フライパン選びが人生を豊かにする
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記事:鈴木 しゅん(ライティング・ゼミ集中コース)
フライパン選びが人生を豊かにする
キッチン売り場でフライパンを選ぶとき、あなたはどんな基準で選びますか?なぜなら、その選択は単なる調理器具の問題ではなく、実は人生哲学そのものを映し出しているからです。
「最初はみんな、テフロン加工のフライパンに飛びつくものなんですよ」と30年の経験を持つ料理研究家の田中さんは微笑みながら語ります。「ピカピカで、くっつかなくて、洗うのも簡単。値段も高めだから良いものだと思いがちです」
実際、キッチン売り場では、最新技術を謳う高価なテフロン加工フライパンが目立つ位置に並んでいます。特殊セラミックコーティング、チタン粒子配合、ダイヤモンド仕上げ…。次々と登場する新素材と華やかなパッケージに、私たちの目は自然と奪われます。
「でも、プロの厨房を覗いてみてください」と田中さんは続けます。「そこにあるのは、ほとんどが黒ずんだ鉄のフライパン。一見地味で、値段も安いけれど、料理人たちはこれを手放しません」
東京・銀座の有名フレンチレストランで働く山本シェフも、真っ黒に変色した鉄のフライパンを大切に使っています。「これは祖父の代から使っているものです。テフロンのものは3年も持ちませんが、これは50年以上経っても現役。というか、むしろ年々良くなっている」
この対比には、人生を豊かにする選択のヒントが隠されています。なぜなら、私たちはしばしば「便利さ」や「新しさ」に惹かれて、本当の価値を見逃しているからです。
鉄のフライパンは最初、使いこなすのが難しいものです。焦げ付きやすく、手入れにも手間がかかります。しかし、使い込むうちに少しずつ変化していきます。黒く変色し、表面に油の膜が形成され、やがて自然に「油馴染み」と呼ばれる状態になるのです。
「シーズニングというこの過程が、鉄のフライパンの魅力なんです」と料理教室を主宰する佐藤先生は説明します。「自分の使い方や料理の癖が、フライパンに刻まれていく。世界に二つとないものになるんです」
私の母も古い鉄のフライパンを大切に使っていました。子どもの頃、母が作る目玉焼きの完璧な仕上がりを不思議に思ったことを覚えています。後に母は「このフライパンが私の手の一部になっているの」と教えてくれました。
対照的に、テフロン加工フライパンはどうでしょうか。確かに最初は扱いやすく、洗うのも簡単です。しかし、数年もすればコーティングが剥がれ始め、買い替えが必要になります。そして新しいフライパンとの関係はまたゼロからのスタート。深い信頼関係は育めません。
この違いは、私たちの人生の選択にも通じるものがあります。
便利さを求めて即席の関係を選ぶか、時間をかけて育む深い絆を選ぶか。
すぐに結果が出る近道を選ぶか、長い目で見て成長できる道を選ぶか。
流行を追いかけるか、時間が証明した価値を大切にするか。
「毎日使うものだからこそ、長く付き合えるものを選びたい」と山本シェフは言います。「高級なテフロンなら一時的に満足できるかもしれませんが、愛着は生まれにくい。でも、この鉄のフライパンは、使うたびに思い出が増えていく。それが料理の味にも反映されるのです」
実は、科学的に見ても鉄のフライパンには利点があります。適切に使えば微量の鉄分が食材に溶け出し、栄養価が高まるという研究結果もあります。また、高温調理に強いため、肉を美味しく焼き上げるための「メイラード反応」も起こりやすい。長い目で見れば、健康にも味にも良い影響をもたらすのです。
「でも、そうした理屈以上に大切なのは、使うあなた自身が変わること」と田中さんは強調します。「鉄のフライパンは、少しずつ使い手を成長させる力を持っています。最初は扱いづらくても、コツをつかむうちに料理の腕も上がる。その過程こそが価値なのです」
私は最近、長年使っていたテフロンフライパンを処分し、シンプルな鉄のフライパンを購入しました。最初の数週間は苦戦しましたが、今では少しずつコツをつかみ始めています。そして不思議なことに、フライパンとの格闘が料理そのものを楽しむ余裕を私に与えてくれました。
人生で本当に価値あるものは、しばしば即座の満足をもたらすものではありません。すぐに結果を出すものよりも、時間をかけて関係性を育み、共に成長できるものの方が、長い目で見れば人生を豊かにしてくれるのです。
フライパン選びは、実は人生選びでもあります。あなたは便利さを求めて常に新しいものを追い求めますか?それとも、時間をかけて育む関係の価値を大切にしますか?
キッチンから始まる小さな選択が、あなたの人生を変えるかもしれません。次にフライパンを選ぶとき、ぜひ考えてみてください。その選択があなたの人生をどう豊かにするのかを。
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