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本気のフェイクは本物を超えるか?

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記事:宮藤紳(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
京都は街全体がテーマパークの様で観光客が溢れかえっている。
地元住民が身を小さくして暮らしているのは見るに忍びない。
と思いながらも先日近隣県から京都に足を運んだ。
やはり京都には抗しがたい魅力があるからだ。
生成AIがその威力を発揮しフェイクニュースが世界を掛けめぐる現代で、悠久の歴史を感じさせる古都京都は世界の人々を魅了し続けるだろう。
しかし今回の京都訪問で私が魅入られたのは、歴史ある本物では無い。
 
「ようござんすね ツボ被ります どうぞ!」
片肌脱いだ艶っぽい姐さんの声に、客は「丁!」「半!」と声を出しながら盆台に手持ちのコマ札(賭場の賭け金)を置く。
姉さんの肩には牡丹の彫物。
進行係の中盆(ナカボン)の兄さんはもろ肌脱ぎで、その肌には同じく彫物がある。
時代劇でよく見た賭場が目の前で開かれていた。
賭場を取り囲む様に表で立っている客は、スマホを手にその様子を撮影している。
 
これは桜の季節を迎えた京都太秦映画村で開催された『EDO SAKABA』の一コマ。
時代劇セットの中で酒を飲み食事をしながら江戸の昔にタイムスリップ体験をするイベントだ。
賭場を再現した『丁半バー』 美しく着飾った女性が舞う『大奥バー』 侍と気軽に酒を酌み交わせる『浪人バー』
どれもが作り物である事は百も承知で楽しむ大人の遊び場だった。
映画村の大部屋役者達がその役になりきって客をもてなしてくれる。
私もその内の一人だが着物を着て楽しむ客もかなりいた。
また細部にもこだわりがあり、飲食代は事前に購入しておく小判でしか払えない。
江戸を模した街並みの中で「PayPay」なんて音を聴くのは野暮だろう。
映画村すぐ傍を走っている嵐電車両がたまに見えるのはご愛嬌。
 
このイベントのクライマックス。
映画村の野外舞台で寸劇が行われ客が集まる。
劇のエンディングで客の四方から小道具の桜花弁が大量に発射される。
長年培ったノウハウだろう。紙の桜花弁はたっぷり時間をかけて舞い落ちてくる。
観客は本物にも偽物にも見える花弁を眺めて感嘆している。
自然界では見られないであろう人工の見事な桜吹雪だ。
着物の襟もとに花弁が入り、帰宅後それを花の形に並べて余韻を楽しんだ。
映画村から一歩表へ出ると静かな古都の住宅街。隣には大きな敷地の広陵寺がある。
街中には所々にしだれ桜が花を咲かせ、緩やかな流れの高瀬川では川一面の花筏を見る事も出来た。
フェイクの世界から緩やかにリアルの世界へ戻れるのも映画村が京都市内の太秦にあるからこその妙味だろう。
 
国内には本気のフェイクを見られる場所が他にもある。
人気者のねずみがいる夢と魔法の国。関東のあのテーマパークだ。
その中にある「密林航海」(邦題)というアトラクションが私のお気に入りだ。
ボートに乗り人工ジャングルを進み、毎回決まった場所で決まった人工の動物が出てくる。
もちろん見えない様になっているが、ボートは水中のレール上を移動している。
ボートに同行するキャストは船長という設定で、自動で動くボートのエア操舵輪を派手に回しながら乗客に人工ジャングルを案内する。
大筋の台本はあるようだが、船長毎に独自の台詞回しがあり、演技も人によって大きく違う。
私は乗船する毎に今回はどんな船長にあたるのかを楽しみにしている。
もちろん乗客のノリは同じくらい大切で、船長の熱演を白けて見ている様ではこのアトラクションは楽しめない。
乗客の大きなリアクションがあってこそ完結するアトラクションなのだ。
あのテーマパークには本物のカルガモが飼われていて、パーク内で時々見かける事がある。
その日はボートの傍に本物のカルガモがやってきた。
このアトラクション最高演技で楽しませてくれた船長の秀逸なアドリブ。
「あのカモはこのジャングル内唯一電気で動いている動物です」
 
このリアルフェイクで味わった満足感はゴーグルをつけて体験するVRとは全く別ものだ。
VRや生成AI画像はいかにホンモノらしく見せて騙せるかを目指している。
だから驚きはあっても、私は心が動かされる感動を覚えたことはない。
映画村やテーマパークでの体験は偽物だと分かった上で楽しむものだ。
そこには主催側の客を楽しませる意気込みと創意工夫があり、客側はそれを楽しんでやるという心持ちでいる。
本気で挑む姿勢、それを受け止める受け手の気持ちの二つががっぷり四つに組んだ時にリアルフェイクは人の心を大きく動かす。
双方の想いがあの空気感を作るのだ。
生成AIやVRの技術がどれほど向上しても、お互いの息遣いが感じられる本気のリアルフェイクは越えられないと思う。
 
そもそもエンターテイメントは虚構と現実の狭間にある薄い皮膜のようなものだ。
この二か所には本物のエンターテイメントがあった。
生成AIやVRの映像や音響技術をどれだけ本物に似せても本気のリアルフェイクには勝てないし、もちろん本物は越えられない。
でも本気のリアルフェイクは本物以上の感動を与える可能性は秘めている。
 
キャリーバッグを避けながら歩いた京都の街中でこんな事を考えていた。
 
 
 
 
***

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2025-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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