メディアグランプリ

40代、独身、平日はサラリーマンだけど標高700メートルの山村に畑を借りてみました〜雨の中の土づくりの回


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ほり こずえ(ライティングゼミ3月コース)
 
 
足りない。圧倒的に足りない。この量では目標には程遠いぞ。
しかも、ここにはほどんどあいつらしか生えていないじゃないか。
 
私は土曜の朝、自宅の庭を這いずりまわり、血眼になって探していた。
 
そして、手頃なサイズのものを見つけるたびに、鋭い刃物で刈り取っていった。
 
刈り取るたびに、キク科特有のいぶし銀なフレグランスが広がる。
この香りは嫌いではないのだが、地下茎で増えるこやつらは手強い存在だ。ほかの植物たちを生育させないために、化学物質を根から出すらしい。ある意味根性の悪い生存戦略である。
生育しはじめの時期からすでにそのしたたかな生存戦略を発動させているのか、庭には圧倒的にそれが多かった。
 
セイタカアワダチソウである。
 
そう、私は土曜の早朝、鎌を手に庭をうろつき、セイタカアワダチソウを手当たり次第に刈り取っていた。
本当はカラスノエンドウとか、そういう柔らかめの雑草を刈り取りたかったのだが、庭はすでに多くの部分がセイタカアワダチソウ達に支配されつつある。
 
セイタカたちしかいないなら仕方ない。とにかく生えてるものを刈りまくるのだ。
 
刈って、刈って、刈りまくれ!!
 
45リットルのゴミ袋をセイタカたちでいっぱいに膨らませると、愛車のアクアに鎌や鍬などの道具と共に積み込んで、いざ山へと繰り出した。
アクアは本来アウトドア向きの車ではないような気がするのだが、背もたれを倒した後部座席には、バケツ、鍬、鎌、スコップ、肥料にする鶏糞、野菜の苗などが積み込まれ、支柱に使う竹が後部座席から助手席の上を通り、フロントガラスのギリギリ近くまで置かれている。シティ派のアクアにとっては、おそらく想定外の積荷だったかもしれない。
 
空はあいにくの曇り模様である。
予報では正午頃から雨になる。今日が初作業日だから、ある程度まとまった作業をやりたかったのだが、そうもいかないらしい。
仕方ない、できるところまでやろう、と腹を括った。
 
畑を作るのだ。
標高約700メートルの天空の地に。
 
借りてしまったのだ。心よく貸してくださったのだ。
仕事もあるだろうに、大丈夫なの、と心配しつつも、貸してくださる方がいらっしゃった。ありがたいことである。
好意を無駄には出来ない、という思いもあった。
 
せっかく作るなら、何か地域に貢献できるようなものにもしたいと思った。
 
うまくいくかどうかは自分にも分からない。でも、行動しなければ何も始まらない。そう、自分を奮い立たせていた。
 
循環する畑。
外から肥料や農薬を持ち込んで、野菜を育てるのではなく、自然の力を利用して、できるだけその土地にあるものを利用して土を作り、作物を育てる。
いや、育てるのではなく、育つような環境を作るのである。
 
本来は畑に生えている雑草を使って土づくりをするのだが、まだ土づくりに十分な量の雑草が育っていないため、自宅の庭のセイタカアワダチソウを必死に刈り取っていたのだった。
 
ちなみに、雑草たちは畝の上に置き、「マルチ」にする。「マルチ」というのは、植物を植えた場所の地表面を藁やビニールシートなどで覆うことである。乾燥や雑草を防止するなどの役目がある。
 
今回は、雑草や新聞紙などを4層構造で積み重ね、植物の生育に必要な窒素分と炭素分をミルフィーユのように積み重ねることにより、乾燥や雑草防御だけでなく植物が育ちやすい土作りをする手法を試してみることにした。
 
このマルチ用の材料集めがまあまあ大変であった。本で読んでいた時は、雑草とか新聞とか、家にあるものを使えばいいんだな、と気楽に考えていたのだが、現実はちょっと違った。
 
標高700メートルの畑にも雑草(主にヨモギだった)は一面に生えているのだが、下界より気温が低いためか、5月半ばでもまだそんなに繁茂はしていなかった。
 
マルチにするにはそれなりの厚みがいるので、畑に到着すると、助っ人に来てくれた好青年と共に、予報より早く降り出した雨の中、黙々と畑を歩き回って雑草を手刈りしていった。
 
庭のセイタカアワダチソウと併せて、なんとか畝を覆うくらいにはなった。
 
窒素分となる雑草を積み上げたら、その上に濡らした新聞紙を炭素分として敷く。その上にまた雑草、最後に藁や干し草などを15cmほどの厚みで積み上げる。
15cmというと、手幅いっぱいくらいの長さだが、やはり積み上げるとなるとそれなりの量がいる。
 
件の好青年が、これまた黙々と、畑の周辺にいい塩梅に枯れて倒れていた背の高い草(名前がわからない)を刈り取ってくれた。
 
雨がだんだんひどくなる中、ようやくマルチの第4層目が積み上がった。
 
最後に、苗を植える。
今日はヘチマを植えてみる。
 
積み上げたマルチをかき分けて、まだほんの小さな赤ん坊のようなうす緑の苗達を植え付けた。
 
無事に生き残ってほしい。
ここで無事に根を張り、蔓を伸ばして、秋には立派な実をつけて欲しい。そして、タネを残し、次の循環へと輪を繋いでいってほしい。
 
干し草の間から覗くヘチマの苗達が、ほんのりと光を放っているようにも見えた。
希望の光。侵しがたい生命の光。
 
2時間ほどで作業を終えた。
 
正直に言うと、朝早くから草刈りをして、荷物を車に積み込んで、1時間半かけて山村の畑に着いた途端に、予報より早く雨が降り出して、ちょっと心が挫けそうであった。
 
好青年に雨の中作業を手伝わせるのは申し訳なくて、今日は中止にします、とLINEの文章を書いていた時、ちょうど彼が到着した。
 
「雨が予報より早く降り出してしまって」と言うと、
「これくらいなら大丈夫ですよ」と爽やかに言い放って、早速作業に取り掛かってくれた。
 
天使が降臨した、とひそかに心のなかで呟いた。
 
来週はトマトを植える予定である。
晴れてくれればいいのだが、雨でもなんとかなるだろう、という気もしている。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事