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スマートウォッチよ、君は本当に、スマートで賢いのだろうか


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:新野佐月(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「名前、スマートじゃなかったっけ?」
私のスマートウォッチを、改めて見た。
君を初めて、疑っている。
 
 
私は、空港シャトルバスを待ち続けた。
外は真っ暗だった。フランスのホテルの前で、空港行きのバスを待つ。
このバスを逃すと、目的の飛行機を逃してしまう。
朝方、白い息を吐きながらバスを待ち続ける。
 
「それにしても、なぜバスは来ないんだろうか」
冬の欧州は、日照時間が短い、と聞いてはいた。
朝は、こんなに真っ暗で、寒いのか。
 
20分ほど待っていたところ、ホテルのスタッフに話しかけられた。
「もしかして、バスを待ってますか?」
「はい、空港行きのバスです」
 
彼女は、驚いた表情をした。
「今、何時か分かりますか?」
「朝、8時45分ですよね」
 
「私の時計だと、夜中の1時45分。もうすぐ2時になります。危ないから、ホテルに入ってください」
 
やっと状況が呑み込めてきた。
私のスマートウォッチが示していた時間は、日本時間だった。
 
時差ボケのまま、夜中に起床。
スマートウォッチの日本時間を見て、慌てて起きたら……真夜中だった。
ここで、やっと理解した。
「スマートウォッチはiphoneと違う。外国に着いたら、こちらが時間をアップデートしなければならない」
 
スマートウォッチなら、気を利かせて、自動的に時間を修正してくれるだろう、と期待していた。
「スマート」という名前なのだから……
 
 
私がスマートウォッチを疑い出したのは、このフランスの夜中のバス事件、から。
もともと、スマートウォッチを買おうと思ったのには、訳があった。
 
 
それは、スリランカ旅行だった。
トランジットで、シンガポールで短い滞在をする。
シンガポールの空港はとにかく広く、異国情緒を味わえる。
空港には、熱帯雨林にある、大きなゴムの木の植栽がある。
ミニチュア熱帯雨林に、感激していた。
ゆっくり、のんびりと、お茶をしていた。
ムっとする熱気に包まれ、薄着に着替え、私は異国を楽しんでいた。
 
 
そろそろ、時間だろう。ゲートの確認をしよう。
シンガポール空港のスタッフは、多国籍だ。
インド系の、頭にターバンを巻いたスタッフに聴いてみた。
 
「え! もうゲート閉まりますよ。走って!」
 
私は、日本時間と、シンガポールに1時間時差があることを
スッカリ忘れていた。
そんなアナウンスがあった気もするが、覚えていない。
 
 
時計を直してなかったのだ。
ジワっと、胃液が流れた。
走るしかない。
 
 
シンガポールの、チャンギ空港は、とにかく広い。
あの空港を、端から端まで実際に走った私だから、分かる。
あなたも、走れば分かる。いくら走っても、たどり着かない。
 
「アジアのハブ空港だもんね」
 
私は、猛烈に走った。
メロスよりも、走ったはずだ。
数人の人にぶつかったはずだが、謝る時間もなかった。
全力疾走。火事場のバカ力。
そして、私は首の皮一枚で、飛行機に乗れた。
 
 
もう二度と、あの苦しみは、味わいたくない。
ストレスを抱えながらの、猛ダッシュ。
寿命が縮まる、思い。
「航空券を買い直すと、10万円ぐらい飛んでいく。とにかく走れ、私」と計算しながら、疾風のごとく、ゴールを目指す。
 
 
あの時だった。スマートウォッチを買おうと思ったのは。
実は、空港で猛烈ダッシュをしたのは、初めてではなかった。
専門家に、測定してほしい。
空港でダッシュするのは、極限のストレス、だと証明されるはずだ。
 
人生で一番全力疾走したのは、香港だ。
マカオに旅行し、帰国する時だった。
 
 
マカオから、香港へ戻るボートは、満席。
旧正月を、完全に甘くみていた。
これでは、日本行の飛行機に間に合わない。
香港についたら、タクシーに長い行列ができていた。
 
 
眩暈がしそうだった。
私は、必死に知恵を絞る。
裏紙に、ボールペンで「緊急」と漢字を書く。
中国語も「緊急」という字だったのを、偶然知っていた。
焦っていたから、文字が乱れている。
 
行列の前に入れてもらえないか、一人ひとり、に
「緊急」という紙を見せ、頭を下げ、交渉した。
そして、タクシーを飛ばしてもらい……
空港では、吐きそうなほど、走った。
 
 
だから、スマートウォッチを買ったのだ。
こんな事にならない、ために。
私だって、そろそろ、学習してもいい頃だ。
 
しかし、私は、ある事に気づいた。
「スマートウォッチは、それほど、スマートではないかも」
 
 
もう、あんな極限のストレスは、避けよう。
そう決めた。
なのに、私はまた同じように、空港でダッシュする羽目になる。
 
 
関西国際空港で、沖縄行きのLCCの飛行機を待っていた。
 
「お客様、持ち物が7kgを超えています」
 
LCCの手荷物は7kgに限られる。7kgオーバーしていた私は、
荷物を、コインロッカーに入れないといけなかった。
出発まで、あと20分。
ところが、コインロッカーは、一杯だった。
ショックだ。
「余分な荷物を、全部、服のポケットに入れる、方法があります」
親切に、CAさんがアドバイスしてくれた。
ポケットにギュギュウに詰めたが、それでも、私の荷物は減らない。
 
「捨てるか、もう一つの、コインロッカーに入れるしかない」
 
私は全力疾走で、空港の端っこにあるコインロッカーまで走る。
「空いてて! 空いてて!」
そのコインロッカーは空いていた。
そして、化粧がドロドロになるほど、全力疾走する、時が来る。
 
 
空港を陸上部のように腕を90度にし、全力疾走をする。
「間に合うかな……」
 
ストレスMAX、心拍数は160位だろうか。
チラっと、左腕のスマートウォッチを見た。
私は時間を知りたかった、のだ。
なのに、スマートウォッチくんは、
 
 
「脂肪が燃えてます! その調子!」という表示をしている。
 
 
いやいや、そこじゃないんだよ、スマートくん……
励ましは嬉しいけど。
 
 
 
 
***

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2025-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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