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アラフォー独身女子が、自分に自信を取り戻すために靴下を履きまくった件


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ほり こずえ(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
「この辺に飛び降り自殺できるビルってあったっけ?」
ある夜、私は暗闇の中に横たわりながら、頭の中で呟いた。
しばらく布団の中で、市内にある適度な高さのビルをいくつか思い浮かべていた。
 
程なくして、「あれ?」と思った。
「私、なんかおかしくなってる?」
我に返った時、私は愕然とした。
私はさっき、自分を世界から消し去る方法を真剣に考えていた。
北海道に行くにはどのような交通手段を使えば良いかをリサーチするのと同じようなナチュラルさで、自分を抹殺する方法を検討してしまっていた。
 
完全におかしい。
私はどうしてしまったんだろう。
家族も寝静まった夜中、暗闇の中で自問自答し続けた。
 
今から10年ほど前の話である。
 
その当時、30代半ばだった私は、職場での人間関係に行き詰まっていた。人間関係だけでなく、仕事そのものにも行き詰まりを感じていた。
 
その時は入社して3年目で、人事異動で入社した時に配属された部署から、別の部署に異動となった。
 
最初に配属された部署では、上司や先輩に恵まれたこともあり、スムーズに仕事を覚え、順調に成長することができた。2年目の後半には、自分に自信を持って毎日仕事をしていた。
「私はできる」と感じることができ、毎日職場に行くことが楽しく、自分への賞賛がやまない日々だった。
 
ところが、次に配属された部署では、頑張っても頑張っても結果が出せなかった。
 
配属されたばかりの時に上司から大きな仕事を任され、まだその業務に関する知識がほぼ無い中、見様見真似でスケジュールを作ってみたが、全く求められているレベルに達しておらず、まもなく担当から外された。
 
会議では何か発言するように、と言われ、これまた私には意味不明の用語が飛び交う中、必死に何かを発言したものの、全く的外れで場が白けてしまった。
 
一時が万事こんな感じで、努力しても、することなすこと裏目に出てしまい、次第に先輩からも上司からも信頼されなくなってしまった。
 
自分への賞賛がやまない日々から、自分への不信感ばかりが募る日々に逆転してしまったのだ。
 
今から思えば、その時の私は、肩に力が入りすぎていたし、「私はできる」感満載で発言するから、周囲には非常に鼻持ちならなく映ったに違いない。
もう少し力まずに自然に振る舞えば良かったのだろうが、その時の自分には「力まずに」振る舞うこと自体やり方すら分からなかった。
 
自分は人としてどこかおかしいのかもしれない、自分を変えなければいけない、という思考が頭の中でいつもループした。
戦禍の中にいる人たちが経験している苦しみと比べれば、苦労でもなんでもないことだが、毎日毎秒、自分はどこか人としておかしいのではないか、と思いながら生きるのはとても辛かった。
 
その自分責めのループの果てに、私は自殺を考えるまでに至っていた。自分に存在価値が感じられなくなっていた。
 
それは、ふと頭をよぎった思考だったが、私は紛れもなく真剣だった。同時に、もう一人の自分は、その真剣さに危機感を感じた。私は、自分で自分を抹殺するためにこの世に生まれてきたわけでは無いはずだ。
それは、絶対に間違っている。
 
私は、事態を打開するため、本屋に通い、必死に本を読み漁った。
 
そんな中で、ふと本屋で、服部みれいさんの『恋愛呼吸』という本を見かけた。それまでは心理学系の本とか、自己啓発本を読み漁っていたのだが、恋愛どころではない状況だったにも関わらず、なぜか購入した。そして、その本から加藤俊朗先生の「呼吸法」を知り、これまた理由は分からないが、これだ! という気がした。
さっそくインターネットで、1年間かけて呼吸法を学ぶコースに申し込みした。
 
東京に新幹線で乗り込み、着いた会場(素敵な古民家だった)で出会ったのが、
「靴下重ねばき」をされている方達である。
 
最初見た時は、やけに足元がふっくらしているな、と思った。
よくよく聞いてみると、「靴下重ねばき」という健康法をされている、ということだった。
 
「靴下重ねばき? なんで靴下を重ねて履くだけで健康になるんだろう?」
最初はあまり興味がなかった。
 
「靴下重ねばき」は、絹、綿、ウールといった天然素材の靴下を重ねばきすることで、体に溜まった毒素を抜き、足を温め、頭寒足熱の状態を作り出し、身体の巡りを改善する、といういわゆる健康法の一種である。正確には「冷え取り健康法」という。
(あらかじめお断りしておくが、私は「冷え取り健康法」を布教するためにこの文章を書いているのではないし、「冷え取り」が全ての方に有効であるとお伝えしたいわけでもない。あくまでも、個人の体験記としてお読み頂ければと思う。)
 
身体の状態が改善するのであれば、身体と不可分の精神にも良いのでは、と思った。そこで、不安定だった自分の精神が、足を温めることによって少しでも安定することを期待して、実験のようなつもりで重ねばきを初めてみた。
 
最初は、3枚から。次第に4枚、5枚、寝るときは10枚と枚数が増えていった。
 
もちろん、3枚重ねた翌日から魔法のように上司や先輩の評価が改善し、「できる自分」に戻れたわけではない。
 
しかし、自分で自分の状態を改善する挑戦をしている、と思うだけで、私は少し安心できた。自分を取り戻すためのささやかな工夫をしている、諦めない自分を見つけることができた。
 
失敗ばかりで苦しい時が3年ほど続いたが、重ねた靴下の暖かさを頼りに、なんとか持ち堪えた。
 
重ねばきを始めてから10年経った今、「できる自分」を取り戻すことは結局できなかった。でも、かわりにもっと大切なことに気づいた。
 
「できなくても大丈夫」なのだ。
 
できていても、できていなくても、私は大丈夫。私の価値は決して無くならないのだ。
 
荒れた大地に一つの種が芽吹き、ゆっくりと豊かな生命を取り戻していくように、私は、私への信頼を取り戻しつつある。
 
今日も私は靴下で足元をモコモコさせながら、元気に生きている。
 
 
 
 
***

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2025-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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