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劇団四季『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は観客席がタイムマシンだった。

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記事:塩田健詞(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「観客席がタイムマシンだった。」今年から上演されている劇団四季『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観劇してそう思った。
 幼稚園の頃に父におすすめされ、映画の本作品を観た。ドラえもんでしかタイムマシンを知らなかった自分がデロリアンという当時に買えた車でタイムトラベルができるようになり、それを使って過去や未来を行き来する。フィクションとはわかっていても、いつかこんな未来が来るのではないかとワクワクしたことをあの映画を観るたびにその感情が湧き上がってくる。
 「さあ、“新しい”未来へ。」プロモーションムービーで2025年の春から劇団四季で上演されるとのこと。あの物語が、あんなふうに舞台化されるなんて。私は迷わずチケットを購入した。
  
 劇場に入るなりまずそのセットに驚いた。青色のレーザーが横の壁を伝い、 正面のカーテンへと延びていく。そのカーテンには本舞台の注意書きが次のように記されている。
 「上演中はスマートウォッチをシアターモードにしてください。わずかな光でもタイムトラベルに影響を及ぼします。」
 「上演中はスマートフォンの電源をお切りください。1985年にはまだ発売されていません」
 上演する前の会場だけでも、ミュージカルだからこそ感じられる作品の臨場感を味わいながら舞台が始まる。その幕開けも秀逸。2025年6月6日の東京を出発点にし、前方の画面に光るスクリーンが激しく輝きだす。強烈な光を浴びて1985年10月26日のアメリカ。まさに映画の場面へと移っていく。セットや衣装、髪型が今の時代とは合わなくなってきた。いい意味で時代遅れだ。そうか、今の瞬間私はタイムトラベルを経験したのだ。
 映画ではテレビの画面で主人公のマーティーがタイムトラベルをするのをただ眺めていた。しかし、このミュージカルでは自分がタイムスリップをしていた。劇場全体が時代を行き来するような没入感とはこのことだろう。
話は進みタイムトラベルができる車、デロリアンが現れる。マーティーがタイムトラベルをする。時代は1985年から1955年へと移り変わる。またもやセットや見た目が古くなっていく。映画での時代を複数行き来し、学校、まち、カフェ、家……。場面がたびたび切り替わり、広大な作品を舞台だけで表現することが出来ている。
  
 1955年の世界でマーティーは若い頃の父に出会う。1985年の世界で腑抜けな父は1955年でも腑抜けであることを目の当たりにする。マーティーは若い頃の母とも出会い、その子はマーティーに恋してしまう。マーティーは自分が1955年という世界に現われたことで歴史を変えてしまった。彼の兄姉たちと一緒に写っている写真を見て姿が消えていっていることを知る。マーティーはなんとかして歴史を取り戻し、彼が元いた世界へ帰らなければいけない。父と母が結ばれるように仕向けなければならない。
母に惹かれて居るが意気地がない父に対してマーティーはこんな言葉を投げかけ始める。
 「何事も為せば成る」
 この言葉は作品として重要な言葉であるのだが、これを聞いたときに私自身にも響いた。このミュージカルを観ながら私は過去に挑戦しなかったことをいくつか思い出していた。好きな子に告白をしなかったこと、留学をしなかったこと、大学院に挑戦しなかったこと、仕事での失敗……。過去に戻ってやり直したいことをいくつも頭をよぎった。結局、今の私は舞台で見ている腑抜けの父と同じだ。デロリアンというタイムマシンがあれば過去の自分には何と声をかけるのだろう。マーティーと同じ言葉を投げかけるのだろうか。
不思議なものだ。ミュージカルを観ているにも関わらず、自身への内省が強くなっていく。ここから先はネタバレになってしまうのでこれ以上は書かないことにする。
 物語は終盤を迎え、映画と同じ最後で幕を閉じる。ここで1985年のアメリカからまた2025年6月6日の世界へ戻されていく表現がなされる。約3時間の 舞台で私は2025年、1985年、1955年を経験した。しかし、それだけではない。2002年、2008年、2013年……。一体いくつのタイムトラベルをあの3時間で経験したのだろう。そうか、この作品を観ることは単なる観劇じゃなく、自分自身の過去や未来と向き合う旅だった。その意味で客席がタイムマシンだったのだろう。これが舞台の魔法なのだと感じた。
 ミュージカルはただ作品を味わうだけではない。人生の色んな場面で作品に触れると、自身のこれまでと重ねて振り返ることがよくある。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、タイムトラベルを通じて過去の振り返りをする事ができた。この体験を是非とも読者の皆様にも味わってほしい。
 
 
 
 
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2025-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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