満席じゃないKT Zepp Yokohamaのステージに立つ人たちとそれを見る私
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記事:西尾たかし(2025年3月ライティングゼミ)
2025年4月11日のKT Zepp Yokohama(ケーティーゼップヨコハマ。以下「Zepp横浜」)は、満席にはならないだろう。
私はそれを知っているし、おそらく彼女たちも……それでも、彼女たちはその場所に立つ。
遡ること、1年前の2024年3月24日に「NUANCE(ヌュアンス)」というアイドルグループの前リーダー・川井わかの卒業公演を観た。私が東京を離れる前日のことだった。
その日のステージは横浜の中華街から歩いて15分くらいのライブハウス。春を迎えるにはまだ少し肌寒くて、会場に向かう道すがら、何度も「引越しの前日に何やってんだか」と、自分に突っ込んでいたことを覚えている。
私がNUANCEを知ったのは、コロナによる自粛が治まり始めたころのことだ。久々に訪れた当時のオフィスで居合わせた同僚に誘われ、渋谷の無銭のアイドルイベントでたまたま目にしたグループがNUANCEだった。
観客もまばらな小さ目のライブハウスで、彼女たちは他のグループとは少し雰囲気の違ったシンプルな衣装で、時には小道具としてイスを使用し、今どきのメロディとは少し距離を置いた楽曲に合わせて踊りながら、文学的なセンスがあるのかないのか分からない言葉を紡いでいた。
「なんだこれは?」という思いは、やがて「悪くないな」に変わる。曲と曲の間のグダグダなMC、それでも必死に何かを伝えようとする姿に、不思議と目が離せなかった。
NUANCEは、横浜を拠点に活動するいわゆるご当地アイドルで、テレビにも出ないし、ヒット曲があるわけでもない。けれど、SNSをチェックしてみると、しょっちゅう東京まで来てはイベントに出演しているし、名古屋や大阪にも遠征を行っているようだった。
その日から私は何度か、彼女たちが出るアイドルイベントに足を運んだ。「ファン」というには少し距離のある、でも確かに彼女たちを見守っていた一人だったと思う。
NUANCEを知ってから1年ほど経ったころ、私は東京を離れることになった。その理由はここでは語らない。ただ、上手く行かない日々が続いていたのは確かだ。努力が報われなかったこと、自信が持てなかったこと、自分自身を持て余していたこと。「何かを変えなきゃ」と思いながら、どこにも行けずにいた。
そんなときに届いたのが、川井わかの卒業のご報告だった。NUANCEの最後のオリジナルメンバーにして現体制のリーダーである彼女の卒業が、私に何かをあきらめさせたのか、踏ん切りをつけさせたのか、記憶が定かではない。
川井わかの卒業公演、それは彼女の物語でありNUANCEそのものだった。
決してスターだったわけじゃない。何度も悩み、立ち止まり、それでも最後までステージに立ち続けた人の姿が、そこにあった。
最後のMCのとき、彼女が言っていた言葉。
「私のことを忘れてしまうくらい、みんな幸せになってね」
私はその言葉に、勝手にどこか救われた気がした。彼女は、幸せだった、いや幸せなんだなと。
彼女の卒業後、NUANCEは新たな体制で歩みを続けている。時々、私の住む名古屋にも来てくれている。
そして、今年の4月11日、NUANCEはZepp横浜という大きなステージに立つ。キャパシティ2,000人位のライブハウス。それでも、今のNUANCEにとっては試練であり、確かな一歩だ。
Zepp横浜という箱は、インディーズで活動するアイドルグループには簡単にはたどり着けない場所。華やかさだけでは続かない。支える人の顔が見える関係で、少しずつ積み重ねてきた人たちが、やっと届く場所。
そしてその日のZepp横浜は、満員にはならないかもしれない。
でも、それでも彼女たちは立つ。
誰に言われたわけでもなく、胸を張れる数字があるわけでもなく。
それでも、「やれることをやる」。
最後まで、あきらめない。
それが、彼女たちの選んだ道だ。
まるで空へ放たれた風船のように。
誰が見ていなくても、どこまで届くか分からなくても、それでも手を離す。
空に浮かぶその風船は、すぐに消えるかもしれないし、どこか遠くへ届くかもしれない。
誰にも分からないけど、手から放たれたその瞬間に、すでに意味を持つ。
彼女たちは、そういう希望の示し方を、ずっと選び続けている。
「Sky Balloon」は、そんな彼女たちの姿勢をまっすぐに映し出した代表曲だ。
軽やかで切なくて、でもどこか揺るがない芯がある。
4月11日私はZepp横浜でNUANCEを見る。
私の日々は、あいかわらず何も変わっていない。NUANCEを見たからといって、すぐに自信が湧いてくるわけでも、答えが見つかるわけでもない。
けれど、ふとした瞬間に思い出すことがある。「今もあの子たちは踊っているんだろうな」と。
自分の足で立っている彼女たちを見るたびに、私は少しだけ踏みとどまれる。踏み出せないなら、せめて後ろに下がらないように。
何かをもらったと胸を張れる日が来なくても、それでも「見てきたこと」だけは、裏切らないでいたい。
アイドルを「夢を与える存在」と言う人がいる。
でも、私にとってのNUANCEは少し違う。
彼女たちは、夢を見させてはくれない。彼女たちは私に「現実」を見せつけてくる。その現実の中で、もがきながらも、今日を生きていくしかないということを、体中で表現してくれる。
その姿が、今の私には何よりもまぶしい。
彼女たちの光が、私に届かない日もある。そんな日の方が多いだろう。
それでも、届かなくても、見ている。
私はまだ見ていたいと思っている。
それが「応援」という形にならなくても。
彼女たちがZepp横浜のステージに立つ姿を、自分の小さな歩みと重ねながら、私はまた自分の場所で生きていく。
彼女たちは、これからも踊り歌い続ける。
誰かのためにではなく、自分たちのために。
私は、そんなNUANCEに出会えた過去を少しだけ誇りに思っている。
そして、2025年4月11日(金)KT Zepp Yokohamaで私はNUANCEと今を見る。
***
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