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形こそが漢字のキモだと思う


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記事:及川佳織(ライティング・ゼミ名古屋コース)
 
 
中国語を勉強している。
 
どの外国語を勉強しても、単語を覚えることには終わりがないが、中国語の場合、アルファベットを使う言語よりそのハードルは高いと思う。単語学習イコール漢字学習だからである。
 
以前、ロシア語のキリル文字ってかっこいいと思い、ロシア語をやっている人にそう言ったことがある。その時、その人はこう言った。
 
「あんなの、1日あれば覚えますよ。中国語の漢字、何万字あるんですか」
 
そう、中国語を勉強するということは、この何万字とも何十万字とも言われる漢字を1つ1つ攻略していくことだ。漢字を使う日本人にはアドバンテージがあるとはいえ、それは途方もない作業であり、中国語を学んでいる間は終わることがない。
 
地道な勉強を繰り返し、見たことのない新しい漢字を覚えることが当たり前になってしまって、もうそれを大変だとは思わなくなっていた。しかしキリル文字やローマ字といったアルファベットを使う言語と漢字との決定的な違いを指摘され、私は「そうか、漢字って非常口のマークなんだよな」と思った。
 
漢字には3つの側面がある。まずは発音。次に意味。ここまではどんな言語でも単語を覚える場合は同じだ。漢字の場合、それに「形」が加わる。
 
戈、戊、戍、戌、成……
1本だけ線を加える、あるいは1本だけ線を変えると、違う漢字になり、違う発音になり、違う意味になる。漢字にとって「形」は決定的に重要なのである。
 
そしてその形を覚えた人は、字を見た瞬間に意味が理解できる。
山道の脇に「危」という字があったら。
どこかの家の扉に「忌」という字があったら。
送られてきた荷物を開けて「祝」という字があったら。
その1文字は、漢字がわかる人から漢字がわかる人へのメッセージである。
 
非常口のマークも同じだ。このマークを知っている人は、火災があったらこのマークの出口から逃げるんだと理解できる。
漢字も非常口マークも、目で捉えた外観がそのまま意味になり、メッセージになる。
 
漢字は線という実にシンプルな要素だけでできているのだが、要素がシンプルであるがゆえに、折ったりカーブさせたり、それを組み合わせたりして、複雑な字をいくらでも作ることができてしまう。
 
たとえば「贏」という字。日本ではなじみがないが、「勝つ」という意味の日常語である。
この字、上から亡、口まではいいが、下に3つ並んだ月と貝と凡は、いつも順番がわからなくなる。言えるけど書けない字ナンバーワンだ。
 
今はパソコンやスマホで入力し、手書きなどほとんどしないから、月と貝と凡の順番がわからなくなっても、困ることはまずない。
 
しかし、パソコンやスマホであるがゆえにする失敗もある。字が小さい、あるいは筆画が省略されて表示されるための見間違いである。
 
たとえば「嬴」という字、これは秦の始皇帝の姓だが、画面で見ると「贏」(勝つ)ととっさに見分けがつかない(違いは下の真ん中が「貝」か「女」かである)。
 
もちろん実際には、文脈で区別でき、致命的間違いになることはない。
 
でもなんだかモヤモヤする。時間をかけて、1つ1つコツコツと漢字を覚えてきたのに。パッと見て、一瞬で理解できるのが漢字の良さじゃなかったのか。
 
こう思ったら、紙の辞書を手に取る。「贏」も「嬴」も実にクリアに、その形を見ることができる。
 
久しぶりに紙とペンを出して書いてみよう。漢字は形であること、一画一画を手に覚えさせ、書き上がった字を目に覚えさせることが漢字の勉強なんだと改めて感じ、漢字とは、本質的に手で書くものなのだという思いが強くなる。
 
でも、それも少しずつ、昔を懐かしむ感傷にすぎなくなっている。コンピュータでの漢字処理は、もうほぼ完璧だ。
「贏」と「嬴」が区別しにくいなどという問題は、解像度が上がり、フォントを大きくすれば解決してしまうことである。
 
今後、コンピュータの性能がさらに向上すると、漢字の直観性のメリットがより発揮されるだろう。
 
綴りを1文字ずつ追い、はじめて1単語を認識できるアルファベット言語と比較すると、そのメリットがわかる。1画面に表示できる情報量も多いし、読めるスピードも速い。コンピュータ画面上の文字には形のブレやくずし字がないから、迷うこともない。
 
かつては大きな問題だったアルファベットと漢字の情報処理量の差も、コンピュータの性能が上がれば小さくなっていくに違いない。視覚情報である漢字は、デジタルの世界でも大きなポテンシャルがあると思う。
 
しかし問題が一つ。これらはすべて、漢字がわかる人が対象だということだ。このポテンシャルを現実のものにし、享受するには、漢字を覚えなければならない。何万字とは言わないまでも、1つ1つ攻略していかなければならないことには変わりがない。
 
線が何本あるのか、どこが曲がっているのか、良く見て、書いて、繰り返して。
漢字は、いつの時代も、そうやって形を覚えていかなければならない文字なのである。
 
 
 
 
***

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2025-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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