増加に耐えられなかった。
 
「非常に残念です。季節商品の発売初日でもあり、機会損失は大きなものです」
 
クライアントから事故発生の一方を受け、僕はショックでしばらく立ち上がれなかった。当時は「働き方改革」なんて言葉は無く、連日の開発疲れと精神的なプレッシャーも相当なものだったようで、その直後から左目の視力を1ヶ月ほど失うことになる。
 
謝罪に訪問すると「ハイペースで開発をしているので、ある程度の事故は仕方ない」ということで、今後の対策としてLINEの配信ペースを調整する機能や、サイトへの負荷分散の仕組みを新たに構築していくことになった。
 
その後も色々な事故を繰り返しつつも2~3年でほぼ全ての仕組みを整え、システムとしては安定していった。また、営業現場の死に物狂いの努力もあり、結果的に商品は街を歩けば見かけない日はないレベルの大ヒットとなる。
 
自分が関わった商品を求めて人々がお店の前で行列を作る。こんな経験はなかなかできることではなく、この仕事ができてよかったと思った。死にかけたけど。
 
その後、僕が開発を担当したメッセージ配信のシステムは「月200万円」で配信の運用を請け負うことになる。文面作成やデザイン、実際のメッセージ配信も業務範囲だ。
 
当初は僕が実務をやりながらも半年ほどでマニュアル化した。そこから業務委託を雇い、9割方は任せてしまった。こうして自分は何もしなくてもお金が入ってくるビジネスとして大いに稼いでもらうことになり、少しだけ楽になった。
 
それから数年経った2024年の夏、クライアントから呼び出しがあった。
 
「このメッセージ配信、インドに移管することになりました」
 
とうとう来たか……。
仕事がなくなるのだ。
 
僕の例に限らず、こういうメッセージ配信のような仕事は「完全自動化されるのは時間の問題」と20年近く前から言われ続けている。
 
とはいえ、実際の現場というのは、そういう技術や、絵に描いた餅のようなアイデアが綺麗にスポっとハマるほどシンプルではない。複雑な事情と事情の間を埋めるように、僕のような人間に仕事の余地がある。
 
今後、日本語のコンテンツはクライアント社内の人間が担当する。
それ以外はインドで管理しているシステムとAIで回すようにするので、インドのシステムへの移行を半年で終わりにするように、とのことだった。
 
やれやれ。この仕事、進めれば進めるほど、自分で自分の身体を切り刻んでAIに餌をとして与えていく感覚だ。気乗りなんてするわけもなかった。インド側の移行責任者も偉そうな感じであれこれ言ってきて好きになれず「この仕事が終わればお前だって仕事がなくなって全部機械がやるんだぞ」と言ったら黙りこんでしまった。
 
こうして半年後、あっさりと月200万の売上はストップした。
企業はコストを減らし、機械で自動化できるものなら全て機械で置き換えていく。24時間休みなく働くし、文句も言わない。人間に勝てる要素なんてないのは分かりきってる。
 
こんな流れは今に始まったことでもなく、ずっと起きてきたことだ。トラクターを使わずに鍬で田畑を耕す農家はいないだろうし、EメールやLINEを拒否してハガキや手紙だけで生きることなんてもう不可能だ。
 
終わってみれば、僕はこの状況にとてもポジティブだ。
月200万の仕事を失って金銭的には痛い思いをしているが、この痛みが糧になる。むしろ早めにこの「AIリストラ」を体験できてよかったとさえ思う。
 
AIがあることで、これからの仕事というのは大きく変わってくる。この文章を読んだ人の中にも「AIリストラ」にあう人が早晩出てくるだろう。僕からできるアドバイスとしては、「AIリストラ」が自分に降りかかってきたら、無理な抵抗をせずに、この大きな社会変革への参加を楽しむくらいのマインドセットがいいと思う。
 
金銭の面で「AIリストラ」は一時的には大変な思いもあるかもしれないが、トラクターと農家の話も思い出して欲しい。新しい技術があることでどんな楽しいことが起こるかな? と想像した方が圧倒的に生産的な気分になれる。
 
もしくは「AIに取られない」という観点で、別の仕事を探してみるのもいいかもしれない。高齢化や若年層離れ、それに伴う人手不足と重なって、給料がここ数年爆上がりを続ける業界や仕事が実はたくさんあったりする。
 
「いらない」と言われるところにしがみつくより、「来てくれ」と言っているところに行く方が気分もいいだろうしね。
 
 
 
 
***

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2025-02-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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