いまだ見ぬ保存瓶で季節を捕まえる狩人になりたい
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:永堀ちあき(ライティング・ゼミ1月コース)
「えっ、こんなに寒いのに塩レモン?」
スマホの画面で、「季節の手仕事 塩レモン」というタイトルが目に留まった。
塩レモンといえば、うだるような暑さの、真夏のイメージだ。皮膚にまとわりつく蒸し暑さを一気に吹き飛ばしてくれそうな、塩味、すっぱさ! 「塩レモン味」の飲み物が自販機に並んでいたら、ついつい買ってしまうやつだ。
頭の中で、蝉の声が流れ出す。
しかし、今は2月、真冬。外を少し歩けば、耳が冷たくなってちぎれそうだ。いったいどういうことだろう?
動画を再生してみる。
「国産レモンは、12月~3月の寒い時期に旬を迎えます」
あっ、そうなんですか。蝉の効果音が止まる。
レモンを切って、粗塩といっしょに保存瓶で漬けこむ。1か月ほど発酵させて、とろりとしてきたら「塩レモン」のできあがり。
自家製塩レモンは、冷たい水で割ってドリンクにするもよし、料理やお菓子作りに使ってもよし。万能調味料として活躍してくれるようだ。
こういう「季節の手仕事」には、ぼんやりとした憧れがある。
塩レモン以外で真っ先に思いつくのは、「梅仕事」。梅の実が旬を迎える季節に、梅シロップや梅酒を仕込むことをいう。
黄みどり色の梅の実と、氷砂糖とを、大きな瓶に詰める映像は、よく見かける。
初夏の陽気とあいまって、なんともさわやかな色合いだ。
ある友人は、夏が近づいてくると、たっぷりの新しょうがでもってジンジャーシロップを仕込むという。「こんなにたくさん砂糖入れなきゃいけないのか! って、いつもびっくりするんだよね笑」と教えてくれた。
ジンジャーシロップを作ったあと、残ったしょうがを料理に使うのも、これまた美味しいんだそうだ。
こうやって「季節の手仕事」をする人たちは、いつも私の一歩先を行っている気がする。
私とて、大人としてそこそこの年月を過ごしてきたはずなのだが、なぜか毎年同じタイミングで「あれっ、もうそんな季節?」とびっくりすることばかりだ。
加湿器をしまって、除湿器のスイッチを押す時期。
保険会社から、年末調整用の控除ハガキが届く時期。
クローゼットから、コートとマフラーを引っぱりだす時期。
それなりに生活というものをやっていれば、一昨年より去年、去年より今年と、できることが増えていくと思っていた。
しかし、現実はなかなかそうもいかない。
季節の変化や、社会の慣習に、あたふたしながら自分を合わせている。
そうして、着たい日に限ってシワッシワのTシャツにため息をつく。そういえば、去年もこんな感じだった。
いい歳して、かっこわるいなあ、と思う。
それにひきかえ、季節の手仕事が習慣になっている人たちは、季節に置いていかれたりしない。
こちらから、捕まえにいくのだ。
スーパーに出回る野菜や果物の「旬」を把握し、めあてのものが売り場に並び始めたなら、ぬかりなく仕留める。獲物の行動を熟知した、ベテランの狩人のように。
そして、獲物を一番おいしく、長い時間楽しむために、自分なりの工夫と手間暇を惜しまない。
なんてかっこいいんだ!
息を切らして季節を追いかける私とは、まさに正反対。そして、なりたい大人のイメージそのものだ。
影響されやすい私のことである。がぜん、塩レモンを作ってみたくなった。
もし、こんな私でも首尾よく国産レモンを仕留めることができたとして、その後はどうするんだ?
もう一度、先ほどの動画を再生する。
「まずは保存瓶を用意します」
そんなものはうちにない。
出だしからいきなりつまずいている。
自炊で作ったおかずを2~3日保存するための、ペラペラのタッパーしかないぞ。
塩レモンは、1か月くらい発酵させるから、密閉できるちゃんとした瓶がいいのか。なるほど。それは理解できた。
じゃあ、保存瓶も手に入って、レモンも買ってきたとして。いよいよ塩レモンの仕込みだ。
最初は何から始めればいいんだろう?
「保存瓶を煮沸消毒します」
瓶を……煮る……だと……?
動画では、大きな鍋の中で、保存瓶がぐつぐつ煮られている。
ちょっと待て、レモンを切るより先に、保存瓶を煮ないといけないのか?
「瓶についた雑菌を殺菌して、保存性を高めるため、保存瓶は必ず煮沸消毒しましょう」
瓶って、煮たら消毒できるんだ……知らなかった。
たしかに、せっかく作った塩レモンが腐ってしまって、私まで腹を壊したとなったら、そりゃ困る。
それにしても、レモンをどうこうする前に、ここまでしっかりした下準備が必要だったとは。
季節を迎え撃つのも、そう簡単なことじゃない。
こんなことも知らない大人なので、老練の狩人にはまだまだ遠そうだ。
しかし、見習いの狩人くらいには、早くなりたい。
お店に足を運んで、保存瓶を選ぶ時間すら惜しい。通販サイトで「保存瓶 密閉」と検索してみる。実のところ、どれがどういいのか、あまりよくわからないけど。
ようやく、よく知られているらしきガラス容器メーカーの、小ぶりな保存瓶に決めて、購入ボタンを押した。
よし、保存瓶が届いたら、煮沸消毒して、念願の塩レモンを作るんだ。
きらきらした黄色い宝石が、淡い月あかり色のペーストへと変化していく過程を想像して、わくわくしてきた。
そして、その日がやってきた。
パッケージを開けて、瓶を取り出す。イメージ通り、かわいらしい瓶だ。
思わずにっこりしてしまう。
でも、塩レモンの前に、まずは取扱説明書を読まないと。えーっと、なになに……
「この瓶は煮沸消毒できません」
なん……だと……?
かっこいい狩人への道は、あせらず行くのがよかったみたいだ。
見習いなんだし、気を取り直して、いまだ見ぬ「煮沸消毒できる保存瓶」を探しにいこう。
そして、その瓶で今度こそ、レモンのきらめきを捕まえてみせるのだ。
***
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