メディアグランプリ

写真を撮るってどういうことなのか考えてみた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:及川佳織(ライティング・ゼミ 3月コース)
 
 
絵を描くのが下手だ。どちらかというと壊滅的に下手だ。描いてみようとか、練習してみようとか、思ったこともない。たぶん、絶対無理だからだ。
 
でも同時に、私は映像や画像によって「ある一瞬を切り取る」ということにとてもあこがれている。
 
タイトルを忘れてしまったのだけど、たぶん、くらもちふさこのマンガだった。
 
映画を撮ることに興味がある主人公の恋人が、駅で偶然、主人公を見かける。彼女は彼に気づかずに歩いていく。彼は声をかけず、じっと彼女を見つめている。
 
それからしばらく後の2人の会話。映画を撮りたいという彼に、彼女が「じゃあ私を撮ってよ」と言い、彼は「もう撮ったよ」と答える。「見せてよ」という彼女に「映画はないよ。『目カメラ』で撮ったから」と答える。
 
私は、このエピソードがすごく好きだ。彼が「目カメラ」で撮った彼女の映像は、きっとすてきな作品だったに違いない。
 
私は、こんなふうに、流れていく時間の断片や一瞬を切り取ることのできる映像や絵画にとてもあこがれていた。でも、残念なことに絵心がない。私にとっては夢のまた夢の話だと思っていた。
 
ところが、なぜか、ある時、気づいてしまったのである。
 
写真があるじゃないか。
 
たとえ絵が描けなくても、シャッターを押せば、一瞬を切り取ることができる。そうだ、写真なら私にもできる!
 
私は父のおさがりのデジカメで写真を撮り始めた。まずは、街の写真やさんが開いたデジカメ講座に参加した。1回目はカメラの基本的な操作を習い、部屋の中でいろいろなものを撮ってみる。2回目は近所を散歩して、花や風景を撮ってみる。3回目は撮った写真から気に入ったものを10枚プリントして、コラージュしてアルバムを作る。
 
この講座はとても楽しかった。写真っていいじゃん! さすがに父のカメラは古かったので買い替え、「写真が趣味です」といった体であれこれ撮った。特に、旅行に行くと、見たことのない景色や見たことのないモノたちが次々に目に飛び込んできて、飽きずに撮った。サイトを作って撮った写真を載せた。
 
しかし、数年たつと、だんだん行き詰った。旅行先で写真を撮ったって、それは旅行でテンションが上がっているだけなんじゃないのか。珍しいものが撮れていたとして、観光地の絵ハガキと何の違いがあるのか。
 
本当に撮りたい一瞬は、「あっ、これを撮りたい」と思った時にはもう過ぎ去っている。その瞬間に出会ったときに、カメラを持っていて、写真が撮れる状態になっていなければダメだ。マンガの彼も、その瞬間にカメラを持っていなかったから、「目カメラ」で撮るしかなかったじゃないか。
 
とはいえ、いい瞬間を撮れることがないわけではない。しかし、出来上がった写真を見てみると、あいまいな構図、何を撮りたいのかわからないまま、ただシャッターを押しただけ。結局、絵心がなければ写真だってダメだ。カメラはシャッターを押せば芸術が生まれる魔法の箱ではないのだ。
 
カメラから手が離れた。ネットでいろいろな人の写真を見ると、きれいな花、おしゃれな部屋、上手な料理、おいしそうなスイーツ。淡い色彩、かすんだフィルター、明るい光。そして、つけられたたくさんの「いいね」。
 
うらやましかった。リア充を見てもらいたくて写真を撮るわけじゃないと毒づいてみる。じゃあ、何を撮りたいのか。私の切り取りたい一瞬って何なのか。答えはなかなか出ない。
 
私は絵より言葉の方に縁があったようで、昔から何かを書きたいと力まずに、ブログやエッセイを書いていた。文章はいい。切り取りたい一瞬は覚えておきさえすればいいから。その場にいて、カメラをスタンバイしておかなくても、後からその一瞬を文章で描くことができるから。
 
しかし、本当にちゃんと作品を書こうとすると、文章だって簡単ではない。パソコンを開けば、自然に作品が生まれるわけじゃない。どんな一瞬を切り取ろうか、いつでもアンテナを張り、つかまえた一瞬をどんな作品にするか何度も何度も反芻し、失敗して、やり直して、やっと1本の作品が出来上がる。
 
写真だって同じだ。カメラを持って、どんな一瞬をつかまえるか、気持ちを透明にして、目を大きく開いて、耳を澄ませて、被写体に問いかけて、答えを聞いて、それでやっと納得のいく作品が撮れる。
 
結局私は、デジカメの便利さ、シャッターを押すだけの手軽さに甘えていた。写真の大量生産・大量廃棄で、簡単に絶望的な絵心が埋め合わせられるはずはない。
 
文章を書くことも、写真を撮ることも、きっと同じ。一瞬を切り取るためには、たくさんの時間をかけなければならない。でも、時間をかけたからいい作品になるわけではない。それも文章も写真も同じだ。
 
そうだ。明日、久しぶりにカメラを出してみよう。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事