メディアグランプリ

「これ」を考えるきっかけは「オートロック」と「イリュージョン」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:冨山 繁美(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
「まさか!」と玄関ドアに走る。「ガチャ ガチャガチャ」どんなに引っ張ってもドアはびくともしない。オートロックのドアが閉まっていて締め出されてしまったのだ。4月から臨時職員として高校で教鞭を取っている大学院生の娘が車で颯爽と出勤した後、私は鍵も携帯も持たず玄関前に呆然と佇んだ。
  
我が家の玄関はオートロック。電子キーのボタンを押すだけで鍵が開き、ドアが閉まった2秒後に自動で鍵がかかるのだが、週3回のゴミの日の朝7:30に手で鍵を開け、携帯も鍵を持たずに外へ出てゴミを捨てる。そのついでに庭掃除や花壇の手入れをして家に戻り鍵を閉める。これが私の習慣だ。この時間は主人も娘もまだ寝ているか、支度中なので今まで一度だって締め出された事はない。
 
ところがこの日、ゴミ捨てや庭仕事の時間と娘の出勤が重なった。主人は海外出張中。娘は声をかけてくれたが、まさか私が携帯も鍵も持たずに外にいるなんて思ってもいなかったのだろう。オートロックで玄関の鍵を操作しそのまま車で走り去ってしまったのだ。
 
 困ったというより焦った。9:00には自宅を出て打ち合わせに行かなければならない。とりあえず家の周りを歩きながら、全ての鍵を確認。当然閉まっている。「2階から入れないだろうか?」と見上げるが手や足をかける場所なんてない。そもそも2階によじ登るなんて無理だと分かっていても諦めきれない。そして何度も玄関ドアを押したり、引いたり無駄なことをしてみる。
 
「マジか、もう勘弁してよ」と娘を恨めしく思う。玄関から出るときに手動で鍵を外していたのになぜ気づかない? と腹が立つ。しかし私だって「行ってきます」と声をかけてくれた時に気づいていなかったではないか? 「ああしていたら」「こうしていれば」と想いは巡るが鍵は開かないのだ。
 
「まさか!」と思い一箇所目がけ走り寄った。テラスの突き当たり。床から120センチの高さに横45センチ縦50センチの小窓。そこだけは上下スライド式で普段網戸にしている窓だ。窓は閉まっていたが鍵はかかっていない。「ラッキー。なんとかなるかもしれない」
 
しかしだ、身長168センチ。体重72キロ。一年前まで90キロ超えの巨漢だった私がここから入る? どう考えても無理だ。しかも60歳を目の前にしているおばあちゃんの私は変形性膝関節症がかなり悪く両膝ともしっかり曲がらない。さてさてどうする? なんて迷っている場合ではない。そこへのチャレンジ一択なのだ。
 
とりあえずテラスにあった車輪付きの園芸トロッコを踏み台に左足を家の中に入れる。そして窓に跨る。しかし向こう側に足が届かない、残念。頭から入ることはできないか? ウルトラマンのように両手を伸ばし頭を窓から入れお腹を窓のサンに乗せてみた。うん。なんとかボディーは窓をすり抜ける。しかし! どう頑張っても床に手はつかない。床に手がつけばなんとかなりそうだが、そのまま落下となって、骨折なんてしたら笑い物だ。
 
 そこでふと、踏み台にしているトロッコを家の中に入れることはできないだろうか? と思いつく。うまく角度を変えれば入れることができそうだ。テラスにあったクーラーボックスを踏み台にしてトロッコを家の中、それも窓の下に設置することに成功。よし、これでいけるかもしれない! クーラーボックスに上り、左足を家の中に、そして窓にまたがるように腰掛け、足を伸ばすとトロッコに足が乗った。左足に体重をかけると車輪が動く。危ない! 背中が冷たくなる。慎重に左肩を内側に、そして頭、右肩、そして残った右足をなんとか引き抜き、小さな窓から家の中に侵入完了! 助かった。20キロのダイエットをしていて本当によかった。
 
 タイトル写真を見てほしい。どう考えても私が潜入できるとは思えない大きさだ。まさにイリュージョン。奇跡だ。だが、いったいこれはなぜ起こったのか?
 
人は必ずミスをする。だから準備・確認を怠らず想定をしておく。私は今までそのスタンスで仕事をしていた。だから「うっかり」「つい」「想定外」に自分はもちろん人にもかなり厳しかった。しかし今回のことで2つのことを得た。1つは「周知しておく」こと。自分だけの「ルール」や「習慣」は他人にとって「そんなの知らない」ことで「わかってるだろう」という思いこみこそ危険である。「作業をする時には鍵を持って出ない」と以前から伝えていれば防げたのだ。2つ目は「いつもと違うことが起こった時への意識」だ。普段は私1人だがその時間に娘が外に出ているという「いつもとは違う」ことにもっと意識を向けていたら声を掛け合うことだってできたはずだ。言い換えれば「これ」はコミュニケーション不足が招いたとは言えないだろうか?
 
「これ」は家庭だけでなく至る所で起こる。特にこの時期、新入社員や移動で新しい人間関係が生まれ、1ヶ月たちなんとなく慣れて来る。もしも些細なミスが起こった時には「不注意」だけで済まさずこのおばあちゃんのイリュージョンの醜態を想像しながら「これはコミュニケーション不足が原因かもしれない」と考えてみて欲しい。そう「これ」とは「パーソナルエラー」のことだ。このことを考えるきっかけがあの醜態だとは皮肉なものだ。
  
 翌日腕や足にはかなりのアザがあり、壮絶な侵入だったと改めて思い知らされた。アザは2.3日で消えてしまうだろう。しかし「パーソナルエラー」と「コミュニケーション」のことはあのイリュージョンと共に忘れずに覚えておくことにしよう。
 
 
 
 
***

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2025-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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