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ただの卵焼き、されど卵焼き


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記事:中川 百(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
所詮は卵焼きと侮るなかれ。
まさか、卵焼きで友達を無くす危機を招こうとは、誰に予想できただろうか。
 
これは、私が高校1年生の時のことだ。私は埼玉県にある、女子高に通っていた。
運動部だった私の毎日の楽しみは、お昼ご飯。高校には学食もあったのだが、お弁当を持参する子がほとんどだった。私も、毎日、母にお弁当を作ってもらっていた。
 
調理師の免許を持つ母のお弁当は美味しい。美味しいが、茶色い。煮物、から揚げ、つくね、コロッケ……。茶色を基調としたおかずが勢揃いである。レギュラーメンバーである煮物の煮汁が漏れ、ランチクロスが茶色になっている、なんていう事は日常茶飯事だった。
今思い返せば、おかずは全部手作りだったし、母が朝早く起きて作ってくれていたんだろうなと、頭が下がる思いなのだが、当時は、洋風でカラフルなお弁当に憧れを抱いていた。
 
高校1年生で、新しい友達もでき、お弁当を一緒に食べるようになった。友達のお弁当を覗くのは結構面白かった。今まで見たことない分厚いステーキが、塩コショウだけの味付けで入っていて、その豪快さに驚かされたり、「今日はこれだけ」と言って、コンビニで買ったパック入りのわらび餅を美味しそうに食べる子もいたりして、カルチャーショックを受けた。
その中に、キラキラと輝くカラフルなお弁当を食べている子がいた。絵本に出てくるように、ハンバーグ、緑鮮やかなブロッコリー、真っ赤なトマト、そして、テカテカ黄色に輝く卵焼き。こういうのが食べてみたかったんだよねという、まさに、そういうお弁当を広げていたのだ。私は、ついつい、勢いに任せて、「おかず、交換しようよ」と持ち掛けていた。
おかず交換でゲットしたのが、そのテカテカ黄色に輝く卵焼きである。代償のおかずが何だったか忘れてしまったのだが、私のお弁当の中でも主力の一品を差し出した覚えがある。そこまでして得た卵焼き。美味しそうである。
それでは、早速、
「いただきまーす」
と、口に入れた瞬間、
「おえ~っ」
急激な吐き気が襲ってきた。
「おえ~っ」
いやいや、吐き気を催していることが、友達にバレてはいけない。
人のおかずで、吐き気を催すなんて、確実に友達を失う行為である。
私は、必死に吐き気を抑えるために、少々、白目をむいていた可能性はあるが、身悶えしながらも、何とか卵焼きを飲み込んだ。
「おいしかった。 ありがとう」
 
危うく友達を失う所だった。
私に何が起きていたかというと、卵焼きの味付け問題である。
皆さんの家の卵焼きの味付けは、砂糖などで甘めに仕上げたものか、それとも出汁や醤油、塩などでしょっぱめに仕上げたものか、どちらだろうか。
私の母の作る卵焼きは、たいてい出汁入りで、仕上げに巻き簀できゅっと形を整えているため、表面が波打っていた。しょっぱめ派である。一方、友達の卵焼きは、綺麗なレモン色で表面が滑らかだった。その外見から、私は、私の憧れの存在、がっつり甘い系の卵焼きだと予想していた。
しかし、予想に反して、その卵焼きは、出汁の味だったのである。しかも、その子の家のにおいを孕んでいるような香り付きだった。それを感知したとたんに、吐き気が襲ってきたのだった。
人というのは、予想に反する味がすると、吐き気を催すものらしい。
この時から、私は、安易にお弁当のおかず交換はしてはならないという教訓を得た。そして同時に、卵焼きの味付け問題に敏感になってしまったのである。
 
しばらくは、好んで卵焼きを食べるという事はなかったと思う。
時は進んで、30歳を過ぎ、子どもにお弁当を作る段になって、再び、卵焼きの味付け問題が浮上する。さて、子どもに作ってあげるなら、しょっぱめか、甘めか。
悩んだが、結局、昔から憧れだった甘めを選んだ。お弁当も、定番のおかずでいいから、子どもが好きそうな、カラフルなものを詰め込んでいる。私が高校時代に、母が一生懸命作ってくれた茶色のお弁当に感謝しつつも、その反動で全く違うお弁当を作っている私。改めて考えると母娘とは面白いものである。
卵焼きに関しては、色々試行錯誤し、現在の私が自信を持って作っているのが、チーズインの甘い卵焼きである。そう、しょっぱさと甘さを兼ね備えた卵焼きが、私の答え。ズルいがうまい。間違いない。
 
今でも、購入したお弁当に卵焼きがついていると、どちらの味付けかドキドキしながら口に運んでいる。市販のお弁当で、私が唯一、めちゃくちゃ美味しいと感じた卵焼きがある。
そのお店は、配達の場合は、40食からしか受け付けてもらえないため、前の職場のみんなとタッグを組んで、注文したい人をかき集め配達をお願いしていた。とにかく、みんなに評判が良いお弁当屋さんなのである。そのお店とは、ロケ弁当でお馴染みの、津多屋。のり弁が有名なお店なのだが、お弁当の隅に入っている卵焼きが、どうしてそんなにプルプルなのかというくらい滑らかで甘くて美味しかった。あれが、家で作れたら最高なのにと思う。
ただの卵焼き、されど卵焼きである。
ふと、私の甘い卵焼きで育った娘は、大人になったら、どんな卵焼きを作るのだろうと考える。どのような結果であれ、是非、娘の結論を食べてみたいものだ。
 
 
 
 
***

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2025-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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