花の雲
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:冨山 繁美(ライティング特講)
※この記事はフィクションです。
(大丈夫。お姉ちゃんがいるから大丈夫だからね)
小学4年生の花は心の中で呟きながら溢れそうな涙をグッと堪えた。膝にはかなり大きな擦り傷があり血が足を伝って靴下を赤く染めている。3歳の太郎は
「もう歩けない、お腹すいた」
と今にも涙が溢れそうだ。
2週間ずっと一緒にいてくれた祖母は
「いつまでも仕事休めないからごめんね」
と二日前に田舎へ帰ってしまった。父親は
「長くお休みがもらえるように会社に頼んでくる」
と言って昨日の朝出て行ったが夜になっても帰ってこない。(何かあったのかな? どこに行ったのかな? お父さんも帰ってこなくなったらどうしよう?)そう思いながら夜を過ごした2人は、朝になって家中を探しても食べる物がない事がわかり花は途方に暮れた。おばあちゃんが作り置きしてくれたおかずも炊いておいてくれたご飯もお父さんと一緒に食べてしまっていてもうなかった。
麦茶と牛乳でなんとかしていたが夕方になり太郎はぐずぐず言い始めたので花はスーパーに行こうと決めた。家中を探して小銭を集め、お財布に数えながら入れる。(少し遠いけどいつもお母さんと一緒に行っていたから大丈夫)と心の中で呟く。まるで自分自身を励ますように。2人で行くのは初めてだからとても不安だったがその不安を打ち消すように勢いよく玄関のドアを閉めた。
ところがハプニングはすぐに訪れる。家の前の細い道を歩き始めた2人めがけ路地から自転車が急に飛び出してきて、太郎にぶつかりそうになったのだ。かろうじて太郎を庇ったのでぶつかりはしなかったが、花はバランスを崩し派手に転んでしまった。
「お姉ちゃん 大丈夫?」
太郎が心配そうに声を掛ける。ズキズキ痛む足と手のひら。
「危ないなー気をつけろ!」
若い男の人の声と自転車の車輪の音が遠ざかる。
「大丈夫だよ」
と少し強がって立ち上がり太郎の手をしっかり握りまた歩き出す。膝を見たらかなり大きな擦り傷ができ血も流れていてそれを見ただけで花はもう心が折れそうだった。ふと見ると太郎が心配そうな顔をしている。(大丈夫。お姉ちゃんがいるから 大丈夫。)
歩きながら花は(持っているお金で何を買おうか? このお金で買えるもの。火を使わなくてよくて、お腹がいっぱいになるもの。太郎の好きなものも買えるといいけど)そんなことを考えていると太郎が
「もう歩けない」
と言いぐずり始めてしまった。
さらに
「お母さんに会いたい 会いたい」
と言い続けスピードも落ち今にも止まってしまいそうだ。その手をしっかり握り少し引っ張り気味に花は黙々と歩き続ける。(私だって会いたいよ。でも無理じゃん!)と太郎の様子に少しイライラしながらも花は太郎に声をかけた。それもできるだけ優しく。
「お母さんがいなくてもお姉ちゃんがいるから大丈夫だからね」
それは母親がよく言っていた
「大丈夫よ お母さんがいるから」
という優しい言葉に似ていた。(私だって泣きたいよ)と心で思っても泣きぐずる太郎に花はできるだけ優しく声をかけ続け一生懸命にスーパーを目指し歩き続けた。
花はふと母親の写真の横の花が枯れていたことを思い出した。
「お母さんにお花買おうか?」
力なくそう呟くと太郎は
「お菓子がいい、お菓子。お腹すいた!」
と言い挙げ句の果てに
「お姉ちゃん、歩けない」
と不貞腐れその場に座り込んでしまう。
「太郎。お願いだから歩いて。ね」
と言いながら願いを込めぎゅっと手を握った。
「ヤダヤダ、疲れた。お腹すいた」
とうとう泣き出す太郎。
「太郎 もう少しだからね。スーパーでご飯買おう」
力なくそう言いスーパーのある方を見るといつもの歩道橋が見えた。お母さんと一緒によく車を見ていたあの歩道橋。スーパーまではもう少しだ。
「あの歩道橋の上からトラック見よう」
花の提案に太郎も立ち上がりなんとか歩道橋まで来る事ができた。太郎は車探しに夢中になり花は母親と3人でスーパの帰り道、よくこの歩道橋で空を見ていたことを思い出していた。(お母さんに会いたい。お母さん)歩道橋の下を勢いよく通る車の流れをぼんやり見ていた花は自分が涙を流していることに気づいていなかった。その時だった
「花 ありがとう」
母親の声が聞こえたような気がした。それと同時に太郎が叫んだ。
「お姉ちゃんの雲だよ。お花の形!」
ふと顔をあげ空を見ると、空に5枚の花びらの大きな花のような雲が浮かんでいた。
「ほんとだ お花だ」
思わず言葉がこぼれた。
「お花の雲!お姉ちゃんの雲!」
太郎は喜びの声をあげはしゃぎ、すっかり機嫌はなおっていた。その時だった。
「はなー。たろうー」
大きな声のする方を見るとお父さんが走っている。
「ごめんな。昨日配達の途中雨がたくさん降って危ないから向こうの営業所で足止めを食らっちゃって」
父親は息を切らし2人に駆け寄った。父親は花の膝から流れている血を見て少しびっくりした顔をしたがすぐに泣きそうな笑顔になり、花をひょいと抱き上げた。
「花、ありがとな。本当にありがとう」
父親はその膝の血を見て、胸が押し潰されそうになっていた。
「花 痛かったな。頑張ってくれてありがとう」
父親の優しい声を聞きながら作業服の肩に顔を埋めたが涙は止まらなかった。痛いからなのか、父親に会えた安心感なのか、それとも母親が旅立ってしまった悲しさなのか花にはわからなかった。太郎は一生懸命花の形の雲のことを父親に話し続けている。
その夜、お腹いっぱいになって眠っている2人の寝顔と、遺影の横に飾られた綺麗な花を見ながら父親は花の優しさと頼もしさを感じていた。
「君に似て花は優しくてしっかりものだよ。2人を残してくれてありがとう」
そっと呟きスマホの画面を見た。そこには綺麗な花の形の雲が3人を応援するように夕日を浴び金色に輝いていた。
***
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