貧乏っちいと言われることが誇りに思える話
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記事:中川 百(ライティング・ゼミ3月コース)
「ももって、貧乏っちいよね」
貧乏っちい=貧乏くさい。私が良く、母と姉に言われる言葉だ。そこそこ本気モードで、結構、嫌な言葉をチョイスするものだ。しかし、確かに、いくつか心当たりがある。
つい最近では、3人家族である我が家の敷布団が3枚とも擦り切れ、表面の布が破れ、綿が露わになってしまった。皆さんは、このような場合、どういう選択をするのか。
ひとまず、Google先生に聞いてみよう。「敷布団 破れ どうする」と検索すると、yahoo知恵袋がヒットした。「敷布団がボロボロになった どうしたらいいか」という質問者に対し、「買いましょう」というアドバイスがなされ、質問者も「思い切って買いました!」という返信を返している。
そう、世の中的には、敷布団なんて、そんなに高いものじゃないんだから買い替えればいいという意見が大勢であると思うのだ。でも、私は、買わない。
いやいや、買いたい思いはあるのだ。しかし、よく考えて欲しい。買ったときに、今ある3枚の布団をどうやって捨てるかなどの新たな問題が首をもたげてこないか。
結果、今回は買わずに、どうにか乗り切ろうという方向になる。大きい声では言いたくないが、そんなケチ臭い選択をしている人は、ほどほどに世の中に存在するのではないか。
はたして、私は、自宅に、娘の上履き入れを作ったときの余り布があるのを利用し、手縫いでせっせと穴を埋めている。「埋めている」と進行形なのは、敵は厚みのある敷布団なので、ミシンを使うことはできず、手縫いでコツコツ進めるしか方法は無く、週末に1カ所が限界だからである。しかたなく、残りの破れた部分をそのままに、日々使いながら、少しずつ直しているのだ。
確かに、貧乏っちい。ケチ臭い。ええ、分かっています。
しかし、これは生来の気質なので、大目に見ていただきたい。特に、母には。
だって、昔から貧乏っちいんだもの。
子どもの時のことである。貧乏っちいエピソードとして、今でも姉に嫌というほど擦りに擦られているのが、「板ガム3分の1事件」である。
小学生くらいの子どもにとって、おやつは貴重である。私の実家は、お菓子を、あまり買い与えない方針だったので、時々、スーパーで買ってもらえたり、出前のおじさんが、オマケでくれるマルカワのフルーツ味の風船ガムや黒猫のキャラクターが描かれたフィリックスガムなどをもらえたりすると、せっせと、お菓子箱に保管していた。お菓子は、非常時における非常食と同様に、貴重な存在だった。この貴重さ故、私は、1枚の板ガムを、3等分して、3回に分けて食す、という合理的な方法で、できるだけ消費速度を遅くする工夫をしていた。この行為が、貧乏っちいと言われ続けているのだ。一方の姉は、豪快に1回に1枚を口の中へ放りこむわけである。なかなかに太っ腹である。こうして私は、潔い姉を横目に、貧乏っちい街道をまっしぐらに歩んできたわけである。
しかし、こうは言えないだろうか。
貧乏っちいことは、創造の起源である。貧乏っちさには美しさすらある、と。
そう言う理由は、私の貧乏っちいという気質に加えて、私が体験してきたものに起因する。
父の手仕事の存在である。
父は、高校の建築科の教員をしていた。その高校は、大工さんを養成する技術訓練学校から高校へと進化を遂げた経歴を持つ。父は、訓練学校時代から建築技術を教える先生らしく、家に、ノコギリやかんな、さしがね、電動のこぎり、釘などをたくさん置いていた。そして、とても精巧な神棚や欄間、千本格子の障子などを器用に作っていた。
そんな父が、母に頼まれて請け負っていたのが、家のあちこちの修理である。引き戸の滑りが悪ければ、敷居の溝にロウを塗って滑りを良くした。障子が破れれば、古い和紙を水で流してから、ピシッと新しい和紙を貼った。
一人で仕事をするのが嫌いな父は、よく、私と姉を手伝わせた。私たちは、父の手仕事を間近で見ていて、物が生き返る様子を、まざまざと見せつけられてきたのである。「動かなくなって終わり 破れたら終わり」という事ではないのである。
この経験が、貧乏っちいだけの私を進化させてくれた。
私は今、物を、「生き返る」まではいかなくとも、「寿命を延ばす」くらいの手仕事をしている。15,000円程もするヘアドライヤーのコードが断線したときは、1000円ぐらいの新品コードを取り寄せ、交換して直す。そして、錆が目立ったステンレス製の棚は、カラフルなペンキで色を塗り直し、庭の物置棚として使用している。
私がしているのは、ただ、寿命を延ばすだけのことである。しかし、そこには、どうやったら、もう一度、使えるようになるのか、どうやったら、楽しい気分で使えるのかなど、クリエイティブな発想が求められる。その行為は、創造的であり、美しいと言えるのではないか。
私は貧乏っちい。物を捨てきれない。ここが江戸時代だったら、貧乏っちいと言われないですんだかもしれない。江戸時代は、着物が貴重で、季節ごとに衣替えをして、布が擦り切れるまで切るのが一般的だった。そして、擦り切れた部分は仕立て直し、継ぎあてをするのが当たり前だったそうだ。彩り豊かな余り布を組み合わせた継ぎはぎの着物は、お洒落センスを示すツールだったかもしれない。
さあ、次は、あなたの番である。物の価値がない、捨ててしまおうかと考えた時、少し立ち止まってみてはいかがだろうか。新たな命を吹き込むという発想で、更にその物を使い倒せないかを考えてみないか。貧乏っちいと言われるかもしれない。ならば、そう言われることを、共に誇りに思おうじゃないか。
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