パンツだけのつもりだったのに……
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:星空志音(ライティング・ゼミ5月コース)
「あっ、パンツ!」
ゴミ出しから帰った私が手を洗おうとした瞬間、パンツと目が合った。
「最悪だ……。なんでこのタイミングで……」
最も都合の悪いタイミングで目に飛び込んできたパンツを見て、ひとしきり絶望した。何で今なんだ。この状況を打開する最適解を必死でグルグル考える。面倒臭がりな私はいつも頭でっかちだ。考える前に行動すれば良いものを。どうしたら最も楽で早く解決できるか、頭の中でいくつか候補を考える。弾き出した中で最適解を取ったハズだった。それなのに……。
何で私はこうも面倒臭がりなのだ!
洗濯機横の隙間に置かれたビニール袋。重なり山になっている。
「しまった!」
サーっと血の気が引く。ビニールの山は登山と一緒だ。高ければ高いほど難攻不落と化す。なんせ中身は全て手洗いが必要なもの。我が家では手洗いするものは直接洗濯機に入れずビニール袋に入れるルール。そのビニール袋が想像より増えている。
すぐに理由は思い至った。前回、家族が気を利かせて洗濯してくれたのだが、その時一緒に洗い忘れたのだ。目立たない所に追いやっているから気づかなかったのもやむを得ない。私だってたまに忘れる。
さあどうしよう?
実はこの日は天狼院の課題提出の日で、まさにこの文章を仕上げなければいけない日だった。締切日という一週間で一番忙しい日。できれば洗濯は先延ばしにしたかった。
「よし! パンツだけ手洗いしよう!」
パンツの洗い替えだけが残り少なかったことを思い出し、最小限の労力で今日を乗り切るならこれしかない。今ならゴミ出しから戻って手を洗う前だ。“ついで”にパンツだけ洗えばきっとあっという間に終わってすぐに執筆に取りかかれる。
そう目論んだのだが、考えが甘かった。
すすぎ終わったパンツを絞っている時に気が付いた。手洗いだと洗濯機での脱水のように絞りきれず乾くのに時間がかかってしまうことに。朝見た天気予報を思い出す。午後から雨だ。手洗いではきっと乾き切る前に雨が降り出してしまう。
「ええい! こうなったら少量でも洗濯機を回そう!」
折角手洗いしたパンツを洗濯機に突っ込んだ。
大きな洗濯機にパンツだけ。どう見ても不釣り合い。これでは水と電気がもったいない。こうなったら“ついで”だ。明日以降に洗おうと思っていたものも思いつくままに放り込んでいく。気が付くといつもの洗濯と変わらない状況になっていた。
洗濯をすると“ついで”にやりたくなるのが、洗面台の掃除。パンツを手洗いした流れでやれば大した手間ではないので、ササっと終わらせる。
ちょうどハンドソープも切れたので詰め替える。
洗濯をすると洗面所に糸くずや髪の毛が落ちるので“ついで”に掃除機がけもするのはいつものこと。
折角手に掃除機を持っているのだ。洗面所だけに掃除機をかけるのはもったいない。“ついで”に部屋も掃除機がけをする。
掃除機がけの邪魔になるので“ついで”に布団も干す。
フローリングの足触りが気になり“ついで”に雑巾がけもする。
もうすることはないだろうと手を休める直前に思い出した食器洗い。
全てが終わったちょうどいいタイミングで洗濯機が終了のホイッスルを鳴らす。息ぴったりの洗濯機にグッジョブとエールを送ったら、サクサクと干す。
「えっ、ちょっと待って……」
忙しいからとパンツの手洗いだけで済ますつもりだったのに、気が付いたらいつも以上に家事をこなしていた。“ついで”に“ついで”が重なって気がつけばすべき事を全て終わらせていた。
パンツを洗うという小さな1つのスイッチを入れたら、全自動洗濯機さながら2つ目3つ目のスイッチは自動で押されていたのだ。全自動洗濯機で洗いとすすぎまでやったのにわざわざ脱水だけやらない人なんてほとんどいないように、人はある程度やり始めてしまったら流れでやることは大して苦ではなくなるものなのだと思う。
面倒臭がりと“ついで”は仲が良い。
家事は始める時が一番労力がいるけれども、いざ始めてしまえばこっちのものだ。むしろ途中で家事の手を止めて再びやり始める方が面倒だ。些細なことだけど、何度も手を洗う手間も省ける。手が汚れたついでに掃除機がけもやろう。雑巾がけに、トイレ掃除も。一度にやった方が効率がいい。
面倒臭がりこそ“ついで”は効力を発揮する。
パンツと目が合った時にはあんなに絶望していたはずなのに。
締切日なのに、洗濯もしなきゃ、掃除もしなきゃ、布団干しも、食器洗いも……。何個もあるスイッチに絶望していたのに。たった1つ小さなスイッチを押すだけで面倒臭がり特有の“ついで”が発揮されて全て解決してしまうなんて。
たくさんすることがありすぎて何から手をつければ良いか分からなくなり、結局何一つ出来なかったなんて日が私にもあるけれど、たくさんスイッチを押さないといけないようで、実のところ押すのは一つでいい。一度軌道に乗れば「後でやるより今“ついで”にやった方が楽だよね」という面倒臭がり精神が何とかしてくれる。
面倒臭がりで良かった。押さなければならないスイッチがある時には、一番小さくて簡単なスイッチを押してみてほしい。
パンツが全てを解決するやる気スイッチになったりするのだから。
***
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