メディアグランプリ

『書く』ことを通じて、高校時代の情けない自分と対話した

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記事:アオノスミレ(ライティングゼミ・1月コース)
 
 
「お母さんの仕事はこれで終わり。もう大人なんだから、あとは1人で生きて行ってね」
 
母にそう言われたことがある。この言葉だけ聞けば、いいセリフに聞こえるかもしれない。しかし、これを言われたのは、高校入学が決まった15歳の春であった。
 
「は? 早くない? 15歳ってまだ子供じゃない?」
「15歳で大人って、江戸時代の元服か何か?」
 
この話をすると友達はみな困惑の表情を浮かべる。私だって同じだ。母が何を言っているのか分からず、ポカンとした。言ってることが全く分からなかった。しかし、本当にその日から、母は『親としての仕事』を辞めたのである。
 
我が家は母1人、子1人の家庭である。女で一つで私を育てていた母は、「自分が死んだらこの子は1人になる」と焦っていた。病気一つしない健康体であったのに、なぜか私が20歳になるまで自分は生きていないだろうと思っていた。そこで、娘が1人で生きていけるようにとスパルタ教育を始めたのだった。母の愛といえばそうだが、明らかに迷惑である。エキセントリックである。
 
家に帰れば、食事は用意してあった。最低限の衣食住は保証されているけれど、家族旅行もなければ、誕生日を祝ってもらうこともない。進路の相談もできず、学校での悩みを聞いてもらうこともない。学用品など必要なお金は、祖父からもらうお金で賄った。母は家族というより、ただの同居人であった。
 
私が入学したのは、地元では名門進学校と言われる高校だ。名門校と言われるような学校に通う生徒は、だいたいみんな裕福で教育熱心な親に育てられている。親自体も高学歴で、子供の進路選択にも熱心だ。
 
母子家庭でお金のない家で育った私は、周りの同級生と自分を比べて悲しくなった。おまけにうちの母は、突然『親の仕事を辞めます』宣言をするようなエキセントリックな母親である。同じ高校生でもなんでこんなに違うのかと思った。
 
そして、自分に何かあった時のために、親戚に恩を売っておきたいと考えた母は、私に親戚のおばあさんの介護をさせることにした。これも突然言われ「は?」となった。喧嘩になったが、高校の学費は母が払っているため、結局言うことを聞くしかなかった。
 
進学校では授業についてくだけでも大変だ。それに加えて親戚の介護だってある。周りの同級生は、経済的な不安もなく留学したり、親のサポートを受けて自分の進みたい進路へ向かっている。
 
そんなキラキラした同級生を見ていると、辛くなった。自分の未来が明るいものと思えなくなった。そして、全てにやる気が起きなくなった。進路について、もっと親と話すように学校から言われたが、母に言っても「分からないから、先生と決めて」と言われた。
 
そして、進学費用を使い込まれる事件などあり、高校時代の私は全てが嫌になってしまった。その結果、自分がやりたいことや興味があることではなく、母や地元の親戚から離れることを第一優先に無理やり決めた進路でとりあえず進学した。
 
あの時、経済的なことを考えずに、自分の好きな道に進んでいたらなあと考えることがある。母を恨む気持ちもある。でも、一番恨んでいるのはあの頃の自分だ。
 
もっと過酷な環境にいても、頑張って勉強して、一流大学に入る人だっている。奨学金や特待生制度ももっとよく調べれば、好きな道に進む選択だってあったんじゃないかと思う。
 
高校時代の情けない自分が、今でも好きになれない。その感情は、未だ私の心の中で棘となり、何かの折にちくりと心を刺す。
 
その棘を、文章として書いてみた。『自分の過去を書く』と言う行為は、過去の自分との対話だ。
 
高校時代、家庭環境や周りの同級生と比べて、勝手にやる気をなくした自分自身。情けない。なんでもっときちんとできなかったんだろうと思う。でも、書きながら思う。高校生なんて、まだ子供だ。母から言われたように「高校生になっても親を当てにするな」と言う言葉はだいぶおかしい。むしろ、あの環境でグレもせず、自傷行為にも走らず、とりあえずだけど生きていた私は立派なのではないかなと思った。あの頃の私が生きていてくれたおかげで、だいぶ遠回りしたけれど、大好きな夫と一緒に今好きなことができている。
 
「高校時代の私、よく頑張ったね。今までありがとう」
 
そう昔の自分に声をかけてあげたい。『書く』と言う行為は、自分の心を『癒す』行為でもあるのかもしれない。
 
そうそう、私が高校時代に「自分は娘を残して、もうじき死ぬのかも」という妄想に取り憑かれた母だが、今も病気ひとつせず、ピンピンしている。本当にはた迷惑としか言いようがない。うちの母から学んだ大切なことは『親の言うことは当てにならない』である。これを読んでいる若者には、親のことなんて気にしなくていいから、好きなことをやってほしいと思う。
 
 
 
 
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2025-04-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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