同窓会で見た30年目の現実
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:777(ライティング・ゼミ11月コース)
「当時の俺は、自分が絶対に正しいと思っていたし、俺より頭のいいやつはいないと思っていた。いま振り返れば、そんなふうに自惚れていた自分は本当に馬鹿だったし、すごく嫌なやつだったと思う」
30年ぶりに会ったむかしの友人は、まっすぐ私を見ながら、思い上がっていたかつての自分をひどく後悔し、反省した。そして、これからはIT企業で働いてきた知見を活かして、「地元を再生して、みんなの生活を良くしたい」と力強く語った。
彼は昔から優秀で何事にもまじめだったから、その30年目の告白は私にとってはとても意外だった。けれど、自分の行いを素直に反省し、だれかのために仕事がしたいと言う姿には、30年分の苦労と成長が滲み出ていて頼もしく見えた。
中学校の同窓会でのやりとりだった。卒業から30年経って初めて母校の校舎で開かれた大規模な同窓会だった。
田舎の公立学校だったから、ほとんどの同窓生が小学校からいっしょで、高校進学を機にバラバラになった。その後も交流のつづいた数人をのぞけば、みんなときちんと会うのは卒業式以来だった。
40代半ばになった同窓生たちがどんなふうに変わっているのか、想像がつくようでいまひとつ想像できなかった。しかし当日、幹事の一人として会場の受付に立っていると、出席者の姿が遠くに見えた瞬間、その風貌や歩き方からすぐに誰だかわかった。
「僕のこと覚えてる?」
「覚えてるよ!」
来る人、来る人、そんなやりとりをくり返した。たしかに姿形は年齢相応になっていたが、声やちょっとした仕草はむかしのまま、という人がほとんどだった。
会がはじまると、30年前と現在が渾然一体となったような不思議な時間が流れた。
部活動や体育祭、文化祭、恋愛事情など思い出話に花が咲き、まるであのころにもどったような気分になった。かと思えば、企業で重責を担っていたり、起業して全国を飛び回っていたり、早期退職してゆったり暮らしていたりと、いまの仕事や生活、家族のことにも話は広がって、30年という時間の長さをひしひしと感じた。
良い年齢の重ね方をしていると思える人が大半でほっとした。しかし、喜ばしいことばかり、というわけでもなかった。
かつてはあった棘のようなものがなくなって丸くなったと感じられた人もいれば、かつてはなかった屈折のようなものがついたと感じられた人もいた。
中学生のときはつっぱっていたが、その後町役場に勤めて地域を支えてきたといううれしい報告を聞かせてくれた人がいる一方で、三十代に発症した難病といまも戦いつづけているという厳しい現実を話してくれた人もいた。
また、当日出席しなかった人のこともたくさん話題にのぼった。そこで若くして他界した人がいることや、正道からはずれた生き方をしているらしい人がいることも知った。
「今回出席した人は、ある意味、成功した人間だと思う。むかしの友達にいまの自分の顔を見せられるのは、人生がうまくいってるからだよ。うまくいってなければ、顔を見せたいとも、見たいとも思わないんじゃないかな」
ある同窓生が言った。傲慢な口ぶりではなく、この30年間の裏面に対する冷静な指摘だと私は思った。
こうした遠いむかしと現在の出来事をいっときに話せたのは、当然ながら30年という年月を経たからだ。こういう体験ができるからこそ、歳をとってよかったとしみじみ感じる。でも年齢を重ねることは、とかく世間では悪く言われがちだ。
「歳はとりたくない」
「老けたくない」
「じじい」
「ばばあ」
「老害」
私も十代や二十代のころは、自分が老いた未来を肌感覚をもって想像することはできなかった。想像するのは難しいのに、確実に「老い」がやってくることはわかっている。自然と不安になり、不安を解消するために、目上の人を、歳をとっているという理由だけで悪く見たり、悪く言ったりしたこともあった。
しかしいま、歳をとった自分を悪く思うか、嫌だと思うかと言えば、まったくそんなことはない。むしろ歳をとらなければ感じられないこと、経験できないことが無数にあることを知った分、若いころより積極的に歳を重ねていきたいと思っている。50代、60代、70代、そのときどきにおいて、肉体の変化や社会環境に合わせた新しい体験と感情が待っているのだ。
もちろん白髪が増えた、体力が落ちた、物忘れがひどくなったと、いろいろ苦労することも増えるだろうが、そういうことも含めて、いまは年齢を重ねる“体験”そのものが楽しくて仕方がない。
人生はいいことばかりではなく、つらいこともあるし、ときには立ち直れないと思うほどに打ちひしがれることもある。それでも、ひたむきに毎日を生きて、年齢を重ねていけば、見えてくるものが必ずある。
こう言えるのは、それを証明する出来事を実際に自分で体験してきたからで、30年前の自分には絶対に言えなかった。これを成長と呼ぶなら、人生の折り返し地点をすぎても、まだまだ成長していきたいし、これまでの経験則と知恵をもってすれば、もっと望むかたちで自らを成長させていけるだろうとも思う。そうして、その年齢、年代ならではの感情や人生の変化を味わっていきたい。同時に、歳をとることにネガティブなイメージをもっている若い方たちに伝えていきたい。歳をとるのって案外いいものだよ、と。
30年ぶりの同窓会は、公式の会が終わったあとも多くの有志が残って何度も店を変え、最終的に四次会まで行って午前二時におひらきになった。
そこから家が同じ方角の数人で夜中の田舎道をぶらぶらと歩きながら帰ることになったが、途中でコンビニエンスストアを見つけると、またまた店先で中学時代のように立ち話をはじめた。このときになるともう昔話ではなく、未来の話に軸は移っていた。人口流出がすすむ地元をどうすれば盛り上げられるのか、ビジネスの観点から議論を交わした。こういう話ができるようになったのも、みんなが会社や社会で一所懸命働き、生きてきたからだ。
結局、午前四時すぎまで話し込み、最後にまた会おうと約束して私たちは別れた。
ひとりになると、楽しい時間を過ごせた充実感とともに、どこか落ち着かない気持ちがのこった。部活動の試合前に感じた期待と不安にも似た、この胸のざわめきは何だろう?
原因はすぐにわかった。中学生の自分には話せなかった、具体的で実現性のある町おこしのためのビジネス計画、最新技術を用いた地域振興計画について、同窓生と語り合ったからだ。古い友人たちの立派な姿としっかりした考えに触れて、自分も自分の理想に向かってもっとやっていきたいという意欲を掻き立てられたからだ。
同窓生たちとの30年ぶりの再会は、ただ懐かしく思い出に浸るだけのものではなかった。それは、つぎの30年に向けて背中を押してくれる、とても大きくて心強い刺激と激励だった。
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