メディアグランプリ

自由研究から見えた、人生のかけらたち


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記事:あんず(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「夏休みの自由研究には、人生を動かす力がある」
そう確信したのは、数年前に訪れた博物館での展示会だった。市内の小学校から集められた夏休みの自由研究の優秀作品が、模造紙にまとめられ、美しく並んでいた。その中でも、強く心に残った三人の子どもたちの研究がある。
 
一人目は小学1年生の女の子。テーマは「夏休み中に食べた果物や野菜の種の標本採集」。
30cm四方の箱には、大小さまざまな種がずらりと収められ、まるで宝箱のように飾りつけられていた。手書きの解説には、種の種類や入手方法、苦労した点などが丁寧に綴られていた。好奇心がそのまま形になったような作品だった。
 
二人目は小学4年生の女の子。「プログラミングを使ってペットの世話をする」という挑戦的なテーマだった。ハムスターを飼いたいが、日中に世話ができる人がいないという理由で、両親に反対されたことがきっかけだった。なんとかしたいという思いから、プログラミングで自動化を試みた。結局うまくはいかなかったが、熱意に打たれた父親が日中の世話を申し出てくれ、念願のハムスターを飼うことができたという。
 
三人目は小学5年生の男の子。「川原沿いのゴミの量の推移」についての研究だった。
1年生の頃から地道に近所のゴミ拾いを始め、年を追うごとに範囲を広げ、やがて市のクリーンセンターとも連携。市内全体のゴミの推移に関するデータまで収集していた。驚いたのは、研究が夏休みだけでなく日常の活動として続いていること。6年生での展望もすでに書かれており、彼の「研究」はすでにライフワークのように見えた。
 
一方で、少し気になったこともある。
異なる学校、性別、学年にも関わらず、展示された作品の中には、内容や構成がどこか似通っているものも多かったのだ。おそらくは市販の参考書を元にしたものだろう。もちろん、それも立派な学びだと思う。ただ、私はふと、小学生の頃のある記憶を思い出した。
当時、私が提出した自由研究のテーマは「それぞれの食事は、どの温度のときに一番おいしく感じるか」。味噌汁や牛乳の温度を変えて比較したものだった。提出後、先生にこう尋ねられた。
「テーマはとても面白い。でも、どうしてこれを選んだの? 本気で取り組んだの?」
私は正直、うまく答えられなかった。夏休みの宿題だから、とりあえずやった。母がいくつかアイデアを出してくれて、その中で一番簡単そうなものを選んだだけだった。
 
大人になった今、改めて考える。
自由研究とは何なのだろう。
さまざまなコンクールの入賞作を調べてみると、優れた作品にはいくつかの共通点があった。
困っていることの解決を目指す研究(例:「お母さんはなぜ怒るのか」)
大好きなものへの探究と分析(例:セミに対する愛に満ちた観察記録)
ふとした疑問を突き詰める調査(例:「オノマトペは英語にもあるのか」)
共通しているのは、「研究のきっかけが、自分の内側から湧き出ていること」だ。
たとえば「ぼくのお母さん」というテーマで研究した男の子がいる。きっかけは、母に怒られてばかりで「なぜ怒るのか知りたい」と思ったこと。彼は三日間にわたり母を観察し、インタビューをし、会話を重ねる中で「母は怒っていたのではなく、心配していたのかもしれない」と気づいていった。発表後には親子の対話が増えたという。家庭に変化をもたらした自由研究だった。
 
心を動かされた私は、展示会で出会った三人の子どもたちの未来に思いを馳せる。
種の標本を集めた女の子は、きっと思い出や好奇心の宝箱を人生の中でも集めていくのだろう。
プログラミングでハムスターの世話を試みた女の子は、技術と情熱で人を動かし、未来を切り拓く力を持った人になるかもしれない。
ゴミの研究を続けた男の子は、きっと日本を超えて、地球規模で環境問題に向き合う人になるだろう。
「自分の中にある問いに向き合い、誰かを巻き込みながら試行錯誤を重ね、一つの形にする」
そんな自由研究の本質を体現した子どもたちの姿を、私は忘れることができない。
 
私が見たのは、自由研究に詰まった“人生のかけら”だったのかもしれない。
だからこそ、今度は私自身が研究してみたいと思う。
——なぜ、彼らはそのテーマを選んだのか。
——その過程で、家族はどう関わったのか。
——あの子たちは、どんな人生を歩んでいくのか。
——毎年多くの自由研究を見てきた先生たちの記憶にも、きっと忘れられない“あの研究”があるはずだ。
 
新たな自由研究が、今、私の中で始まろうとしている。
 
 
 
 
***

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2025-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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