メディアグランプリ

口に衝撃が走ったら、家の中が片づきそうな気配(進行中)


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:菊子(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
4月29日。昭和の日。夜。
フライドチキンをかじっていたら、
 
歯が、真っ二つに割れた。
 
ま、待て待て待て待て待て待て!
なぜ、今。
なぜ、今日。
 
世の中も私もゴールデンウイークは始まったばかり。翌30日、5月1日は平日だけど、有休を取って、生成AIのいろはを教わる講座を申し込んでいた。通信や録画の受講もできるけど、講師や参加者と直接触れ合える店舗で、直接講義を受けようと気合を入れていた。
 
なのに……
 
痛みこそないけれど、こんな歯が半分欠けた状態、放置できるだろうか? いやできない。できるはずがない。
講座もさることながら、週末には4連休が待っているのだから。
 
実のところ、歯が割れなくても、歯科に行かないとまずいタイミングではあった。割れた歯とは別の歯に、気づいたら大穴が開いていた。
 
私の行く歯科はやや特殊で、医師が日替わりのため、一度担当が決まったら受診できる曜日が固定となる。私は水曜。そして明日30日も水曜。もう運命か。
 
歯科の営業時間と講座の時間はダダ被り。仕方ない、講座は録画受講に切り替えよう。
 

 
若い男性医師は眉間にシワを寄せてこう言った。
 
「最悪、この2本は抜くかもしれません」
 
ぬっ…… 待て待て待て待て待て待て。
そんな話、聞いておりませんが!
いや、先生は今、はじめて話をした。
甘い想定をしていたのは私の脳内だ。
 
先生は、歯磨きの弱点からの虫歯や、「噛みしめ」「歯ぎしり」の長年のダメージ、大穴の歯もいずれ割れそうなこと、割れた方の歯は縦に深く割れたので、上物がつけにくい状態であることなどを説明した。
思っていたより状態が激悪だ。
 
「連休中、歯がなくても大丈夫ですか」
 
大丈夫では、ないです。全然。まったく。ちっとも。
 
危うく、削られるか抜かれるかして、歯のない連休になるところだった。先生は残念そうだったけれど、本格治療は翌週からにして、連休をしのぐためにセメントで埋めてもらった。はい。30分くらいで固まるんですね。
 
これで連休はひとまず安泰。
 
そういえば、朝から何も食べていなかった。帰り道、お手軽さから地元のファストフード店に入る。治療から1時間半くらい経ってるし、もう大丈夫だよね。
 
フライドポテトを食べながら、ぼんやりと今後の治療を考えていた。レントゲンの結果次第かぁ。どーしよ……
その時。
 
「ガリッ」
 
この日の頑張りが、すべて無になって口から出てきた。
 
歯科は職場近くなので自宅からは遠い。戻る時間も気力もなく、紙ナプキンの上の白いセメントを呆然と見つめた。
 
セメントが私に語りかける。
 
「ちょっとあんた。自分の体とかさ、生活態度っていうの? 根本的に見直す時、来てるんじゃないの?」
 
え、そうなの? いや、そうかも……。
残りのポテトを片側の歯でぎこちなく噛みながら、自分の体や生活との付き合い方を、振り返ってみた。
 

 
この世に生まれ出(い)でて、1世紀の半分が経過した。
 
回りくどく大げさに言うのは、直接言うのがなんともはばかられるお年頃だからで、端的に述べれば50歳ということになるわけで。端的に述べるなら最初から述べればよいのにと思いましたね? でも数字を見ると地味に「ウッ」ってなっちゃうんですって。それが50歳女子というものです。(個人の見解です)
 
数年前から「こんなこと、今までなかったですぞ?」という体の変化が次々に起きている。老眼だ、白髪だ、更年期だと、いつかどこかで誰かから聞かされてきた中年あるある。
 
40代に入った頃はまるで縁遠かったけれど、今になって「あなた様のお支度が整いました」とばかりに発現しまくっている。2年前には不整脈と動悸で調べに調べ、更年期というオチだった。
 
気分は20代、30代のテンションで過ごしていたけれど、体が置いてけぼりになってる感が50代で本格化した。話には聞いていたけど、人って体感しないと自分事にならないんだな。
 
20年前に持病ができてから、ストレスには注意してきた。けれど日常的な健康には無頓着で、気持ちや目が、外の世界にばかり向いていた気がする。仕事のこと、面白そうなこと、やりたいことだけ見ていて、自分の土台である体や生活を顧みず、心だけが常に「先へ、先へ」とせわしなく走っていた。
 
今に至っては4か月間、毎週2000文字の記事提出があるライティング講座を受講して、心のせわしなさは近年最大級(まだ2か月目)。立ち止まってゆっくり目を開いたら、ただでさえ乱雑な家の中がいよいよ混沌としていた。
 
「いつやるか? 今でしょ!」
 
白くて小さなセメントは、そう言い残してダストボックスへ消えていった。
 
よし。やりたいことをやりつつも、
もっと丁寧な生き方を、するぞ。
 
歯が欠けたことで、この歯のあたりは日中も噛みしめていることに気づいた。普段から負荷がかからないように気をつけて、夜間のマウスピースも検討しよう。歯磨きは、マウスウォッシュも追加してみるか。
 
ジャンクフードは、そんな頻繁に食べているわけではないけれど、少し続いたから控えめに。
 
睡眠時間もできるだけ減らさないように。寝る前にストレッチもしたい。
 
連休は、講座や課題の提出はあるけれど、使える時間はできる限り家を整えることにあてよう。
 
***
 
手始めに、先延ばしにしていた鉢植えの手入れをして、休み後半にやろうと思っていた洗濯も前倒しで終わらせたら、気分が少し軽くなった。
 
後回しにしていること、雑に扱っていることというのは、思いのほか心の負担になっているのかもしれない。
 
何も気にしていないように見えて、心の見えないところでは「本当はちゃんとしていたい」と思っていたようだ。「出来ていない自分」とのギャップで生じた罪悪感が、溜めた家事を消化したことで消えた。
 
体を大切にすることも、家を整えることも、表面的には「物理的なこと」だったけれど、向き合ってみたら「今後どう生きていきたいか」が本質にあった。
 
やりたいことをのびのびやって生きていくために、自分の土台である体や生活を大切に扱う。「ちゃんとする」を呪いに変えないように、手の抜き方やアウトソースの仕方も考える。
 
これは、漫然と生きてはいられないなと痛感した。
 
歯の治療が始まったら、今度は心が折れそうになるかもしれない。それでも、歯が割れたことは私の土台を安定させる大事な気づきになった。
 
取れたセメントに感謝して、家の片づけにいそしもう。
 
 
 
 
***

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2025-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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