メディアグランプリ

サウナは、日常を脱出するアミューズメントパークだ


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記事:水口 宏司(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「今日はどこに遊びに行こうかな? 」
仕事中、ふと頭をよぎるこの問いかけに、胸の高鳴りを覚える。それはまるで、遠足前夜の子どものように、期待と興奮が入り混じった特別な感情だ。しかし、私の場合は旅行でもレジャーでもない。向かう先は、熱気と水音、そして静寂が織りなす異空間、サウナなのだ。
 
かつての私は、銭湯の片隅にあるサウナを敬遠していた。あの息苦しい熱さ、肌を刺すような水風呂の冷たさは、ただの苦行にしか思えなかったのだ。しかし、転機は突然訪れた。転職による仕事の変化、そしてコロナ禍によるフルリモートワークへの移行。閉鎖的な日常の中で、精神的なストレスをいかに軽減するかを模索する中で、ふと「サウナ」という選択肢が浮上したのだ。加えて、テレビ東京で放送されていたドラマ「サ道」の影響も大きい。
 
ここで、サウナ未経験の方のために、その基本的なルールを簡単にご説明しよう。サウナは一般的に、高温のサウナ室、冷たい水風呂、そして心地よい外気浴の3つの要素で構成される。この3つを順番に行うことで1セットとなり、通常はこれを3クール繰り返すのが基本だ。それぞれの時間には目安があり、サウナは温度によって異なるが約10分、水風呂は約2分、外気浴は約10分程度と言われている。
 
サウナ室に入ると、まず肌を刺すような乾いた熱さと、ほんの少しの息苦しさを感じる。特に子どもは、その容赦ない熱さに思わず声を上げてしまうほどだ。そして、入室から6分が経過する頃には、全身から滝のように汗が噴き出し始める。この6分から10分の間は、体力をじわじわと奪われるような感覚に襲われる。あまりの熱さに、意識が遠のくように頭を垂れ、前かがみになる人も少なくない。その姿はまるで、ボクシングで死闘を繰り広げた後のジョーが、セコンドに肩を借りて項垂れているかのようだ。
 
限界を感じて熱気を逃れるようにサウナ室を飛び出し、いざ水風呂へ。しかし、その容赦ない冷たさに、今度は「冷たい! 」と思わず叫んでしまう。
サウナと水風呂という、ある意味での「体いじめ」を終え、いよいよ至福の時、外気浴が始まる。用意された椅子や、こだわりのインフィニティチェアに身を預け、目を閉じて深く呼吸をする。傍から見ればただ休憩しているように見えるかもしれないが、サウナと水風呂を経た体は、心地よい疲労感と解放感に包まれている。そしてこの時、まるでジェットコースターに乗っているかのような不思議な感覚が押し寄せるのだ。
それは、ジェットコースターが一番高い地点から急降下する時の、重力が体にかかって沈み込むような感覚だったり、小刻みなアップダウンを繰り返すコースで感じる、体がフワッと浮き上がるような感覚だったりする。
この独特の感覚こそが、サウナ愛好家たちが追い求める「整う」という状態だ。この至高の瞬間を味わうために、彼らは熱さと冷たさの試練を乗り越えるのである。
 
多くのサウナ施設では、趣向を凝らしたイベントが開催される。特に人気なのが、熱波師による「アウフグース」だ。イベント開始前から、その熱狂的なパフォーマンスを心待ちにするサウナ愛好家たちが続々と集まり、サウナ室は熱気と期待感で満ち溢れる。
そして、満を持してタオルを持った従業員が登場する。「只今より、アウフグースのサービスを開始させて頂きます」というアナウンスとともに、サウナストーンにアロマ水をかけ、蒸気を発生させる。室内の温度が一気に上昇し、サウナ愛好家たちの期待感も最高潮に達する。
そこから、熱波師はタオルを巧みに操り、発生した蒸気をサウナ室全体へと送り届ける。初めてその光景を見た時、私はプロ野球のジャイアンツファンがタオルを回しているのかと錯覚してしまったほどだ。しかし、これで終わりではない。熱波師は両手に持ち替えたタオルで、熱い蒸気の塊をサウナ愛好家たちに向けて次々と繰り出す。裸一貫で熱波に耐えるその様子は、まるでSMプレイのようだ。熱心なサウナ愛好家の中には、両手を上げて全身で熱波を受け止めようとする者や、「おかわり!」と熱波師に更なる攻撃を求める者までいる。
サウナの楽しみは、「整う」ことだけではない。サウナから出た後の水分補給や食事も、至福の時間だ。オロナミンCとポカリスエットを混ぜ合わせた「オロポ」や、キンキンに冷えたビールは、火照った体に染み渡る。そして、カツカレーのようなガッツリとした食事は何を食べても格別な味わいだ。
このように、サウナは単に銭湯のついでに入る場所ではなく、サウナそのものの効能、アウフグースのようなエンターテイメント、そしてその後の飲食まで、様々な楽しみ方ができる複合的な空間なのだ。それはまるで、日常を忘れさせてくれる、大人たちのためのアミューズメントパークと言えるだろう。
 
一通りのサウナ体験を満喫した私は、心身ともにリフレッシュし、明日からの仕事への活力を得ることができる。何か夢中になれること、楽しめることを見つけると、人は生きるエネルギーに満ち溢れる。爽やかな風を感じながら、鼻歌を歌い、私は今日もまた、心地よい疲労感とともに家路につく。
 
 
 
 
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2025-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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