主題歌がミセスだったから辿り着いた平和のために自分にできることの話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:中川 百(ライティング・ゼミ3月コース)
「この映画、ミセスの曲が主題歌なんだって。 おばあちゃんは映画館で観たって言ってたよ」
娘に薦められて手に取った映画のDVDのタイトルは、「ラーゲリより愛を込めて」
「ラーゲリってなんだっけ。 ロシア語?」
俳優の二宮和成さんが軍服を着て、泣きそうな笑顔を浮かべるメインビジュアルに、
「戦争の話か……」
と、正直、気乗りがしなかったのだが、娘がMrs. GREEN APPLEの大ファンで、物凄く観たそうだったので、借りてみることにした。
映画はきっかけである。
映画の世界では、私たちが日常、生活する上で、あまり意識しなくても良い状況が描かれる。戦争、殺人事件、怪奇現象。また、非現実的な超人気アイドルとの恋愛、超人的な能力を持つヒーローの活躍、空に浮かぶ城をめぐる大冒険……。
才能が結集して創り出されたイマジネーションの世界に没入し、非日常だからこそ、心から「面白かった」で終わる映画もある。しかし、時に、そこに描かれているテーマが胸に刺さり、後を引き、深く考えるきっかけを与えてくれるものもある。
「ラーゲリより愛を込めて」は、深く考えるきっかけを与えてくれた映画の一つである。
そして「ある場所」を訪れたことで、この映画を深く理解し、考えさせられた。
今回は、ある提案をしたい。もう観たという方も、まだ観ていない方も、「ある場所」へ行ってから、この映画を観てみて欲しいのである。
「ラーゲリより愛を込めて」は、山本旗男さんという実在した人物のお話である。
第二次世界大戦は、1945年8月15日に昭和天皇の玉音放送で終戦が国民に伝えられ終わったと、多くの日本人が認識しているだろう。しかし、その終戦の後に始まったのが、シベリア抑留である。「抑留」という言葉は難しいが、強制的に連れていかれ収容所に入れられたということだ。当時の満州、今の中国東北部などに暮らしていた日本人およそ57万5千人がソ連によって抑留されたという。山本旗男さんも、シベリアに抑留された一人だった。
ソ連はドイツとの戦いで国が荒廃し、復興しようにも人的資源が不足していた。そこで、シベリアに抑留された捕虜たちが労働を強いられたのだった。シベリアは、マイナス30~40度の極寒の地。寒さと飢えと労働の三重苦だったという。映画では、シベリアの収容所生活の厳しさは勿論のこと、山本さんがソ連側の理不尽な扱いに体を張って抗議する姿や、みんなで歌を歌い、野球をし、人間らしく生きようとする様子が描かれている。
シベリア抑留や時代背景を知らずとも、戦友の遺書を想像もできない方法で日本へ持ち帰り、戦友の家族へ想いを伝えるシーンは感動し、涙を堪えずにはいられない。
かくいう私も、初めて観た時は、戦争は繰り返してはいけないと思ったし、家族愛に泣き、観終わった達成感を得たのであった。
しかし、映画を通して作り手が伝えたかったのは、それだけであろうか。
私は「ある場所」に行き、知ることで、それだけではないと考えるようになった。
その「ある場所」とは……
新宿のど真ん中、新宿住友ビルの33階にある平和祈念展示資料館である。
この資料館は、敷地面積は広くは無いものの、「兵士」「戦後強制抑留」「海外からの引揚げ」の3つのセクションで構成されており、実際に当時使用されていた貴重な品や、収容所や引揚船内の実寸大のジオラマなどが展示され、内容の濃いものとなっている。
例えば、映画で自然に描かれている、こんなシーンの意味も判明する。収容所でロシア兵が人数を数える時、日本人兵士たちが5列に並んでいる場面がある。映画では説明されないが、実はこれは史実に基づいており、意味があることが解説されている。マイナス30~40度の極寒の中、ロシア兵が人数を数え終わるまで、立って待たなくてはならないが、数が分からなくなるとロシア兵が最初から数え直すので、数えやすいように、自然に5列に並ぶようになったというものだ。他にも、飢えと戦い、最後の一さじのお粥も食べられるようにと自作したスプーンや、コートの袖とパンを交換したため、袖が無くなった防寒コートなどの実物を見る事が出来る。
資料館は入場無料。音声ガイドも無料で借りる事が出来る上、荷物を入れるロッカーも100円硬貨を入れるが返却されるため、全くお金がかからない。
私は、娘と一緒に訪れたのだが、隅から隅まで解説を読み、映像資料も全て見たため、3時間半ぐらいかかったかと思う。
家に帰る間、さっきまで見ていた実物の展示品やジオラマ、映像資料などの情報が頭をグルグルとまわり、その怖さに背中がゾワゾワするのを感じていた。帰宅すると、娘と一緒にもう一度、「ラーゲリより愛を込めて」を観た。映画の各シーンがどのような意味を成しているのか、俳優が発するセリフや行動に表れる抑留者の想い、収容所での人間同士の力関係などを理解する事が出来た。
私は、映画の作り手が期待しているのは、こうした理解の先にあるのではないかと感じている。私は40代。戦争を経験していない。映画の作り手もまた、私と、そう変わらない年代であるだろう。平和祈念展示資料館で働く方々も、同年代のように見えた。しかし、戦争を経験していないからと言って、平和を諦めることはできない。私たちには、戦争のない世界を創っていく義務がある。そのために、どうするか。
ヒントは、京都府舞鶴市にある舞鶴引揚記念館で活動する中学生の語り部たちの存在だ。語り部というと、一般的には、戦時中の体験を語り継ぐ方々を指すが、この中学生たちは、養成講座を修了したのちに、シベリア抑留の史実を伝える記念館内のガイドを担当しているという。私たちも同様のことができるのではないか。戦争について深く知り、自分というフィルターを通して、自分の言葉で、次の世代へ戦争を伝えていく語り部となっていけるのではないだろうか。
私は、まずは、一番身近な娘へと伝えたい。
まさか、Mrs. GREEN APPLEの主題歌から、ここまで発展するとは思っていなかったが、これを機に、娘と色々な話ができるだろう。
明日は、大型連休最終日。娘とクッキーを作る約束をしている。
このような穏やかな日々が恒久的に続くように、私は、今まで目を背けてきた史実に目を向けていこうと誓うのであった。
***
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