土曜の朝、午前10時
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ほり こずえ(ライティング・ゼミ3月コース)
私はひどく憂鬱だった。
なぜなら、人生初の試みを始めようとしていたからだ。
私は未知の世界にワクワクするタイプの人間ではない。どちらかとういうと、できる理由より、できない理由ばかり思い浮かぶタイプの人間だ。
当然、未知の世界に飛び込む時は、期待より不安が大幅に上回る。
したがって、ひどく憂鬱になる。
問題は、そんなネガティブマインドを抱えながら、同時に何かに挑戦しようという冒険家な自分も存在することだ。
人間の意識は複雑である。
相反する意識が同時に存在する。
そしてその複雑な意識というシステムを理解できていないし、使いこなせていないところに、人間という種の問題がある。人間が抱えるあらゆる問題の根本原因は、そこにあるのではないかとすら思ってしまう。
話が人類という種の分析に飛躍してしまったが、本題は人類全般について語ることではなく、私という一人のホモサピエンスのまったく個人的な活動についてである。
山村に畑を借りることにしてしまったのだ。
そこに至る経緯をお話しすると非常に長くなってしまうので、ここでは割愛させていただく。いないとは思うが、万が一経緯が気になってしまった方は、「経緯が知りたい」とテレパシーを送っていただきたい。受信できたなら、そのうち記事にまとめるかもしれません。
先週の土曜の朝、10時に畑を貸していただく方とお会いする約束をした。
私の自宅はT市にあり、その村までは車で1時間半ほどかかる。標高700メートルほどの所にある村だ。
憂鬱だったのは、本当に自分にできるのか不安だったからだ。もともと、野菜はT市の自宅でも家庭菜園を作っているので、経験はある。
問題は、時間である。
現在フルタイムで働いているので、平日は基本山には行けない。
しかし、畑というのは定期的に訪れて、面倒を見てあげなければいけない存在である。不耕起、無肥料、無農薬で育てるつもりなので、通常の畑よりは手間は少ないが、それでもある程度雑草は管理しなければならないし、水もやらなければならない。トマトの脇芽が伸びていたら取ってやり、ズッキーニの花が咲いたら、受粉もさせてやりたい。
つまり、時間が必要である。土日、それも行ける時だけ、というのでは厳しいかもしれない、いや確実に厳しい。
まだ、早かったのだろうか。
正直なところ焦りもあった。
私と同じように、山で暮らすこと、あるいは山と関わって生きることを夢見ている知り合いや、友人は、着々と行動に移していて、もう山村移住してしまった人も何人もいる。
私も行動しなければ、いつまでも現状を変えられない、という焦燥感に駆られていたのかもしれない。
その焦り故に、フライングしてしまったのだろうか。
判断を間違ったのだろうか。
思いだけで突っ走って、中途半端に畑を借りて、畑を貸してくださる方や、協力してくださる方に迷惑をかけるのではないだろうか。
山に向かう車の中で、私のネガティブ思考は最高潮に達していた。
ちょっと具合が悪くなりそうなくらいだった。
車酔いならぬネガティブ酔いである。
市街地を抜けて、山に近づくにつれ、風景が変わっていった。人工物が少なくなり、視界には緑が溢れてくる。
新緑の海である。
そこに、ところどころ薄紫色が混じる。
藤の花だろうか。
スギなどの高木に絡みついて天高く登り、そこから藤色の花房を優雅に垂れ下がららせている。
空の色は青い。
私の脳内ネガティブキャンペーンのシュプレヒコールは、いつの間にか遠ざかっていった。
約束通り10時に畑を貸してくださる方とお会いし、畑を見せていただいた。
以前は人が住んでいたが、皆離村され、集落が消滅してしまった場所だった。
川のそばに小さい畑があり、川の向こうには民家の屋根が見えたが、もう半壊しているとのことだった。
桜が2本、満開に咲いていた。
静かで、少し寂しく、とても美しかった。
私は、そこをとても美しいと感じた。
その場所で、私はネガティブでもポジティブでもなくなっていた。
ただ、気持ちが夜明けのようにほの明るくなっていくのを感じていた。
「言ってくれれば、なんでも手伝いますよ」
畑の見学に付き合ってくれた知人がそう言ってくれた。
彼は2年前からその村に移住していた。
そうか、ひとりじゃなかったんだな。
土曜の朝、午前10時。
憂鬱ではなく、爽快な朝に変わろうとしていた。
***
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