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エアコンのフィルター掃除を5年サボったので人間らしさについて考えてみた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永堀ちあき(ライティング・ゼミ1月コース)
 
 
いつかは、こんな日が訪れると思っていた。
そして、今日がその日ではないとも思っていた。
できれば、今までと同じ日々がだらっと続いてほしかった。
 
しかし、そう思い続けた日々は、今日で終わりのようだ。
深く息を吸って、告げる。
 
「では」
 
相手の返事はない。
 
「いざ勝負!」
 
踏み台から落っこちないように気をつけながら、エアコンのカバーの両側に、手を掛ける。
ゆっくりと持ち上げると、ガコンと音がして、浮き上がるようにカバーが開いた。
 
「うおっほっほほほ~う、こりゃひどい」
 
何が起こっているのか、説明しておこう。
今から、わが家のエアコンのフィルターを掃除するところである。
多くの人には、あまりにもありふれた、日常の一コマにちがいない。
 
しかし、私にとっては、5年越しの一大イベントだ。
それもそのはず、このアパートに住み始めたのも5年前。今日のこの日を迎えるまで、ただの一度も、エアコンのフィルターを掃除したことがない。
 
「うっそだろ」と思ったあなた、落ち着いてほしい。
そもそも人間というものは、頭で分かっていることと、行動に移せることが、一致しないことのほうが多い生き物だ。
 
宿題をやらないといけないのは分かっているけど、ゲームがはかどってやめられない。
今の職場に不満はあるけれど、転職活動には踏み出せない。
感謝の気持ちを伝えないといけないのに、つい粗野な言動が先に出てしまう。
 
思い当たる節がない人など、本当にいるだろうか?
ふるまいと、本心とのギャップ。そこにこそ、その人の生い立ち、背景、価値観が現れる。一筋縄ではいかない、人間のおもしろさがあるってものだ。
 
そう、エアコンのフィルターは定期的に掃除したほうがいい。そんなことは分かっている。
なんなら、ChatGPTにだって質問した。「エアコンのフィルターを5年間しないと、どんな影響が考えられますか?」と。それこそ毎年1回くらい、定期的に尋ねた。
 
GPTくんは利口なので、「いくつかのネガティブな影響を挙げてみますね」と言って、大変わかりやすい箇条書きで答えてくれる。
エアコンの性能の低下、電気代の増加、健康への悪影響、異臭の発生、エアコン本体の故障リスクの増加。
 
そのうえ、「解決策」まで提示してくれる。
「定期的な掃除(通常1~2カ月に1回程度)をおすすめします。掃除機で吸い取ったり、水洗いをしたりするだけでも、フィルターの清潔さを保てますよ」
 
私は「まあ、そうでしょうね!」と感想を述べて、スマホをベッドに放り投げた。
フィルター掃除をサボる悪影響を、GPTくんがこんなに切々と説いてくれたところで、私という人間は、まだ行動を起こさなかったのだ。
 
頭で分かっていることと、実際の行動とが、まるっきり矛盾する。
その点において、昨日までの私は、誰よりも人間らしかった。
 
しかし、その人間らしさを今、私は捨てようとしている。
 
それはなぜか。
これ以上、自分の行動ゆえに、「怪物」を育てるわけにはいかないと思ったのだ。
 
思い返せば、この5年間、とくに夏と冬、エアコンを見上げながら、なんとなく想像していた。
「このカバーの下にあるフィルターは、今ごろどんなふうになっているんだろう」と。
 
でも、そのたびに、その考えを封じ込めた。
ふたをして見えなくしてあるなら、できれば開けずに、見ないですむほうがいい。
だって、めんどくさいし。
それに、フィルターがもし、とんでもない姿をしていたらどうする?
信じられない量のほこりに覆われ、滴るばかりのカビにまみれていたとしたら?
考えただけでも恐ろしい。それを受け入れるだけの、心の準備もできてないし。
 
そんな思考を繰り返すうちに、5年間が過ぎてしまった。
この家に住み始めたのも、そういえば今ごろの時期だったと思い出す。
人間、あれしようこれしようと思いながら、やらない理由を見つけて何年でも過ごせちゃうんだと、愕然とした。
 
それだけじゃない。
自分の心を守るため、フィルター掃除から目を背けていたはずなのに、かえって、自分の心身に害をなす怪物——掃除しないままのフィルターという、恐ろしい「怪物」——を育てていたことに、5年の時を経て、ようやく気がついた。
 
ChatGPTくんが必死で説明していた、「5つの悪影響」が、1体の怪物としてむくむくと成長し、私の健康を日夜、少しずつむしばんでいく。
 
こんなことではいけない!
ここで変えなくてどうする。
 
なーにが、思ってることとやってることが矛盾するのが人間らしい、だ。
そう言えるうちはまだいい。
もし、汚れたフィルターがもとで健康を害して、病気になったとしたらどうする。
自分で自分の寿命を縮めながら、人間らしさがどうのこうのなんて、ぬかしてる場合か?
 
人間、自分を変えることはとても難しい。よく言われることだ。
実にその通りだと思う。この私の5年間が証明している。
しかし、自分で自分の考えを改めて、行動に移せるのもまた、人間らしいんじゃないのか。
そうやって、生き恥さらしながら、人類はこの世界を、昨日よりもマシな場所にしてきたんじゃないのか。
 
そんなわけで、サイクロン掃除機をかついでエアコンの前カバーを開けると、これがまあ、笑っちゃうほどすごかったというわけだ。
灰色のモコモコのほこりがフィルター一面に貼りついて、「え? もともとこういうシートがくっついてましたけど?」みたいな顔をしている。
 
「そんなわけあるかーーーーっ!」
吸引を「強」モードにして、猛然とほこりを剥がしていく。
 
結局、フィルター掃除は10分で終わった。
なんてあっけない。
行動に移してしまえば、意外とあっさり済むものなんだ。
また一つ、大切なことを学んだ。
 
さあ、次なる相手は、給水タンクを2年間あけていない加湿器だ。
どうか、私に勇気をください。
自分で作り出した悪循環を、自分で断ち切ることができる人間らしさを。
 
 
 
 
***

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2025-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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