メディアグランプリ

色と向き合う時間 ― 正解のないキャンバスで、自由になる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:エバリン(ライティング・ゼミ3月コース)
 
 
正解のない世界で、自分を描いてみた
コロナ禍で突然止まった日常。通勤のない朝に始めたジョギングが、私を見慣れた街の美しさへと導き、そして人生で初めて「絵を描く」という行為に出会わせてくれました。
絵心があるわけでもなく、ただ目にした風景の感動を残したくて筆を握った日々。色に迷い、失敗しながらも、正解を求めない自由の中で、自分の感性と静かに向き合う時間が始まりました。
このエッセイは、そんなささやかな変化の記録です。自分らしさを探しているすべての人へ、ほんの少しのヒントになれば嬉しいです。
 
当たり前の日常が止まった朝に
2020年の春、突然のロックダウンで日々の通勤は止まり、ぽっかりと自由な時間が生まれました。これまでなら朝から満員電車に揺られていた時間、私はふと思い立ち、家の近くをジョギングしてみることにしたのです。
若葉が揺れ、季節の花々が咲き、水面が静かにきらめく多摩川の風景に、私は思わず足を止めました。何十年も住んでいる場所なのに、こんなにも美しい情景があったことに、なぜ今まで気づかなかったのかと驚きました。
この「気づき」を何かに残したい――。
そう思ったとき、なぜか「絵にしてみたい」と感じたのです。絵なんて、これまで描いたこともなかったのに。
 
色の中で、迷い、遊ぶ
スマホで撮った朝の風景をもとに、近所の書店でアクリル絵の具とスケッチブック、筆を買い揃えました。最初に描いたのは、川面に映る木々の影でした。
4時間かけて完成した初めての一枚は、立体感も空気感もなく、ただの“色のベタ塗り”にしか見えませんでした。でも、不思議と心は満たされていました。
なによりも夢中になったのは「色」でした。
葉っぱは緑。そう思っていたのに、写真をじっくり見ると、そこには何種類もの緑がありました。青みがかった緑、黄色が混ざった緑、光に透けた緑……。それを再現しようと絵の具を混ぜても、なかなか思い通りの色にはなりません。
ようやく近づいたかと思えば、もう一色足したくなり、結局は泥のような色に。何度も失敗しながら、私は「ちょうどいい色加減」の難しさと楽しさにのめり込んでいきました。
 
見たまま=正解? それとも……
「見たままの色を再現したい」と思って始めたはずなのに、描いていくうちに、そもそも“見たまま”って何だろう? という疑問がわいてきました。
同じ風景を見ていても、人によって感じ方も色の捉え方も異なる。写真では一色に見えても、自分の目と心で感じる色はもっと複雑で、曖昧で、時に名前すらつけられないものでした。
空の青も、水面の光も、雲の白さも、描こうとするととても難しい。でも、それが面白い。正解を描くのではなく、自分が見た“感動の形”を、ただ素直に表現してみたい――そんな気持ちに変わっていきました。
 
正解のない世界で、やっと自由になれた
コロナ期間中に時間ある時に描き続けていました。何枚か描いた頃、ふと気づきました。
この時間が、私にとってとても自由で、満たされたものになっていることに。
絵は、誰かの評価のために描くものではなく、自分の感性を映すもの。アートには正解がなく、見本通りに描かなくていい世界。どんな表現でも、それが「自分らしい」と思えればそれでいい。
私たちは、知らず知らずのうちに「正解」に寄せることを求められて生きてきた気がします。受験、就職、そして日々の仕事。社会の中で「間違えないこと」が重要視される世界で、気づけば個性や多様性よりも「同調」が優先されてきました。
でも自然は違います。
同じ緑はひとつとして存在しない。
同じ風景でも、描く人によって全く違う表現になる。
その違いが許され、面白がられる世界――そんな世界の中に、少しだけ身を置けた気がします。
 
描くことで、暮らしと自分に余白ができた
描くことを通じて、私はようやく「自分だけの視点」で物事を見て、感じ、表現することの楽しさを知りました。不器用でも、正確でなくても、自分の中にあるものを形にする行為には、癒しや解放がありました。
 
今、私の部屋の壁には、ここ数年間で描いた絵が飾られています。おそらくプロの画家が見たら、みっともないと思うような出来栄えかもしれません。けれど、私にとってはどれも愛おしい、自分の感性の記録であり、自分らしさのかけらです。そんな絵に囲まれながら、今日も一息ついています。
 
このまま、我流でもいい。描き続けていけば、いつか80歳の誕生日に、自分へのプレゼントとして小さな個展でも開けたら――。
そんな夢も、いつの間にか心に芽生えるようになりました。
正解のないキャンバスの上で、私たちはもっと自由になれるのかもしれません。
 
 
 
 
***

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2025-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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