メディアグランプリ

見えないラインがすべてを決める~ベーシストとパタンナーに学ぶ本質の話

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:綿引祐敏(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
最近、ベーシストという存在が気になって仕方がない。
きっかけは、YOASOBIのサポートベーシストとして知られるやまもとひかるさんだ。彼女が奏でる5弦ベースのラインは、単なる伴奏を超えて、曲全体の空気感やグルーヴを根底から支えている。ボーカルのikuraと作曲家のAyaseが前面に立つなかで、音楽の下支えとして機能する彼女のプレイに心を奪われた。今まで特に意識してこなかったベースラインという存在に、初めて“本質的な魅力”を感じるようになった。
 
とくにベースラインが強調された動画がアップされていたので、ベースラインに注目して音楽を聴いてみた。するとどうだろうか。聞き覚えがある曲なのに、独立して流れてくるベースラインは想像していた曲の流れと違う部分が多いことに気づく。バンドで奏でる音楽は、もちろんそれぞれのパートによる演奏の掛け合わせによる絶妙なマッチングである。しかし、このベースラインは意外だった。ベースラインはコード進行など大きな流れを下支えする地味な存在パートという凝り固まった認識があったからだ。これにより、さらに興味をもってベースラインに注目するようになり、音楽とのかかわり方も大きく変わってきたと感じた。
 
この体験は、私の本業であるファッションの世界にも不思議と通じる。ふと、「これはパタンナーの役割に似ているのではないか」と感じたのだ。
パタンナーとは、デザイナーが描いたデザイン画をもとに、実際に人が着られるように、立体的な服へと設計・構築していく専門職だ。布地の重なり、動き、着心地、シルエットなど、そのすべてを計算し、見えない部分に命を吹き込む技術者であるといえる。通常、彼らは舞台の裏側にいて、個人がフィーチャーされて取り上げられることや、名前が表に出ることはとても少ないが、実はそのブランドの「着る体験」を決定づけている重要な存在である。
たとえば、ファッションデザイナーの山本耀司(Yohji Yamamoto)には長年、佐藤玲子という名パタンナーがいた。彼女は「後ろから服をつくる」という独自のアプローチで、山本のデザイン哲学を服として成り立たせたといわれている。また、ファッションデザイナーのマルタン・マルジェラも特徴的である。具体的なメンバーは明かされていないが、マルジェラはチーム制を重視し、メゾンとしての商品構築を行ってきた。マルジェラが指揮する中で、精緻なパターン設計によって彼のミニマルな世界観を支える職人たちがいる。これも2014年の退任を経て、製作を司るチームの役割も大きく変わっていったとされる。このように、パタンナーによって形作られる「見えない構造」がブランドの品格を生んでいるのだ。
 
音楽でも、こうした「裏の主役」は数多く存在する。
マイケル・ジャクソンの「Billie Jean」や「Thriller」など、世界中の人々が身体を揺らすあのビートは、ルイス・ジョンソンという名ベーシストによる名演が支えている。表のスターの輝きの裏で、音楽全体の骨格を作る「構造の職人」がいた。
日本で言えば、椎名林檎の音楽を語るうえで、ベーシスト・亀田誠司の存在は欠かせない。彼はアレンジャーでもあり、プロデューサーでもあるが、何より彼女の音楽の文法とグルーヴを共有する相棒であり、見えないところで作品を「成立させている」存在である。
 
ここで見えてくるテーゼは明快だ。
「本質は、見えないところにある」。
 
この構図は、音楽やファッションにとどまらず、あらゆる分野に共通する。たとえば、Appleという巨大企業のプロダクト哲学を支えたジョナサン・アイブの存在がある。彼はiMac、iPod、iPhone、MacBookなどを象徴する「形」を作っただけでなく、根底に流れる思想~シンプルで直感的な体験、無駄の排除、美の設計というものを製品に染み込ませていたといわれている。
彼の退任後、Appleの方向性はよりユーザーフレンドリーになり、USBポートの復活や操作性の改善などでユーザー評価を取り戻したが、同時に「Appleらしさ」の哲学的軸が揺らいだと感じる声も少なくない。つまり、「本質を体現するベースライン」が変わったことで、プロダクトの空気感までもが微妙に変化したのだ。
見えないところで、空気を整え、流れをつくり、芯を支える。パタンナーもベーシストも、そしてプロダクトデザイナーも、まさに「ベースライン」の象徴である。
 
私たちは、情報を受け取る際に、目に見えるものに支配され、目立つものに惹かれる。しかし、真に魅力あるものとは、その背景にある「目立たない構造」に大きく影響されている。物のイメージは見えない部分によって決まるのではないか、とさえ考えられる。見えないものの中にこそ、本質がある。
 
だから私は、これからもベーシストとパタンナーの存在にもっと目を凝らしていきたい。
物事の心理に見え隠れするその存在こそが、自分たちをワクワクさせることにつながる本当の価値であるといえるのではないだろうか。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事