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中国の病院で目撃した、度重なるカルチャーショック。


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記事:紫葉アリア(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
私は中国に留学していた時期があった。2010年のことであった。
2025年の今、大阪万博が話題だが、ちょうど上海万博が開催された年である。
 
これは留学してすぐの、まだろくに中国語も話せない時期に日本人の友人が指を負傷してしまい、慌てて病院へ行った時の話である。病院でのカルチャーショックに重点をおきたいため、それまでの流れの出来事や前提などは文字数の都合上、割愛させていただきたい。
 
 
ある日、友人が指を負傷した。誰がどう見ても「骨折の疑いアリ。今すぐ病院で診てもらった方が良い」と満場一致で判断できるレベルで腫れ上がっていた。
私たちはまだ中国語がそこまでうまく話せなかった。しかし私に日本語がわかる中国人の友人がいたため、その友人に協力してもらうことにした。
 
日本人の友人、中国人の友人、そして私というメンツで地元の病院に向かった。
2階建てのわりと大きな病院だった。その病院自体が独特なのか中国の病院がそうなのかは分からないのだが、仕組みが少々変わっており、検査や診察を済ませるたびに受付に戻り、指示を仰がなければならない。受付と検査が単発式で一連の流れになっていないのだ。
 
まず受付でレントゲンの検査室に行くように言われて撮影をする。終わったらまた受付に戻る。そして次に別の検査室へ案内され、そこで検査を受けて終わったら受付に戻る。さらにまた別の部屋に案内され検査を受けたら受付に戻る。というような流れだ。
受付に戻るたびに対応する人が変わるうえ、戻るたびに新規扱いになるため次の案内まで待ち時間がやたらとかかる。そして必要な検査項目をすべて揃えたら、改めて医師の診察の受付ができるようになる。
 
この医師の診察にこぎ着けるまで約2時間半かかった。やっと「2階の診察室へ行ってください」という指示をもらい、ヘトヘトな状態で2階に向かった。
 
 
そこで私たちの目に飛び込んできたのは、ドアが外された診察室だった。
 
なぜ、ドアが丸ごと外されているのだろう。外されたドアは横にそっと置かれ、診察室内が丸見えになっている。
 
「どうぞお入りください」
 
多分白衣を着ている医師が声をかけた。なぜ「多分白衣」なのか。それは白衣がドロドロに汚れ、黒ずんでいたからだ。私の中にある白衣の概念とはまったく違うものであった。
 
「どうぞこちらにお座りください」
 
友人は部屋のど真ん中にある椅子に座らせられ、医師が指の診察を開始した。
しかしだ。私には非常に気になることがあった。
いや、気になることしかなかった。
 
 
 
 
……友人の周りを取り囲んでいる人たちは一体誰なのだろうか。
5〜6人がぐるりと友人を取り囲み、友人と医師のやりとりを見ながら口々にみんながコメントをしている。
 
「あの〜、あの取り囲んでいる人たちは誰?」
私は中国人の友人に尋ねてみた。
 
「ああ、あの人たちは全然関係ない人だよ。ドアが開けてあるから勝手にいろんな人が入ってくるんだよね」
 
「そもそもなんでドアが丸ごと取り外されているの?」
 
「こっそり賄賂を渡さないように。密室になったらその可能性が出てくるから、ドアを開けて開放的にして、いろんな人の目に晒されるようにしてるんだよね」
 
「なぜみんな勝手に入ってくるの?」
 
「単に人のことが気になるってるだけ。完全にあれは野次馬だよ。そもそもドアが開いているからね」
 
カルチャーショックだった。
賄賂の話まではまだわからないでもなかったが、勝手に入ってくる野次馬に囲まれてコメントされながらの診察というのは初めての文化だ。そして黒ずんだ白衣も。
 
医師が頷きながら、ポケットから包帯を取り出した。
え、そこから出すの? そのドロドロの白衣のポケットから? そう思った瞬間。
 
傍らにおいてあった白濁液がたっぷり入ったバケツに、おもむろに包帯をつっこみしっかりと浸した後、その包帯で友人の指を固定してぐるぐる巻きにした。真っ白に染まった手で勢いよく巻いたため、友人の手や腕、服にまで白濁液が飛び散った。
 
「あー!!新しい服なのに!!!!」
 
と友人は悲鳴をあげていたが、医師は友人が何を言っているのかわからないため「痛い」と叫んでいると思ったのか、大丈夫大丈夫みたいなことを言いながら白い手で友人の肩をさすっていた。服の袖(左側)がさらにしっかりと白くなった。
 
私は中国の友人に尋ねた。
 
「あの白いのは何??」
 
「あれはセメントだと思うよ。乾いたらカチカチに固まるはず。医師は2週間はこれを外すなって言ってる」
 
なるほど、洗濯したらなんとかなる問題ではなさそうなので、もうあの服は諦めるしかないだろうな。
 
「なんで医師の白衣はあんなにも汚れているの?」
 
「中国人は歴史あるものが好きなんだよ。新品の綺麗な白衣だと新人だと思われるから、あえて汚くして、長年医師やってますというのをアピールする必要があるんだよね」
 
これも衝撃だった。日本の白衣に対する概念とはまるで違う。でも、ちゃんと理由があるのだ。納得できるかどうかは別として。
 
「あ、診察がもう終わるみたい」
 
中国の友人がそう言ったので、私はふと医師の方を見た。そして目に飛び込んできたのは大きなボウルになみなみと注がれた、謎の黒い液体であった。非常に独特な匂いが一気に部屋に充満した。
 
「医師はこれを飲めと言ってます」
 
中国人の友人は日本人の友人に言った。どうやらこれは漢方薬らしい。飲むのに勇気がいるようなそんな匂いがする。野次馬の人たちもどよめいていたから、これはよく見かけるようなものではないのかもしれない。
 
「体に良いし、治りが早くなるから飲めと言ってます」
 
友人は飲むのだろうか。このまったく知らない中国人たちに取り囲まれて、緑の服が白のマダラ模様になりながらも、この大きなボウルになみなみと注がれた黒い謎の汁を。
全員がジッ……と彼を見つめた。すごい圧だった。
 
「い、家に帰ってから飲んでいいですか……」
 
友人はか細い声で言った。もうこの状況に己の許容量がMAXを超えたらしい。この黒い汁はお持ち帰りすることになった。持ち帰るにしてもかなりの量であったが、それを抱えてとりあえず帰路に着いた。
 
後日、友人にあの黒い汁を飲んだのかと尋ねたが、やはり飲む勇気が持てず捨ててしまったそうだ。そのせいなのかはわからないが、友人の怪我はなかなかよくならなかった。
 
かなりの珍事だったが、私としてはとても貴重な体験をさせてもらった、というか目撃させてもらった
 
留学とは、言語の学習だけでなく希少な体験という宝物を得られる機会だと私は思う。留学でなくても海外に飛び出してみることは、自分の認識の範疇を超えた物事に出会うことができる。
 
なので認識や常識、視点、許容範囲なども含めてなんらかの自分の枠を超えたいと思えた時は、海外に行ってみるのも一つの手段として私は強くオススメしたい。カルチャーショックという、半ば強制的に自分の枠を超えねばならないイベントが発生することもあるから。
 
 
 
 
***

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2025-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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